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第2章掲載開始)夢見る乙女は、記憶をのぞく。  作者: 蝶乃 ゆゆ
第2章・夜明けをずっと待っていた。
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第3幕 ― ④「合格だから」





 るるさんが呪文を唱えた瞬間、触れていた指先を起点にして眩い光が私を包み込む。

 静電気が走るように、びりりとした衝撃が全身を巡る。まるで体に温かい何かが入り込んでくるみたいで、痺れたようにぶるりと体が震えた。


 死んだら、全部終わり。

 冷たくなって、何も喋れなくなる。それが私の想像している死だったのに、起きてることは真逆だった。


 いつの間にか強ばっていたはずの力が抜け、私の体は大きく傾いていた。ぴしゃりと冷たくなった血溜まりに、体と杖が落ちる音が響く。汚れた頬は冷たく、雲がかかっていたはずの頭が、ゆっくりとクリアになっていった。



「んへへ、効いてきたぁ?」



 るるさんは上体を起こすと、横になっている私の顔を覗き込むように、軽く小首を傾げた。


 だけどふわりふわりと靡いていた柔らかな髪は、いつの間にか水分を含んで赤く染まっている。そして、その僅かな隙間から覗く紫紺の瞳は、何故だか光を帯びていた。



「るるのユニークマジックはねぇ、どんな状態でも生きてさえ入れば治せるんだよぉ。なんならぁ、前よりも丈夫になれちゃうかもぉ」



 言葉の意味がいまいち理解できず、私は何度もぱちぱちとまばたきを繰り返していた。ゆっくりとるるさんが伝えた言葉と状況を整理していくと、私は自然と口が動いていた。



「……それは助けた、ってことですか?」


「おねぇさんは合格だからぁ」



 微かに唇が開き、へらりと曖昧に笑う。

 それは、さっきまで見せていた笑い方とはどれも違って、初めて会った時のものにそっくりだった。


 だけどるるさんの返事は、私の問いに対して答えになってない。

 言葉の意味が理解出来ずに、ぱちぱちと瞬きを繰り返しながら、るるさんのことをじっと見つめていた。視線に気づいたるるさんは、またふわりと曖昧に笑う。

 さっき見せていた気持ち悪い笑い方じゃなくて、何も悪意のない純粋なものに見えるものを。



「言葉通りの意味だよぉ? 実力を確認してぇ、邪魔にならないか確認したのぉ」



 杖を取ると、反対の手をこちらに向けてそっと伸ばした。どこにも行き先がなかった私の手に自分自身の指先をそっと重ね、その上に杖先をかざす。じゃらじゃらと装飾が擦れる音を鳴らす。るるさんは杖に魔力を込め、呪文を唱えた。



「【トゥランスフォルマティオ】」



 杖から零れたきらきらと煌めく星々は、私とるるさんのの身体を包み込む。血だらけになった服は綺麗に戻っていて、荒れていた現場は元に戻っていた。


 本来変身魔法は、主に服装を変えるもの。唱えた呪文は同じはずなのに、イマジネーションの力で、変えられる範囲を超えていた。



(これが魔法学会、虹橋の魔女……)



 あまりにも規格外過ぎる魔力量と、完成され尽くした精度は、今まで見たことがない。特に虹橋の魔女は歳が近い女性の魔女、という情報を知っていたからこそ、その才能が生み出す実力差に開いた口が塞がらない。


 るるさんが如何に手加減していたのか考えるには、十分すぎる情報だった。



「るるねぇ、昨日すっごく考えたんだぁ」



 るるさんは突然口を開くと、杖を持ち運び用のサイズに戻す。るるさんは服の裾をひょいっと持ち上げて、太ももに括りつけているベルトに差し込んだ。


 そっと私の方へと身を乗り出し、床に手をつく。四つん這いのような形になって、その掴めない雰囲気が自然と狂気を生み出していた。



「けーくんを殺したくないっていうのは本音だけどぉ、簡単にやられちゃうようなら、邪魔だなぁって」



 私に向けられたのは、純粋な好意からくる狂気。

 そこに、嫉妬や嫌悪といった醜い感情なんかはなくて、ただただ純粋な好意からくるものだ。るるさんにとって景以外の人はいらない人間で、邪魔になるなら消すという考え方。だけど、それは異常な程に重たく息苦しいもの。


 ふいに景が言っていた言葉が、頭に浮かんでくる。



(可愛くてもあのコを彼女にするとか、趣味が悪すぎるんで。……だっけ)



 ふわふわとした記憶は、いつの間にか鮮明に浮かんできていた。見ていなかったはずの表情も、仕草もはっきりと思い出す。


 まだるるさんと会話した数も少ないし、一緒にいた時間も短い。だけど向けられた魔法から伝わる、純粋な狂気というものは景の言葉を嫌でも理解させられる。静止する人がいないと、これほど厄介なものなんだと。

 見た目や振る舞いだけじゃ、分からない。るるさんの行動理念が嫌でも理解させられた。



「だからぁ、るるがおねぇさんの器を治すだけじゃなくて強くしてあげよぉって思ったんだぁ。その方が、きっとけーくんも喜ぶはずだからぁ」



 全部、その人が喜ぶことだと思ってその行動をする。その人じゃない時に襲いかかって来る恐怖なんて、知りたくなかった。


 だけど、僅かな好奇心で口が開く。



「……合格していなかったら、私を殺してましたか?」



 意図せず出てしまった言葉は、既に時遅い。

 るるさんはこてんと首を傾げ、じっと私を見つめた。そこに光はなく、視線はこちらに向いているはずなのに、目が合わない。どこを見ているのか分からなくなるような、錯覚を覚えさせる。曖昧という表現が、これほどしっくり来るよう人は居ない。



「そんなの、殺すに決まってるよぉ」



 冷たい視線と、鋭い言葉は逃げたいのに逃げられなかった。


 るるさんの瞳は、闇を宿したアメジストみたいでどんよりとした深い沼。だけどその行動理念はずっと真っ直ぐで、純粋な感情。だけど危うい刃。向けられたことがあるからこそ、よく知っていて、強い恐怖を覚えるのだ。


 その逸脱した狂気は、敵になるとどれだけ恐ろしいのだろうか。



(忘れていたんじゃない、気付きたくなかったんだ)



 言葉も伝わらない、実力で押さえ付けられる。無垢な感情ほど、恐ろしい狂気はないのだから。



「それじゃあ改めて――魔法学会第十一席目・虹橋の魔女、梓澤るるだよぉ」



 すっと伸びてきた左手は、一件すらりと細くてしなやかに見える。だけど、ひらりと舞った服の裾から覗く手首には、たくさんの傷跡と痣はるるさんの全てを物語っていた。


 私はるるさんを真似るように、手を差し出した。



「NorthPole第五班所属・千鈴月乙女、です」



 しゃらりと耳元につけているピアスが音を鳴らす。金具が擦れて、中に入っている砂が揺れて私にしか聞こえないぐらい小さなことを奏でる。

 向けられた狂気から無意識に連想させたのか、自然と彼を思い出させた。



(……四乃は、どんな気持ちだったんだろう)

 


 るるさんと四乃は違う人物なのに、自然と顔を上げてはるるさんの表情を伺っていた。

 だから上機嫌に、にこやかと笑っていたるるさんを見ても、少しだけ怖くない気がした。



るるちゃんを客観的に見る分には好きなのですが、納得する形へと落とし込むのに時間がかかり、鬼遅更新の上に短め文章となりました。私自身の体調不良も相まって、申し訳ないです。

インフルエンザを始めとした風邪が大変流行っていますので、お気をつけて過ごしてください。


閲覧ありがとうございました。

気に入って頂けたら是非、ブックマークを宜しく御願い致します。

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