表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第2章掲載開始)夢見る乙女は、記憶をのぞく。  作者: 蝶乃 ゆゆ
第1章・星が綺麗な世界だから。
23/48

Epilogue

「お姉さん、可愛なったなぁ」



 近くのカフェでコーヒーを買ってくると意気込んで飛び出していったお兄さんを待つ間、一緒に荷物番をしていたお姉さんに声をかけた。



「そう?ちょっと短くて落ち着かないんだけど」



 お姉さんの声が少し掠れ、一度驚いたように大きく目を見開くが、すぐに照れくさそうに視線を逸らす。

 頬に微かな紅が差し、気を紛らわせるみたいに短くなった髪に指を絡めて遊ぶ。指先が髪を滑り、隠れていた耳がひょっこりと露出すると、耳はお姉さんの感情に対してすごく素直に紅く染まっていた。



「そうなん?えらい可愛いのに」



 あとからお姉さんに聞いた話だけど、黒繭は夢を見せるような場所で、その中で負った傷は現実世界でも反映されるらしい。お姉さんは黒繭の中で髪を切られ、こうしてお兄さんに頼んで調整してもらったそうだ。



(ちょい見慣れへんけど、えらい可愛い)



 腰まであった長い黒髪は胸上までのセミロングに短くなり、顔周りはぴっちりと切り揃えられた姫カット。切られた部分がガタガタだったため、レイヤーを入れたヘアスタイルに整えられ、風に揺れるたび軽やかに動いて、甘いシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐる。



「……本当、緋彩ってずるい人よね」



 お姉さんの声が低く響いた。

 どうやらオレの素直な感想が、お姉さんの調子を狂わせたらしく、ぷくっと頬を膨らませる。

 怒っていますと言いたげな姿勢だが、瞳には微かな照れが滲み出ていた。



「それはお姉さんの方だと思うよ」


「え?」


「オレ、お姉さんに誑かされちゃったもん」


「んっ!?」



 お姉さんの声が詰まり、瞳がさらに丸く大きく見開かれる。頬の紅が濃くなり、口元が震える。



「オレ、ずっと独りでいるつもりだったから。こんなことするなんて思ってもなかった」



 オレ自然と素直な気持ちを口にしていた。お姉さんは、ふぅっと短く息を漏らしたかと思えば、口元に柔らかな笑みを浮かべていた。



「……それは私も同じよ。常に合理的な判断を心がけてた私にとって、いつも独りでいる方がずっと都合が良かったの。恐怖で支配される邪魔になる存在が増えるぐらいなら、自分自身が無理した方が良い。……ずっとそう考えてた」



 お姉さんの声が苦しさを帯び、眉がわずかに寄り、唇が微かに震える。必死に浮かべた笑顔に苦さが混じり、オレの胸をぎゅっと締め付ける。



(あぁ……だからなのか)



 黒繭から庇った時も、お姉さんにとっての合理的な判断だったのだろう。オレが捕まるよりも自分が捕まった方が未来に利益があると考えたのだ。



「だけどそんなことないって分かったの。独りよりも誰かがいる方がずっと力が出る。……私に足りてなかったものを緋彩が教えてくれたわ」



 お姉さんの声が明るくなり、ブルーサファイアのような輝きを持つ瞳がオレの姿を捉えて離さない。



「オレが……?」


「えぇ。役割を背負い続ける必要も、過去に縛られ続ける必要もない。自分自身のためになるものだけを拾い上げて、今に繋げればいいって思えたの」



 お姉さんの声が力強く響き、瞳に宿った決意というのは、じんわりとオレにも広がっていく。


 まだ、オレが探し続けていた問の答えは見つかってない。


 ――――厄災を倒した英雄が得たもの、というのは一体なんだったのだろうか。


 その問いの答えを四百年間探し続けていたけど、今はまだその答えがまだ出なくてもいいんじゃないか、と思えた気がした。



「だからこれからもよろしくね、緋彩」



 お姉さんはオレに手を差し出し、オレは迷うことなくその手を取った。



(お姉さんと一緒なら、いつか見つけられるかもしれない)



 オレよりもずっと温い体温に触れたことで、オレの中にあった何かが溶けだす。そして、迷うことなくお姉さんの体温と溶け合ってひとつになったみたいに、オレの感情も丸ごと包み溶かされ絆される。



(この感情の答えは、まだ知らなくていいよね)



 オレはオレの罪を清算するために、やることをやるだけだと思ってた。だから人と必要以上に関わるべきじゃないと思って、初めて会った時に差し出された手も見ないふりをして、沢山の嘘をついた。

 だけど、オレはお姉さんの手を取ってしまっていた。



「そういえば、私がユニークマジックに包まれる間際、なんていったの?」


「え?あぁ……秘密っ」


「なんでよ!?」


「えー、別にええやん?」



 ふと空を見上げれば、ステンドグラスになっている天井から景色が見えた。誰よりも輝く眩しい太陽がジリジリと身を焦がしながらも、小さな星たちが空を埋め尽くすみたいにきらきらと輝いている景色は、何度見ても飽きない。



(日中でも星は綺麗に見えるなぁ)



 オレ達がどれだけ辛いと叫んでも、この世界は彼女のおかげで変わることなく輝き続ける。日常を彩っていく。


 意気地無しの本音はふらっと風に吹かれたら消えてしまうくらい、淡く、儚く、そして弱々しい。だけど一等星を手放すつもりはなかった。



「――――お姉さん、今日も星が綺麗やな」






一章完結まで閲覧頂き、ありがとうございました。

二章は現在書き進めている最中で、毎日投稿から毎週金曜日に投稿する予定になります。(現時点では4月4日にPrologを投稿する予定です)



閲覧ありがとうございました。

気に入って頂けたら是非、ブックマークを宜しく御願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ