第79話
「ああ、やっぱりねぇ」
「時間の問題だと思っていましたが、想定より早かったですね」
ティファとルノワは、信康がカルレアを抱いたと知って溜息を吐いた。
「しかし、あれは非常時の行動だぞ? カルレアも忘れているだろう」
「・・・・・・・はぁぁ」
信康の言葉を聞いて、ルノワは呆れた様に溜め息を吐く。ティファもルノワと同じ気持ちなのか、クスクスと笑っている。
「カルレアさんなのですが・・・何度もノブヤス様が居ないか、昨日は部屋の方に来られましたよ」
「私も見たけど、カルレアさん。明らかに女の顔をしていたわね」
「女の顔?」
「ええ、明らかにしていましたね」
ルノワにまでそう言われては、信康は何も言えなかった。
「ゴホン、カルレアが女の顔をするって言うのは如何言う意味だ?」
「そのままの意味よ」
「ノブヤス様にも分かり易く言いますと、発情しているとか恋をしているとか言えば良いのでしょうか?」
「成程。・・・・・・ってちょっと待て、何でカルレアが女の顔をするんだよ。それもたったの一回抱いただけで」
「だから、それが原因だっ言ってんでしょ」
「ノブヤス様、考えても見て下さい。カルレアさんは御主人を亡くして以来、貞操を守っていたのです。其処をノブヤス様に抱かれたので、カルレアさんは乾いた砂が水を得た様な満たされた感覚を得た筈です」
「そうなのか?」
ルノワにそう言われて、信康は首を傾げながらも納得した。
確かに信康は、カルレアを抱いた。これっきりの関係だと思ったが、カルレアの方から信康を求めているとは思っていなかった。
(これが、棚から牡丹餅と言う奴か?)
信康はそう思いながら、カルレアに対してどうするか思案する。
「それでどうすんの? やっぱり自分の女にする?」
「まぁ・・・そうだな」
ティファにそう訊かれて、信康は曖昧ながらも肯定する。
「ノブヤス様。お言葉ですが、カルレアさんは娼婦では無いのです。不本意な形とは言っても一度は抱いたのですから、責任は取るべきだと思います」
「むっ」
ルノワの言葉を聞いて、その正論に反論する事が出来なかった。
「何? カルレアさん、嫌なの? ノブヤスだったら、喜んで自分の女にすると思ったけど」
「あんな良い女、嫌な訳が無いだろう・・・ただなぁ」
信康はカルレアを自分の愛人にする事に、否やなど微塵も無い。しかし一つだけ、カルレアに関して気になる事があった。
「亡くなったカルレアさんの御主人の事が、ノブヤス様は気になりますか?」
「それもあるが、どちらかと言えばカルレアの方だな。旦那の事を、カルレアは忘れられないだろうし」
「だったら尚更、カルレアさんを自分の女にするべきだね」
ティファは自信満々な様子で、その豊満な胸を張ってそう発言した。
「どうしてそう思うんだ?」
「決まっているだろう? アマゾネスのあたしや黒森人族のルノワと違って、人間は若い期間が限られているんだよ? その貴重な時間を死んだ人間の為に縛られるなんて、可哀想じゃないか。これじゃ、死んだ旦那も浮かばやしないさ」
ティファがそう言ってカルレアの境遇に同情すると、ルノワもその意見に同調した。
「ティファの仰る事も、尤もです。釣った魚に餌を与える。または育てた花には水を与えるべきでしょう。此処は一つ人助けも兼ねて、カルレアさんを御自分の女にして下さい。ノブヤス様」
「・・・・・・」
自分以上に積極的にカルレアを抱く様に進言するティファとルノワの姿に、信康は何も言えずに面食らう。
「分かった。やろう」
(普通、自分以外の異性が近付く事を嫌うものだが・・・まぁ良い。こちらの方が、俺としても助かるしな)
信康は心中でそう思いつつも、カルレアを自分の愛人にする決心をした。
そう話をしていると、朝食の準備が出来たのでセーラが皿に盛ってやってきた。
「さっきから騒がしかったのですけど、何かあったのですか?」
「ノブヤスがカルレアさんに手を出したから、本格的に手を出して自分の女にする算段を考えていたのさ」
「まぁっ!? やっぱり、カルレアさんにも手を出していたのですね。昨日一度だけ会いましたけど、様子がおかしいと思っていたんですっ!!」
セーラはその話しを聞いた瞬間、嫉妬してむくれだした。
「コホン。俺は別にまだ手を出すとは言った訳ではないぞ」
「まだ?・・・じゃあ、手は出してないのですか?」
「それは・・・・・・」
「手を出したのですね?」
信康はセーラから目を反らした。
セーラはますます顔をむくれだした。
「諦めなよ。こんな女好きな男を好きになった自分を恨みな」
「そうですね。どうしても無理なら、別の男を見つけるしかありません」
「むぅ、それだけは絶対に嫌です・・・・・・分かりました。それで、どんな手段を使うのですか?」
「此処は一つ手っ取り早く、セーラさんの時と同様に媚薬を使って済ませてしまいましょう」
「単純だけど、一番早い方法だね。しっかし、ノブヤスも悪い男だねぇ~」
「一服と言いますけど、何に盛るのですか?」
「此処は酒だろう」
「カルレアさんはお酒は飲みますけど、お仕事でしか飲まないそうですよ。そんなに好きでも無いって、ご本人が言ってましたし」
「じゃあ、食事に盛るか?」
「その場合、より食する確率を高くする為にも好みに合わせた方が良いと思います」
「そうですね。セーラ、カルレアさんの好みは知っていますか?」
「味の好みは知っているけど、何が好きなのかまでは知らないわ」
「う~ん。どうしましょう?」
三人が頭を捻って考えているのを横目で見ながら、信康はセーラが用意した朝食を食べた。
信康は考えるの止めて、今は朝ご飯を食べる事だけを考える事にした。




