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第2章掲載開始)夢見る乙女は、記憶をのぞく。  作者: 蝶乃 ゆゆ
第1章・星が綺麗な世界だから。
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第2幕 ― ③「最高戦力」

 私と四乃は昨日居た建物へと戻ってきていた。



「んー、甘っ」



 来る途中に追加で買ったデザートのアイスクリームを満足気に平らげた四乃は、ぺろりと唇に残った部分を舐める。

 これから再潜入するというのに、その危機感のない様子は驚く程に呑気だった。



「それじゃあ出発ー!【ドゥオール】」



 杖を元のサイズに戻せば、きらりと白銀の魔法石が太陽の光に反射した。


 四乃は、ワンドと呼ばれるタイプの杖を使用する。【魔法のサポートを行う】と【魔法の照準を定める】という二つの役割をメインにしているのが特徴。サイズは指先から肩ぐらいまでのサイズで、私が使っているロッドよりも俊敏性や扱いやすさを重視したもの。ステッキとの差といえば、サイズが大きく太めのため、魔法石やモチーフを複数つけることが出来ることだろう。今の魔法界主流とも言われる杖だ。



「乙女ちゃんは後ろに下がっててね。……あっ、もちろん僕の最強かっこいいところはしっかりと見ててね?」


「はいはい、別に言われなくても分かってるわよ」



 今の杖のない私には、戦う力すらない。

 原則、魔法の杖は一人一本しか持っては行けないというルールがあり、もちろん予備なんかは持ち合わせていない。昨日みたいに魔法石を歯に埋め込むようなケースは初めて見たが、基本的には杖を奪われれば無力化させられる。


 四乃は鼻歌交じりに建物に入れば、勝手を知った足取りで非常階段を登る。



(危機感、なんて四乃にはないのね)



 相手はRelief。昨日、私を回収した際に当人たちがいなかったものの、私は自分自身の身をもって体験してしまっている。


 誰もが認めた負け無しの天才。

 四乃ほど魔法に愛された人は見たことない。


 そういった言葉が容易く声に出てしまうほどに、四乃の才は目を見張るものがある。そして、それを一番近くで見続けていた私が大丈夫だと心では分かっていたとしても萎縮してしまう。

 無意識に階段を上る足取りが重くなり、一つ一つの階段が泥沼のように足を取られて動かなくなる。

 心に抱いた感情に名前を付けそうになったとき、前を歩いていたはずの四乃の足がピタリと止まる。



「……静かに。誰かいる」



 人差し指を口元に当て、歩みを止めた。

 四乃は普段、敵がいたとしてもこんなに警戒するような姿勢は絶対に見せない。それは、周りに味方がいたとしても自分自身が絶対に負けない。という心の底から溢れ出す絶対的な自信があるからこそであり、四乃が危険を知らせるために歩みを止めるなんて初めてだった。


 指先をくいっと動かして、私の行動を操作する。私は二階のドア前の踊り場から、三階へ繋がる階段に足をかけ、ドアの向こう側にいる人物の顔が確認でき、尚且つ三階へ直ぐに移動出来るような位置取りをした。

 四乃は私の位置を確認すると、杖を強く握り締めてドアノブに手をかける。ガチャと古びた音を立てながら勢いよく扉が開くものの、そこには誰の姿もなかった。

 怪訝そうな表情を浮かべながら、四乃は二階に入っていくので、私も追いかけるような形で足を踏み入れれば、バタリと強い音を立てて部屋の扉が閉まる。



「何……!?」



 私は二階全開を確認する前にドアへと顔を向けた。

 それは強い風が吹いたわけでも、私が押すような形で扉を閉めた訳でもない。何かしらの普段なら起こりえない異常によって、その現象は起こされたのだ。



「【グラキエス・プギオ】」


「【ルクス・フェルルム】!」



 どこからか鋭い呪文が耳を掠める。

 けれども、四乃はまるで予知していたかのような素早い行動だった。

 四乃は真っ直ぐに光の刃を繰り出す。



(氷属性の魔法……!?)



 相手が作り出した氷の短剣は止まることなく、一直に私達へと飛んでくるものの、四乃の作りあげた刃と触れ合えばたちまち大きな風が吹き荒れる。



(もしかして相打ち……!?)



 圧倒的な才を持った四乃の魔法でさえ簡単に引き分けにまでもっていく、そんな実力差から来る恐怖でとくとくと心臓が早鐘を鳴らす。

 ひゅっと辺りを占領していた風が消えていくと、初めてさっきまでいなかったはずの攻撃者の実態も見えてくる。



「こりゃあ驚いたな。誰かやってきたかと思えばNorthPoleさんだこと」



 しゃりしゃりとした草木が擦れる特有の音に、前回会った時と同じ黒い服。洗濯をしているのか、昨日見たシミは見当たらないのだけが、唯一違うところだろうか。



「昨日ぶりだな、黒曜の舞姫さんよ」



 急に私の名前呼ばれ、心臓が大きく脈を打った。

 目の前にいる男は間違いなく昨日、ヒイロにいちゃもんをつけて金銭を要求していたチンピラだったのだ。


 だけど、昨日会った時とは男の雰囲気が違っていた。



「……私のこと、知ってるのね」


「そりゃあな。昨日、あんだけやられりゃ嫌でも覚えるつーの」



 どうやら正真正銘、疑う余地すら与えず本人らしい。

 男の風貌もだが、一番特徴的な草履はこの国で同じものを探すのには中々苦労するだろう。



(草履は遙か昔に廃れた、とある民族の工芸品だったという説がある)



 文献や本などで存在は知っていたし、今でも編み物として売り物が存在していることも知っているが、人が普段から履くような姿は恐らくこの男が初めてだろう。

 草が擦れる独特の音は、一度聞けば簡単には忘れさせてはくれない。



「乙女ちゃん知り合い?」


「知り合いっていうか……」



 どう説明すれば良いのか、言葉を慎重かつ分かりやすく言葉を選んでいれば、反応の鈍い私を嘲笑うよう、男はふっと鼻を鳴らして笑った。



「昨日逃がした相手、だろうが。まぁ、俺はお前が追ってるReliefの人間だけどな」



 男は杖を構えるとその歪な口を開く。



「昨日は一人だったから、あいつに任せてたんだけど……計算外があったからな。【グラキエス・フニクルス】」



 地面から突如としてひょろりと氷の縄が伸びる。氷と感じさせないほどしなやかな縄は、意思があるように私の身体に巻き付こうとしたところで、四乃が腕を掴み不意に身体が傾く。



「【ルクス・トゥルボ】」



 氷の縄内部に現れた光の渦は、パキンッと乾いた音を立てて破壊する。飛び散った氷の破片が私の身体に傷をつけないように、四乃は自分自身の中に抱き締めた。



「魔法の中に魔法を埋め込むとか、どんなチートだよ」



 男の言葉に対して、四乃の冷たい視線が降り注ぐ。汚物を見るように鋭く蔑んだ瞳に、私までも身体の自由が奪われたみたいに硬直させられた。


 男の言う通り、男が作り出した水魔法の縄に、誰かの魔法が入り込むことは理論上不可能に近い。

 魔法は自分自身だけのもので、誰かが干渉したり出来るものではない。だけど、それと同時に完璧な魔法というのも存在しない。

 魔力というのは粒子みたいなもので、僅かな隙間が生まれる。そんなものをイメージして具現化して操るのだから、一部穴が空いていたり、壊れやすい部分が存在する。四乃はそんな僅かな隙間を見抜き、自分の魔力を通して光の渦を具現化させたのだ。



(言葉で説明するのは簡単だけど、その隙間なんてものは本来見つけられない)



 だけど、既に具現化した魔法を殺す、一番確実な方法であると同時に、四乃の集中力と技術が、常識を超えた領域に達している証拠でもあった。

 四乃は私を守るようにしながら、男に杖を向けて呪文を唱える。



「【ルクス・プギオ】」



 辺り一面を覆い尽くすほど大量の短剣が現れる。

 四乃は、掴んでいた腕をぎゅっと力を込めると杖を横に振るった。



「乙女ちゃん、絶対に僕から離れないでね。……今からコイツを殺すから」



 四乃の声は落ち着いているのに、冷酷な決意に満ちていた。その冷たい敵意は、私に向けられたものでは無いのに、深く胸へと突き刺さる。



「Go」



 四乃の合図によって、短剣が男へと鋭く飛んでいく。空気を切り裂く音が廃墟に響き、刃先が星の雨のように輝く。

 男はひょいっと一歩後ろへと下がると、全身を使って大きく杖を振る。



「【グラキエス・スクトゥム】」



 一瞬にして創造された大きな氷の盾は、短剣がぶつかるとガキンと硬い音が響き、ちょっとずつ氷の盾が粉雪になって飛んでいく。

 壁の向こうから男の笑い声が漏れ聞こえ、不快に響く。



「【ルクス・プギオ】」



 四乃は短剣を生成し続け、男に向かって飛ばし続けた。次々と突き刺さる短剣が、少しずつヒビを刻んでいき、ガキガキと氷が軋む音が響く。耐久試合に持ち込まれたとしても、四乃の魔力の質が男を上回っていることは明白だった。



(でもなんなの、この違和感は……)



 男の笑い声は不気味に響き続ける。

 どこかおかしい。何かが抜けているような感覚が拭えない。そんな嫌な気持ちを安心させたくて四乃の方を見れば、零した言葉で息が白く染っていた。



(今ここにある氷はあの盾だけなのに、なんでこんなに寒いの?)



 役目を終えた魔法は本来消えてなくなるはずで、この場にある氷だけでは息が白く染ったりしないはずだ。



「はっ、黒曜の舞姫は気づくのが早いなぁ」



 男の声が盾の向こうから低く這うように聞こえ、四乃の肩がピクリと反応する。四乃が何かを感じ取った瞬間、男を守っていた盾がバキンと大きな音を立てて壊れる。

 割れた破片は普通の魔法みたいに消えることない。



「【グラキエス・フニクルス】」



 床に散らばった氷の破片が突然動き出し、細い氷の縄となって私の足元に絡みついてきた。盾が崩れた破片もそれに応じるように真っ直ぐ飛んできて、四乃が対抗する時間を与えることなく視界を遮る。冷たい縄が足首を締め上げ、そのまま男の方へ引っ張られる。縄の構成に使われなかった破片が足元を奪い、私は体勢を崩される。



「乙女ちゃん!」



 するりと四乃の懐から抜け落ちた私は、四乃の伸ばす手に触れることなく、床を滑るように勢いよく男の方へ引っ張られた。冷たい氷の縄が皮膚に食い込み、氷息が詰まるほどの寒さに身体が震える。



「【ルクス・プギオ】!」



 怒りにを身任せた力強い呪文を飛ばすが、男はひらりと身をかわしてよける。そして、私を盾にするように引き寄せた。

 縄は私の全身まで侵食して強く締め付ける。男の腕に掴まれ、冷たい杖が私の首筋に押し当てられた。



「おっと、動くんじゃねーぞ。黒曜の舞姫がどうなってもいいなら構わねーけどよ」



「……卑怯だぞ」



「正攻法でお前を倒す方が難しいだろ?NorthPole最高戦力――――【夜明けの騎士】さんよ」






閲覧ありがとうございました。

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