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第2章掲載開始)夢見る乙女は、記憶をのぞく。  作者: 蝶乃 ゆゆ
第2章・夜明けをずっと待っていた。
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第3幕 ― ③「忘れていた道標」

 キラキラと黄緑色の魔法石が強い輝きを持ち始め、辺りの魔力が全て吸い込まれるように力を増していく。空気中に漂うなにものでもない魔力も、全部るるさんの魔法として構築されるピースになる。


 るるさんは魔法に愛されていた。


 まるで自分を使ってくださいと魔力が言ってるように、自らの意思でるるさんの力へと変化されていく。

 空気中に漂う魔力を吸い込み、自分自身の魔法に変換していく。空気中に漂う魔力を強制的に従わせるような四乃の魔法とは全く違うもの。

 まるで、自らの意思で従っているようだった。



(何もしなければ……確実に、死ぬ)



 魔力を持つ人なら誰だって分かる、絶対的な力がそこにあった。首元に集中する魔力に気圧され、ひゅっと短く喉が鳴る。



「安心してぇ? ちゃーんと、殺してあげるからぁ」



 私は向けられた殺気に対し、反射的に袖を振って杖を取り出そうとする。が、それすら全部見透かしていたかのように、るるさんの手がするりと顎の下へと入り込んだ。そして、勢いよく上を向かせるように持ちあげる。


 深い闇を混ぜた紫紺の瞳が、ただただじっと見つめた。



「器、壊れちゃうよぉ?」


「……っ!」



 そんな警告に思わず動きが一瞬止まり、僅かな隙が生まれる。るるさんは決して見逃さず、頬に手を添えて首元を露出させるように引っ張った。杖先が強く首元に食い込むと、込められていた魔力が魔法という形に変化する。



「グラメン・フロス=アブッスィー」



 次の瞬間、首元にちくりとした小さな痛みが走った。

 注射器のように入れられた熱何かは、皮膚を突き破り、みみずがうねうねと地面を這うように、内側へと入り込む。じくじくと僅かな熱を帯びる何かは、異様な気持ち悪さを感じさせる。


 るるさんはぱっと両手をあげて、私の拘束を解くた。急に支えを失った体は重力に抗うことなく、大きく傾く。慌てて足に力を入れて立ち直そうとするが、頭がふわふわとしていて、独特の浮遊感に体が上手くついていかない。



(……力が入らない)



 まるで体の端からゆっくりと痺れて、体の支配権を奪われていくみたいだった。急に力が抜けたからか、突然がくんっと膝が曲がる。だけど踏ん張るための力が上手く入らず、そのまま身を委ねるしかなかった。どう転ぶか分からない恐怖に、きゅっと目をつぶる。が、膝から崩れ落ちるように床へ座り込んだことで、思ったよりもずっと痛みはなかった。

 ふわふわと夢現に近い頭で、状況を必死に飲み込もうと、ぱちぱちとまばたきを繰り返す。



「今撃ち込んだ魔法はねぇ、脳がどんどんと麻痺して、最終的には死んじゃう毒なんだぁ」



 くすりと、鈴を転がしたみたいに軽やかな笑い声が聞こえた。

 肩を杖先でぐいっと押し、私の体を傾ける。脛を床にぺたっとつけ、横向きになったその姿勢は、さっきよりも体が低く安定した体勢だった。


 ちかちかと星が瞬く中、るるさんは一歩一歩噛み締めるようにゆっくりと歩く。



「るるねぇ、けーくんが大好きなのぉ。だからぁ、危険なことに巻き込むNorthPoleも、一緒に働いてる人もだーいっきらい」



 光が映らない瞳が、じっと動けなくなった私を見る。冷徹で、残酷、命を尊ぶ気持ちすらそこには無い真っ黒。自分自身の目的の為だけに行動するその忠実さは、噎せ返るほど気持ちが悪かった。

 そして、ふと何かを思い出したように、ぱちんと手をたたいた。



「……あっ。そうだぁ、ひーくんも殺さないとぉ」



 こてんと首を傾げて、名案でしょと言いたげなほど自信の色を帯びていた声色。遠足に行く子供のようにわくわくとした様子のるるさんとは反対に、私の頭はどんどんとクリアになっていった。


 頭はふわふわとした浮遊感に包まれて、上手く動かなかったはずなのに、るるさんの甘ったるい声だけを拾い上げて耳に届く。雑音を掻き消すように、はっきりと、鮮明に。目を逸らしたくなるような言葉が、次々に刃の形になって、私の頭の中へと飛んでくるのだ。



「まだNorthPoleの人じゃないみたいだけどぉ……白瞳の吸血鬼を生かし続けるのに、なーんのメリットもないしぃ。これからやらなきゃいけないこと、の弊害になる可能性の方もずぅっと高そうだもん」



 緋彩の実力は、よく知っている。

 規格外の発想がもたらす魔法は、誰よりも負けない力を持っている。けど、それはあくまでも単純な戦いであり、るるさんが今から仕掛けようとしているのは殺し合いだ。



(緋彩は、確実に殺される)



 相手を殺し、自分自身が生き残れるかどうかは、単純な魔力量や技術だけで決まるものじゃない。

 何度Snowdropと対峙しても、緋彩は相手を相手を殺さず、制圧し、捕獲する。これは単純な殺し合いよりもずっと難しく、実力差があったからこその結果だ。



(……だけど、るるさんにはそれが通じない)



 決して緋彩が劣っているわけじゃない。だけど、その優しさは短所でもあり、長所。るるさんが持ち込もうとしている殺し合いにおいて、緋彩の優しさは大きなハンデになってしまうのだ。



「安心してぇ? すぐに二人仲良く、天国に送ってあげるからぁ」



 るるさんの瞳がすっと細まって、緩やかな弧を描く。きゅっと上がった口角も、僅かに色付く桃色の頬も、可愛らしい笑顔なはずなのに、今の状況とはどう考えても結び付かなかった。



(笑顔の裏に隠されている狂気が……凄く怖い)



 このまま何もしなければ、きっと私は楽に死ねる。痛みもなく、全身が動かなくなっていく感覚だけ覚えて、ゆっくりと、死んでいく。



(……でも、その後はどうなるの)



 NorthPoleで、私を命懸けで逃がしてくれた四乃や景を、あのまま放置していいわけない。それに、何かに取り憑かれていたように変わってしまった、原因を放置しておく訳にもいかない。買い物へ行ってる緋彩だって、戻ってきたらるるさんに殺される。


 独りだったら、どれほど良かっただろうか。


 自分自身の犠牲だけで済むのなら、それが一番よかった。誰にも迷惑をかけずに、静かになかったことになるなら、それが良かった。だけど私の死は、一本の糸が繋がっているように、緋彩、四乃、景と芋づる式に巻き込まれていく。



(だけど、体は動かない……)



 私は何も出来ない無力感を戒めるように、きゅっと唇を噛み締めると、周りの景色を直視したくなくて俯いていた。


 ふと、短くなった黒髪がさらりと靡く。この間の一件で短くなってしまった髪は、かつて色付いた頬を撫でた。



『お姉さん、可愛なったなぁ』



 昔から切るタイミングを伸ばし続けた長い髪は、忘がたい重さがあったが、自分自身が変わるようにばっかりと落ちていった。だけど、すぐには変わった自分になれなくて、どこか慣れなかった。

 だからどこかくすぐったくて、恥ずかしくて。そんな曖昧な私を肯定するみたいに、緋彩は可愛いって素直に言ってくれた。



『お姉さんを絶対に見捨てたりしいひん! 絶対に助けるんや!!』



 どんなに不利な状況になっても、緋彩は私を見捨てなかった。緋彩には緋彩のやることがあって、私を置いていく方が、賢明な選択だったはずなのに。

 それぞれ背負ってるものを天秤にかけて、自分自身にとって利益な選択をし続ける人間。それしか知らなかったのに、緋彩は私が今まで知ってる誰よりも優しくて勇敢な人だった。絶対に、見捨てたりしなかった。



(……私が先に、緋彩を見捨ててどうするのよっ)



 私はゆっくりと顔を上げ、るるさんの姿を捉えるとこめかみがギュッと寄る。眉尻が上がり、震える唇が自然と言葉を紡いでいた。



「……させ、ない」


「ん?」


「緋彩を……緋彩を殺させは、しない」



 私の決心は、もう揺るがない。

 体の先は力が入らなくて上手く動かせないけど、私はゆっくりと自分自身の体を確かめるように、一つ一つ丁寧に動かしていく。



(まだ、動く)



 紡ぎあげたその決意は、私の体を動かす原動力へと変化していく。時間をかけて、握りしめた拳に力が加わり、立ち上がるための手助けに変わっていく。だけどるるさんは、そんな反抗的な態度が気に食わない、と言いたげな様子ですっと目が細まる。



「……なにそれ」



 さっきよりもずっと冷たく、厳しい声色が刃となって私に突き刺さる。るるさんは私が更に体を動かそうと力を込める前に、杖先を迷わず私の腹部に向けた。



「グラメン・フェルルム」



 目にも止まらぬ速さで、杖先から棘が刃のように鋭く、曲線を描いて作られていく。ひゅっと短い音を鳴らして、飛んでくる魔法は、迷うことなく私の右腹部を切りつけた。



「グラメン・フェルルム」



 私の体が傾く前に、私が痛みを訴える前に、るるさんは間髪入れずに再度魔法を紡ぐ。左腹部に飛んできた魔法は、ぷしゃりと血飛沫を上げて、私の視界を染めていく。



(口の中が気持ち悪い)



 噎せ返るほど甘ったるさの混じる鉄の味が広がり、ばくばくと心臓が大きな音を奏でる。頭にまで響くその音は、ウイルスみたいに全身に広がって、くらくらとした目眩を引き起こした。



「グラメン・フェルルム」



 無情にも次々と創造されていく魔法に、私は何も抵抗出来なかった。魔法が当たれば、傷口から血が吹き出して、頬を汚す。空気を取り込もうと呼吸をすれば、生々しい鉄の匂いが鼻腔に張り付く。


 一度できた傷を抉るように、再度右腹部に向けて魔法が飛んできた。呼吸が出来なくなってしまうとは、まさにこのことなんだろう。はくはくと必死に呼吸をしようとするのに、胸が何かにつっかえて上手く酸素を取り込めない。


 私は左腕を下敷きにして、その場に倒れ込んだ。頬に触れた生温いものは、池みたいに広がっていく。私のものなのに、どこか生きているように感じさせた。

 ぴしゃりと跳ねた血が、るるさんの頬を汚す。るるさんは頬に指先を当てると、血痕を縦に伸ばすように拭った。



「……あっ、いっけなーい! やりすぎちゃったぁ」



 まるで何かに、取り憑かれていたようだった。さっきまで、連発して魔法を紡ぎ続けていたるるさんとは違って、いつものふわふわとした掴めない振る舞いに戻る。

 

 るるさんは開いた距離を近づけるように、ぺちゃりぺちゃりと生温い池を一歩ずつ、音を鳴らして歩いた。時計の針が音を鳴らすように、一定のリズムで変わらずに歩き続ける。

 るるさんは私の前まで来ると、そっとしゃがみこんで私の顔を覗き込んだ。



「でも、るるのやーさしぃ好意を無下にしたのは、おねぇさんだよぉ? わざわざ痛くないように、殺してあげようと思ったのにぃ」



 こてんと首を傾げ、寧ろ私の方が間違ってると言いたげな表情は、非情な言葉とは逆に無垢で真っ直ぐなものだった。


 私の知ってる敵意は、大体鋭く刺すようなものか、じわっとしたもの。だけど、るるさんのそれは私の知ってるものとはどれも違っていて、気持ちが悪い。

 詠唱スピードも、魔法に対しての魔力の込め方も。どれもありえないほど連発で、安定して紡ぎ続けるその精神力は、一体どこから生み出されているのだろうか。



(……でも感情だけじゃ、何も出来ない)



 杖は服の袖に収納してあるから、軽く手を振ることで取り出すことが出来る。

 だけど魔法を使えば、るるさんの言う通り器が壊れる。二度と魔法が使えなくなるという代償は、あまりにも怖い未来で、確実にるるさんを止められる確信がない状況では、どこか踏ん切りがつかなかった。



(るるさんに勝てる一手が、見えない)



 特に風属性は、自分自身が有利に働く状況を作り出して戦う戦術を得意とする。広い場所でこそ本領を発揮出来るが、狭い場所では確実な一手を生み出すのは難しい。

 いや、魔法を使うという行為自体が無意味な手にすら思えた。



「せっかく痛くないよう殺してあげようと、思ったのにぃ……るるのやーさしい好意を無下にされたみたいで残念だよぉ」



 体の端から、じんわりと冷えていく。微かに動かすことは出来るけど、強い力を込めることは難しい。一つ一つのパーツなら簡単なのだろうが、全体を一度に動かすことは難しい。

 全身を包む赤い血は、もう死ぬのだろうと思うには十分だった。



(それに、この状況を助けてくれる人は……誰も、いないから)



 どんなピンチであっても、全てを無にしてしまう、異端の天才児である四乃も。

 周りが良く見えていて、サポート能力に長けている景も。

 いつだってピンチの時は私の意見を尊重しつつ、救いあげてくれた緋彩も。


 どれだけ感情や気持ちが動いたって、体が使い物にならなければ、何も出来ないのが嫌でも分かってしまう。これからの道標も、なにも見えない。



「でもぉ、るるも悪かったよねぇ。楽に殺してあげるのが、るるの善行だったのにぃ。……これじゃあるるは神様に認めて貰えないよぉ」



 頬に手を当てて考え込む姿に、近くの窓から差し込む光が背にそっと伸びる。体から熱が抜けていく感覚が、ゆっくりと思考力を奪っていく。だけど、自然とるるさんの姿は捉えていた。

 頬に手を当てて考え込む姿に、近くの窓から差し込む光が背にそっと伸びる。それは後光が差している神様みたいにも思えたが、向けられた非情な言葉とはどう考えても結びつかない。



(何も……見たく、無い)



 非情な現実から目を逸らすように、僅かに身を捩ると、何故か反射的にきゅっと目を閉じていた。だけど体勢を僅かに変えたからだろうか、目を直接刺激するように、何かの光が私の瞳を射た。僅かに瞳を開けて、その正体を無意識に探っていた。


 だから反射していた原因を見つけると、自然と口元が綻ぶ。


 乾ききった唇が微かに開き、冷たい空気が胸の中へ入ってくる。呼吸をするのが苦しかったはずなのに、自然と痛みは感じなかった。



「あっ、でもでも! このまま出血多量で死んじゃうより、即死させてあげた方が楽だよね? 痛みもすぐに飛んでいっちゃうしっ」



 頭までどんどんと太鼓を鳴らすように響き続ける心臓の音は、痛みが引き起こしたものなのか、緊張からくるもなのか分からない。地面に滴る血は、私だけのものとは思えないほど濡れていて、動く度にくらくらとした目眩を引き起こす。



「るる、ちょー冴えてるかもぉ。名案ってやつだよぉ!」



 ただチャンスは一回きりであり、失敗したらもう私に後はないという事実が、自然と胸を昂らせていた。



「るるが天国へ送ってあげる」



 私の額をぐいっと持ち上げるように、るるさんは杖先を強く押し当てる。紫紺の双眼は、真っ直ぐに、残酷に、私の姿を捉えていた。


――私はずっと、独りだった。

 僅かに体を動かし、一つ一つの指関節が動くことを確認するように、丁寧に動いていく。こう動こうという結果ではなく、それぞれの関節を意識して動かすのだ。

 自分自身だけの力じゃ足りないのを自覚してるからこそ、力の正しい使い方を学んだ。


――私は、よく知っている。

 下を向き続けると、目の前にある大事なことも、全部無くなってしまうということを。だから、私は相手から目を逸らさない。どれだけ強い相手であっても、諦めたら未来の可能性を潰してしまうから。

 だから私は、明るい未来を呼び込むために、自信たっぷりに笑うのだ。ゆったりと綻ぶ唇は自信の色を滲ませ、相手を捉えた瞳はきらきらとした未来への道筋を描く。

 勝利の女神は、笑っているものに微笑む。



「……そんなところ、行けないわ」



 私は身を捩ったフリをして、ちょっとずつ動かしていた指輪を、親指で弾く。指の第一関節辺りまで動かしていた指輪は、鋭いスピードで迷うことなくるるさんの元へ飛んで行った。


 きらりと輝くシルバーの指輪は、傍から見たらただのアクセサリーだけど、本質は違う。



「なにっ……!?」



 るるさんは突然飛んできた指輪から身を守るように、顔を背けて腕で覆う。だけど指輪がるるさんに触れた瞬間、身体がぐらりと揺れた。床一面に広がっている血は、るるさんの体が傾き、尻もちをついたことで血飛沫がまた舞い上がる。



(これは、今の私が使える唯一の魔法だ!)



 魔呪具は、私のようなユニークマジックを持たない普通の人間が触れれば、魔呪具本体が持つ呪いの効果を少なからず受ける。


 この指輪の魔呪具を私が使えば、記憶をのぞけるという効果を持つが、それはあくまでも結果だ。

 記憶をのぞく過程は、沢山の情報量に押しつぶされてしまうほど、頭が痛くなるもの。そして、記憶をのぞく対象者は私という術者がいて初めて成立する。故に普通の人がこの魔呪具に触れれば、自身の根強く残っている記憶が脳内へと流れ込む仕組み。まるでせき止められていたダムから、一気に水が流れ込むように、激しい音を立てて自分自身の中へと入り込むのだ。


 るるさんは指輪によって、大量の記憶が流れ込んでいるのだろう。からんと指先から離れた杖は音を鳴らし、目を細めて、頭のこめかみ部分をぐっと抑えていた。


 一度に流れ込んでくる情報量というのは頭が割れそうなほど苦しいもの。単純な効果であるこの指輪が、呪いだと人々から蔑まれ、魔呪具と呼ばれるようになったことにも納得がいく。



(ごめんなさい。でも、今だけはその呪いを誤った方法で使わせて)



 私は右手を床にグイッと押し当てて、身を起こす。下敷きになっていた左手は、迷うことなくるるさんの杖を取った。ふらりふらりと視界が歪む中、指先は細かく震え続ける。るるさんの上に被さるように倒れ込んだ。



(魔法学会の魔女に勝てるなんて、今の私には難しいと思うし、るるさんの言いたいことが分からない訳でもない)



 震える指先は、簡単に杖が抜けないようにギュッと拳を作るように握って、首元に杖先を突きつけた。


 るるさんは状況が掴めないのか、幾度となく光を映さない紫紺の瞳は、ぱちぱちと何度もまばたきを繰り返していた。



「これで、どうかしら?」



 私は今まで独りで戦ってきた。

 その手段や考え方が自然と覚えていて、打開策を見つけ出した。身についた癖とか、習慣はなかなか抜けないのと同じように、私はちゃんと独りでも戦える術を覚えていた結果だった。


 るるさんは杖を握っている右手をちらりと確認するように見ると、ゆったりと薄桃色の唇が形を歪める。



「殺せるの? るるのこと」



 まるで、私の心を見透かしたような言葉だった。

 どきんと心臓が跳ね、全身の血液が沸騰するように体が熱を持つ。そして、視界がぼんやりと歪んでいく。



「おねぇさん、人を殺したことないでしょ?」



 両手で杖を握り直し、震える指先を必死に隠そうとしたが、全部無駄みたいだった。

 るるさんは私の指先に、自分自身の手を重ねる。柔らかな温もりと、べったりとした冷たい殺意。赤く染った私の手は、一体何をしたかったのか分からない。


 ただ、動かなくなっていく頭で分かったのは、これから死ぬんだろうな。ってことだけだった。


 何を考えているか分からないるるさんの瞳は、私を見ているはずなのに、私を見てない。だけど自信の色を帯びたその姿は、これから訪れる未来を容易く想像させた。



「るるのユニークマジック、見せてあげる」



 ユニークマジックは術者の数だけ存在し、無限の可能性を秘めているのと同時に、一般的な魔法の概念はそこに存在しない。


 気付いたとしても、何も出来なかった。

 触れた手は振り解くことも出来ず、るるさんの指先がそっと距離を詰めていく。腕を伝って、顎をなぞり、私の首元にちょこんと触れた。



「――【ウィタ・メア】」



体調不良が重なり、書けない日が続いていました。申し訳ありません。

また今回は、いつもよりも少し長めになっています。


閲覧ありがとうございます。

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