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第2章掲載開始)夢見る乙女は、記憶をのぞく。  作者: 蝶乃 ゆゆ
第2章・夜明けをずっと待っていた。
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第3幕 ― ⑤「状況整理」

 あの後、緋彩が買ってきた朝ご飯を三人で食べた。るるさんはまだ仕事が残っているからと、家を出ていったものの、夜になってもるるさんが帰ってくることはない。なので緋彩と必然的に二人で食卓を囲んでいた。

 夜ご飯を食べ終わると座って休んでいて、という気遣いをしてくれた緋彩は、キッチンで洗い物をしてくれていた。じゃーっと水が流れる音を聞きながら、私は慣れた手つきでDCSを起動させる。


 今の自分自身の現状を含め、頭の中を整理を始めた。



(仮にNorthPoleへと応援要請を出しても、それが受理される可能性は低いわよね)



 考えをきちんと言葉にすると、思わず眉がぎゅっと寄り、不服の色が滲む。


 数少ない連絡先をツイツイとスクロールしながら、頼れそうな人を探してみるが、結果はご覧の通り。連絡先を交換するだけしておいて、メッセージのやり取りをする訳もなく、未読のまま放置しているものが多い。普段から人付き合いは苦手だったし、雑だったことをこれほど後悔したことはあるだろうか。

 私は不服の感情を隠すことなく、頬杖を着きながらぼうっと画面を眺めていた。



「人望、薄……」



 NorthPoleは、対Reliefのために作られた特殊部隊だ。その中でも第五班が作られた経緯は、実験的なものだった背景をふいに思い出していた。


 第五班の班員は元々、他の班で問題を起こしたことのある人達を集め、移動してきた人たちの集まり。上層部は解雇するには惜しい理由があるので、聖奈さんという強力なユニークマジックを利用し、能力を上手く活かす為に作られた実験的な班。

 故に、聖奈さんが対応しきれない問題が起こった際は、容赦なくNorthPoleからは簡単に切り捨てられる。



(仮に四乃や景がいたとしても……応援要請が通るのはずっと先のことだと思うわ)



 NorthPoleにとって、二人の実力はなくすに惜しい。


 四乃は高い戦力を持つ魔法使い。

 攻撃も治癒も得意とする魔法使いは数少なく、性格に難があったも目をつぶれるぐらい優秀な人材。ユニークマジックも汎用性が高く、戦闘面でも大変頼りになる。


 景は情報課の要だ。

 圧倒的な情報収集能力の高さに、冷静な分析能力。あんなちゃらちゃらしていても、景は情報課で最も優秀な存在だ。戦闘能力が低いものの、加護や闇属性の魔法は大変重宝される。


 仮に応援要請が通ったとしても、他の班員は無理に救出せず、建物ごと燃やして証拠隠滅を図りかねない。

 私も私で、第五班という居場所がなくなれば、どういう扱いになるのか分かったものじゃない。四乃を手放したくない上層部は、私をどこかの班に入れられるだろうけど、その扱いは酷いものだと容易く想像がついた。



(今のNorthPoleは統率が取れていないからこそ、想像が出来ない)



 Reliefの動画公開事件によって、ただでさえ暗雲が立ち込めていた現場がより暗いものへと変化した。何人か自主退職したと聞いたし、班によっては統率が取れずにぐちゃぐちゃ。

 こういう時、頭のねじが外れているというか、良くも悪くも周りに流されない第五班だけが統率を取れていた。だからこそ狙われたのかもしれないけども。



(るるさんは一週間ぐらいは安静って言ってたけど、三日ぐらいで回復を図ってみせる)



 DCSの電源を落とし、これからの道筋を立てるようにふぅと短く息を吐いた。考えることも、やらなきゃ行けないことも山ずみというのはまさにこのことだろう。


 ふと顔をあげると、じっとこちらを見つめる視線に遅れて気づく。



「考え事、終わった?」



 こてんと首を傾げ、眉が自然と緩み、唇にはかすかな笑みが見える。僅かな熱を孕んだ白瞳がじっとこちらを見つめていた。が、私は声をかけられるまで、全く気づくことが出来なかった。


 そしてひらひらと湯気が漂っていた二つのコップが、前に置かれる。私はその湯気に目を細め、鼻腔にコーヒーの香ばしい匂いが漂うのを感じた。その中には独特な甘さを持つ、ミルクようなこっとりとした匂いも混じっていた。



「えぇ。……というか、いつから見てたのよ」


「んーん、人望の無さに嘆いとったとこからかいな?」


「それ、ほとんど初めっからじゃない」



 唇をつんと尖らせて、私は恥ずかしさを隠すのに必死だった。緋彩はいたずらっぽく私をいじるので、その恥ずかしさは加速するばかりだった。


 緋彩は置いてある片方のコップを手に取ると、くいっと私の前へと持ってくる。無機質な真っ白のコップの上からは、室内灯の光によって、ゆらゆらと揺らめく湯気。



「一息つけそう?美味しなるおまじないつきのコーヒーやわぁ」


「頂くわ」



 私は緋彩の善意に甘え、コップを手に取る。ふーふーと短く息を吐き、コップの縁を冷やして口の中に運んだ。

 ほっと温まるような優しさと、舌の上でギュッと締まる感覚。ナッツのような香ばしさが鼻を通り、曇っていた頭が冷めていくようだった。



「……美味しい」


「本当!?」


「えぇ、びっくりしちゃったわ」



 拍手を送りたくなるほど、美味しいコーヒーだった。

 ゆらゆらと揺らすと、半透明の茶色が柔らかく煌めく。コップから伝わる熱も、自然と体の中へと入っていく。



(料理は出来ないっぽいのに……)



 今朝の事料理事件が、脳裏をちらついた。

 鼻につく焼け焦げた異臭に、黒く光る謎の物体。壊滅的な料理センスの無さに、正直驚かなかったといえば嘘になる。コーヒーは繊細な飲みものだから、こんなに上手にいれられるなんて、驚きという言葉が真っ先に出てきてしまう。

 緋彩の新しい一面、を見れたような気がして、どこか心が弾んでいた。



「こら教えてもろうたさかい、結構得意やねん」


「コーヒーの入れ方を?」


「うん。一人、すっごいカフェイン好きな人がおってね。紅茶に珈琲、カップを使うて飲むようなお茶がえらい好きで、よう買い物にも付き合わされたりしたんや」



 ゆっくりと瞼を伏せ、ゆるりと口角が上がる。緋彩はいつも、おっとりとした喋り方をする。そこに僅かな寂しさと、息苦しさを感じさせるような声色だった。

 だけどその仕草に思わず眉が寄り、唇に微かな切なさが滲む。



(前話した時も、似たような感じだった気がする)



 いつも過去について触れる時、緋彩はどこか、私じゃない私を見ているような気がした。私に話しているはずなのに、誰かを思い浮かべて喋っている。そんな感じだった。

 だからきっと、今も私を通して別の誰かを見ているんだろうと、想像が着いてしまった。その感覚に、鼻筋がつんと締まる。



「そのコーヒーも、さっき買うてきたんや。久しぶりに入れたさかい不安やったけど、美味しいなら良かったぁ」



 声が弾むように響き、ぽっと口角が上がって優しく笑う。しなやかとか、ふんわりとか、ゆったりとした笑い方につられるように私の眉も緩んでいた。唇には温かな笑みが浮かんでいたけど、何故かその笑顔に儚い影を感じた。そして、それとほとんど同時に意味もわからず、胸がちくりと痛んだ。



「……えぇ、ありがとう」



 いつの間にか距離が空いてしまったような気がして、私はぶっきらぼうに感謝を伝えていた。無意識に出てきた少しトーンの下がった声に、くらくらと目眩がする。素直に感謝の言葉を伝えたいのに、どうしてか真っ直ぐに向き合えなかった。

 だけど、緋彩はそんな空気を作るのが上手かった。



(いつになっても、踏み込める気がしないわ)



 私たちはそれぞれ近いような気がして、すごく遠い。

 人と仲良くなるためには、まず自分のことから話すのが良い。って四乃から教えて貰ったけど、それを一度実行したものの、見事失敗に終わっている。とはいえ、誰にも話せないことが多いのもまた事実だ。

 だけど、もう境界線が生まれてしまっていた。

 お互い大事な部分は探り合わない、この独特な距離感。これ以上は踏み込まないで、という暗黙の了解に近いものが出来上がってきていた。



「そういうたら何考えとったん? 眉間に皺がよっとった」


「え、あぁ……使えそうな情報を必死に思い出してたのよ。みんなを助けに行くって言っても、ちゃんと状況整理しなきゃ何も出来ないもの」



 ぼうっとお互いの距離感について考えていたので、緋彩の問いかけに少し遅れて答える。緋彩は感心したように、こくこくと頷いて同意を示してくれた。



「確かにそうやな。そやけど、お姉さんがおった班って他にどないな人がおるん? オレ、ほとんど事情知らへんさかい」



 確かにその通りだ。これから一緒に助けに行くと言うのに、情報を開示しない手はない。

 私はDCSを起動させると、写真フォルダをクリックした。そして、第五班全員で無理やり取られた集合写真を表示し、緋彩に見えるようにくるりと画面を回転させる。



「んー、そうね。今建物内に残っているのは、聖奈さんを含めてこの三人だと思うわ」



閲覧ありがとうございました。

気に入って頂けたら是非、ブックマークを宜しく御願い致します。

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