第67話
急な依頼で仕事が出来なくなったと駅馬車組合本部の受付に言ったら、組合長と幹部達が総出で出てきて話し合いになった。
この話し合いには何故か、駅馬車組合の幹部でも無いジーンも参加している。傭兵部隊の同僚であるジーンが居た方が、信康を説得させられると思ったのだろうと思われた。
依頼内容を易々と、部外者に話せる訳が無い。その様な口の軽い傭兵に仕事など来ない上に、下手すると物理的に口を封じられる事になる。当然信康も組合長達には事情など詳しく話さず、仕事が出来なくなったとだけ言った。しかし組合長も幹部達も、首を縦に振ってはくれなかった。
気難しいルベリロイド子爵家を筆頭に、要注意者名簿入りしている顧客達から受けが良いのだ。組合長達としては、絶対に信康を逃がしたくなかった。給金を三倍にすると言って、何とか信康を留め様とする。しかし、それでも首を横に振って提案を拒否する。
再三言っても首を横に振るので、組合長は引き止めるのを諦めて妥協案を信康に提案した。その妥協案とは、信康が受けた依頼が終わるまで有休扱いにすると言うものであった。その代わり依頼を終えたら、直ぐに配達を引き受けて欲しいと伝えた。信康はそれならばと組合長の妥協案を受け入れた。
駅馬車組合の労働契約書を改めて結んだ信康は、駅馬車組合本部を出てその足でカルレアが居そうな所に向かう。因みにマリーザへの説明には、組合長が自らの足で説明に訪問しにルベリロイド子爵邸に行った。
信康が休職するので配達依頼を出されても対応しない事と、復帰するまで控えて欲しいとマリーザにお願いした。すると組合長はマリーザに散々罵倒と嫌味を言われて這う這うの体で、ルベリロイド子爵邸を去って行く事となった。
(取り敢えず・・・ブーランジェリー・グランヒェルに行くか)
そんな一面など知る由も無い信康は、前に行ったパン屋のブーランジェリー・グランヒェルに向かった。
少し歩いて目的のブーランジェリー・グランヒェルに着いた信康は、店内に入った。
店内に入ると、まず嗅覚を刺激したのは小麦が焼けた良い匂いだった。
それに卵と乳の匂いが混じり、信康の鼻と腹を刺激する。
しかしもうお昼は済ませたので、お腹には何も入らない。
しかし店内に入った以上、何か買わないと失礼だと思い信康は籠に何か適当に入れる事にした。
籠を持ってレジに行くと、丁度カルレアがレジを打っていた。
信康は籠を持って行く。
「お待たせしました。あら?」
「どうも」
「珍しいわね。貴方が店に来るなんて」
「今日はちょっと色々あって、昼飯を食い損ねた」
「そう。じゃあ、直ぐに会計するわ」
カルレアは籠に入っていた商品を直ぐに計算して袋に詰めて『合計で銀貨一枚と大銅貨四枚と、銅貨七枚と鉄貨四枚よ』と言ったので、信康は言われた通りに、銀貨一枚と大銅貨四枚と銅貨七枚と鉄貨四枚丁度を渡した。そして、袋を貰う。
「ありがとうございました」
カルレアの声を背で聞きながら、ブーランジェリー・グランヒェルを出た。
信康はパンが詰まった袋を持ちながら、これから暫くは店外で警護しようと思うのであった。




