表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第2章掲載開始)夢見る乙女は、記憶をのぞく。  作者: 蝶乃 ゆゆ
第2章・夜明けをずっと待っていた。
31/48

第1幕 ― ⑥「初めて見た幽霊」

「ははっ、違いますよー。あのコは世にも珍しい悪賜持ちなだけです」



 私は身を乗り出す勢いで景へと問いかけたが、焦りを露わにする私とは対照的に、景はへらりとした様子で返した。


 神や天使、悪魔といった神界に存在すると考えられている生物は、気まぐれで人間に力を分け与えることがある。

 神が授けた力を加護、天使が授ける力を聖賜、そして悪魔が授けた力を悪賜と呼ぶ。

 だけど聖賜と悪賜は少しだけ特殊で、天使や悪魔が自身の命と代償にのみ分け与える能力であり、滅多にお目にかかることはない。



「……生きにくそうね、るるさん」



 加護と違って、聖賜や悪賜は命を奪って初めて成立するもの。

 神に近い存在とされている彼らを代償に力を得るという行為は、場所によってはまだ強い偏見が残っている。

 歴史によると、意図的に殺したとしても絶対に授かるものではなく、命をかけて力をあげたい……と思った者にしか与えないと言われているのに。



「だからこんなところにいるんじゃないですか?俺にとってはいい隠れ蓑ですけど」


「……隠れ蓑って言い方は良くないんじゃないの?るるさんとは付き合ってるんでしょ」


「は?」


「え?」



 私と景の声が重なる。

 顔を見合わせ、私のきょとんとした間抜けな顔が景の瞳に映し出される。景は呆れたように私の疑問を軽くあしらった。



「付き合ってないですよー。第一、顔が好みじゃないんで」



 呆れたようにからっと笑う景は、いつも通りだった。



(そう……かな?)



 容姿だけ見れば、今まで見てきた景の彼女とは少し違う雰囲気があるものの、いつも感じている何かはあった。

 おっとりとした中に混ざる僅かな違和感は、簡単に拭いきれない。



「流石の俺でも相手は選びますよー」


「……あんなに美少女なのに?」



 あんなに可愛らしい女性は初めて見たと言い切れるほどの美少女だったのに、顔が好みじゃないのは少し意外だった。

 まぁ、それ以上にぽんぽんと飛び出すクズ発言に、頭を抱える。



(今まで見てきた彼女と変わらないような気がしたんだけどな)



 まだきちんと話していないからなんとも言えないが、見た目だけで言えば景が好きそうなタイプに見えた。

 確かに悪賜持ちだし、少し面倒くさそうな雰囲気は感じたものの穏やかな雰囲気を持った人だった。それに、景が無理やり押しかけたような形の中匿ってくれたのだから、優しい人だとは思うのだけどもと、私は心の中でその印象を反芻する。



「可愛くてもあのコを彼女にするとか、趣味が悪すぎるんで」


「……景は前からだいぶ、女性の趣味が悪いと認識してるけど」



 私の声が静かに響き、言葉には軽い皮肉が混じる。


 私が今まで見てきた景の彼女は、全員趣味が悪いとしか言えない。

 メンヘラやヤンデレ、その後はストーカーというどれも犯罪ギリギリの行為であり、私からしたら全員面倒くさいとしか言えない。

 それに景を迎えに行って、女性から暴力を振るわれたことは数え切れない。それがなかったと言うだけでも、るるさんは花丸をつけたいぐらい良い人な気もするのだけど、私が知らない何か違う部分があるのだろう。



(だって景が女の子をあんな雑に扱う様子なんて、初めて見たもの)



 見た目だけじゃ分かりきれない、何かがあったんだろう。確かに悪賜持ちを彼女にするっていうのは、将来性を考えるとすこし厳しいものがあるのもまた事実だ。

 だけど私からしたら第一印象から考えられる、景の指す趣味が悪いという指標には当てはまらない。



「それ、ブーメラン?」


「私、景の彼女じゃないわよ」



 景の声が軽く響き、私をからかうと反射的に眉が上がり、唇が鋭く歪んでいた。私の強気な態度に、景はからっとした笑いを零すと、タイミング良くチンッとエレベーターが到着した音が鳴った。



「んー、相変わらずつれないなぁ」



 景は私に聞こえないぐらい小さな声で言葉を漏らすと、一足先に開いた扉からエレベーターの中へと入っていった。



「つれないって、そもそも景は私のことなんかタイプじゃないでしょ?」



 私は景の後を追うようにエレベーターの中へと入ると、きらりと反射した金属が擦れる鈍い音と共に、扉がゆっくりとしまっていく。



「えぇー、俺そんなこと言ったことありましたっけ?」


「ないわよ。でも……」



 そう言いかけたところで、ガタンっと大きな音を立ててエレベーターが大きく揺れる。



「何っ!?」



 状況を確認するため、辺りを見回すが何もおかしいものはないが、どこからか湿った空気が肌を沿うように撫でる。



「……これ、なんかやばくないですか」


「奇遇ね、私もそう思うわ」



 私の声が小さく響き、唇が不安に震える。

 ガタガタと不気味な音を立てながら揺れ続けるエレベーターに、どんなことが怒っても対処できるよう小さく呪文を唱えて杖を取り出す。


 来た時と同じエレベーターに乗っていたはずなのに、今いる場所はどこか違う雰囲気を持っていた。



「絶対離れないでね、景」



 私は景を庇うように手を出した瞬間、僅かな扉の隙間からふわふわとした何かが入り込んでくる。形のないそれは透けていて、この世にあるべきものではなかった。



(ゆ、幽霊……!?)



 私は心の中で叫ぶと、持っていた杖を反射的に前へと突き出していた。私の魔力を注ぎ込み始めた魔法石は、きらりと歪に輝きだす。



「ちょっと、ここで風魔法は……」



 景の声が慌てて響き、私を制止しようと前に出していた手を掴むが、私の口はもう呪文を唱えていた。



「【ウェントゥス・トゥルボ】!」



 かつてないほどハッキリとした声は、エレベーター内に反響した。

 私の想いに応じるように小さいけれども激しい勢いで回転する竜巻がエレベーター内に発生した風は、狭い空間を駆け巡り、壁にぶつかった竜巻が鈍い音を響かせる。

 せっかく四乃が綺麗にセットしてくれた髪が激しく乱れ、私の視界を覆い隠した。



「乙女ちゃん、やりすぎですよっ」



 景が私の手を少しだけ強く握りしめると、私ははっと我に返り握っていた力がすっと弱まる。魔力が受け取れなくなった杖は力を失い、竜巻はゆっくりと消滅していった。

 金属の扉に反射した私の顔は、生気が抜けたみたいに青ざめており、綺麗にしていた髪の毛は鳥の巣みたいにぼさぼさになっていた。



「あ、どこか行きましたね」



 景はずっと手を離すと、私の顔を伺うみたいにひょっこりと顔を覗き込んだ。へらへらとしたどこか掴めないいつもの笑い方だけど、どこか曖昧で空っぽだけど、綺麗な笑い方だった。



「せっかくセットした可愛い髪の毛も勿体ない。あんな狭いところで魔法を使うからですよ」



 風によって乱れ、ぴょんぴょんと跳ねていた髪の毛を収めるように指先で髪を梳かす。決して冷たくも温かくもないぬるま湯に浸かっているみたいな、温度がすっと溶けていくみたいに心地よい。



「ホント、ユニークマジック使うって考えはどこいったんですか?」



 だけど決して揶揄うことは忘れない景の姿勢には、さっきまでのイケメンムーブを容易く帳消しにしていく。

 私は痛いところを突かれたことに、自然と唇が不満に歪んでいた。



「……」



 反射的にやってしまったものに、都合のいい言い訳は浮かばない。


 景は数少ない、私のユニークマジックを正しく知っている人だ。だから、魔呪具で対抗した方がこうならなかったと言いたいのだろうが、今の手札じゃ少し部が悪かったのも事実。

 それによく使うのは風属性の魔法であり、ユニークマジックを適当に戦闘に組み込んで闘う四乃とは違って、咄嗟の場合だとどうしても使い慣れしてる方が出てしまう。



(だとしても、竜巻は良くなかったわね……)



 その癖を認め、私は唇をギュッと固く結ぶ。


 咄嗟に出てしまう魔法というのは、癖に近い。

 風属性魔法でも竜巻というのは、一番汎用性が高く使いやすい魔法だ。広範囲の攻撃技や、相手を拘束させるための技、それに目眩しとしても使える。また自傷行為にはなるものの、自分自身を移動するための道具にもなるし、風属性の魔法使いが最も使う手法であるのが竜巻だ。

 とはいえこういった狭い空間では、風属性の魔法は相性が悪く、ユニークマジックの方で対抗した方がずっと良いのは赤子でもわかる。



「……反省はしてるわ」



 ぷいっと視線を下に向け、景と目を合わせないようにすると、上から降ってきたのは大きなため息ではなく、けらけらと笑う声だった。



「あー、もう限界」


「え?」


「魔獣とか平気でばんばん殺しちゃう癖に、幽霊が苦手なんて。相変わらず面白いですよね、乙女ちゃんって」


「な、なんか景に言われると腹立つわね」



 眉がぎゅっと寄り合い、刻まれたしわが額に影を落とす。少しだけ尖らせた口元は、景にとっておこちゃまに見えるのだろうか。


 第一、そんなこと言うなら景がやってくれたっていいのにという言葉は、言うだけ無駄なので、ぐっと胸の中へと飲み込んだ。



「にしても幽霊がいるなんて。俺初めて見たんですけど、こういうのってお祓いとかして貰った方がいいんですかねー」


「え、初めて見たの……?」



 ふと漏らした言葉に、私は確認するみたいに景の言葉を復唱する。景は何かおかしいことを言ったのかな、という具合に軽く首を傾げながらも、その形の綺麗な唇がゆっくりと言葉を紡いでいく。



「え、あぁ……今のが初めてですけど」


「……そう」



 景の回答に、私は声が短く響く。


 幽霊というのは、基本的に適性がある人にしか見えない。

 魔法と違って、大抵の人は適性がないことが多く、景の歳まで幽霊を見た事ないということは、その適性がなかったと考えるのが普通だろう。



(だけど適性がないと思われる人が幽霊を見るなんて珍しい)



 考えられる可能性としては二つ。


 一つ目は、景が鈍感だった説。

 稀に居るのだけど、幽霊と認識出来ないほどくっきりと見える人間がいる。だから普通にその人が生きてる人間だと認識し続けて気づく機会がなかった……というケースは少なくもない。さっきみたいに足がないという状況と、突然現れたような場面じゃなかったら、分かり続けなかった可能性もある。


 二つ目は、適性がない人でも見えてしまうほど強い霊だった説。正直これが一番可能性が高い上に、厄介な話になる。

 幽霊というのは、生命力を求めて人間へと近づく。普通に生きてる人みたいに生命力を自分自身へと宿すことが出来れば、生き返れると本気で信じている為だ。だから幽霊は生命力が強い者ほど取り憑かれやすく、ダメージを受けやすい。



(とはいえ、景は生命力に溢れてるタイプには見えないけどな……どっちかと言うと無さそう)



 生命力に溢れてる人って言うのは、景とは違って明るく振る舞う人の方が傾向としては多い。それこそ、私と喋っている時の四乃が一番分かりやすいんじゃないだろか。



「なんか気になることでもありましたー?」



 景の声が私の沈黙を破ると、景を安心させる為だけに笑顔を作った。



「いえ、なんでもないわ」



 タイミングよく『エントランスホールに到着しました』というアナウンスと共に扉が開く。



「さっさと帰りましょ。四乃のこと大分雑に巻いてきちゃったから」


「そこは丁寧に巻いてきてくださいよ」


「それは隕石を素手で受け止めなさいって言われそうなぐらい難しい話ね」



 コンっと聞きなれたヒールの音が耳に届く。

 唇は柔らかな弧を描き、静かに微笑むと同時に、差し込む日差しで目が潤んだ。



(後で個人的に調べよう)



 悪賜持ちのるるさんといい、今まで幽霊を見た事ない人間が見たという事実。行きは普通だったのに帰りで突然変異したエレベーター。……おかしいことはいくつもある。



(Reliefのことで忙しくなるだろうけど、私が動く理由はいつだって変わらない)



 私は心の中でその決意を固めるが、心の中で四乃の姿を思い浮かべては、僅かに頬が引きつった。


時間が取れず遅筆になっているため、五月から金曜日の週一投稿になります。書く時間が十分と取れれば、週二投稿に戻したいと考えているので、何卒宜しく御願い致します。



閲覧ありがとうございました。

気に入って頂けたら是非、ブックマークを宜しく御願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ