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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章

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第58話

「えっと、・・・・・・・貴方は確か、前にお嬢様と話していた方でしたね。お名前は」


「信康だ。あんたの主人には名乗ったが、あんたには名乗っていないからな」


「そうでしたね。その節はお嬢様の相手をして頂きありがとうございました」


 ダリアは頭を下げて、お礼をする。


「いや、少し話し相手をしただけだ。そんな御礼をされる程の事じゃあないさ」


「いえいえ。恐らくですが・・・お嬢様が大変失礼な事を言っていたと思いますので、そのお詫びを兼ねてです」


「いや、別に失礼な事は言っていないぞ。その時も普通に当たり障りの無い会話だった」


「そうでしたか。あの時はお嬢様が急かしていたので、ちゃんとお礼が出来たと思えませんので改めて御礼申し上げます」


「律儀だな~」


 本当にあのマリーザの使用人なのかと、そう思う信康。


(人が出来た執事だな。俺より年下だろうに・・・ただあのマリーザってお嬢様も、根は悪くは無いと思うんだよなぁ)


 信康は心中でダリアの評価と、マリーザの擁護を一人でやっていた。


 其処まで話した後、ダリアの方が何かに気付いた顔をした。


「そう言えば、名を名乗るの忘れていましたね。私はダリア・ローズスピーナと申します。当屋敷では執事をしています」


「よろしく頼む。早速案内を・・・と思ったが一つ教えてくれ。今は執事らしく執事服だが、以前まえに会った時は制服だったよな? あんたもマリーザと一緒で、あの学園の学園生だったりするのか?」


「はい。私もマリィお嬢様と同じ学園生です。本当はその必要は無いのですが、お嬢様の御厚意で学園生もさせて頂いております」


「そうだったのか。お優しいご主人様な事だ」


 信康はダリアと少しばかりこうして雑談をした後に、ダリアが信康をルベリロイド子爵邸に招いて自分について来る様に合図を送った。


 信康はその合図に従い、ダリアの案内で屋敷に入った。




「お嬢様、お頼みした物が届きました」


 屋敷に入って信康はダリアの案内でマリーザの部屋の前まで来て、ダリアがノックしてくれた。


「あら、珍しいわね。指定した時間よりも早く着くなんて・・・どうぞ、お入りなさい」


 ダリアが信康の為に、扉を開けてくれた。


「どうぞ」


「助かる」


 信康はそう言って、部屋に入った。


 部屋に入って、思ったのは凄い部屋だという事に驚いた。


 部屋に置いてある家具やソファーに絨毯に至るまで、派手な装飾されていた。


 実用性を無視した装飾で、邪魔としか思えなかった。


「今日は何時もと比べて、指定した時間に着いたみたいだけど・・・って、貴方は」


「よう」


 信康は友達の様に、マリーザに気軽に挨拶をした。


 マリーザは信康にそんな挨拶をされても気を悪くした様子は無く、持っている扇を煽ぎながら話し出す。


「ノブヤスだったわね。何で傭兵の貴方が、こんな所にいるのかしら?」


「何で俺が傭兵だと知っているんだ?・・・まぁ良い。俺がこの屋敷に居る理由は、仕事なだけだ。ほら、お届け物だ」


 信康は持ってきた箱を、テーブルの上に置いた。


 マリーザはその箱を一瞥して、信康の後ろに居たダリアを見た。


 ダリアは何も言わず、箱を開けて中身を出した。


 箱に入っていたのは、硝子の花瓶の様だ。


 ダリアはその硝子の花瓶を何処か傷が無いか、慎重に確認している。虚空の指環(ヴォイド・リング)に保管していたのだから、傷など付く筈が無い。傷があるとすればそれは信康が配達物を運搬する前だが、其処は駅馬車組合が念入りに確認済みだ。


「・・・・・・・大丈夫です、お嬢様。花瓶には傷一つありません」


「そう、良かったわ」


 マリーザはホッとした顔で安堵していた。


「へぇ~、これはまた凄いな」


 信康はダリアの手の中にある、硝子の花瓶を見る。


「これは確か・・・結晶硝子(クリスタルグラス)だな。しかも薄い桃色の付いた、有色硝子(カラーグラス)か。これだけの大きさがある代物ものとなると、最低でも大金貨一枚は必要になるな」


「あら、ノブヤス。意外に詳しいわね。何処の国で作られたか分かる?」


「チェサモロキア王国だろう。あの国は仕事で雇われた事があるから、これと似たような結晶硝子を射た事がある」


「それも傭兵として雇われてよね?」


「ああ、そうだ」


「ずっと疑問だったのだけど、どうして傭兵である貴方が配達員の仕事をしているのかしら?」


 マリーザは首を傾げる。ダリアもマリーザに同意してか、僅かに頷いていた。


「同僚の傭兵に人手不足だからと、助っ人を頼まれたんだよ。経緯を話すと、ちと長くなるがな・・・」


 別に隠す理由など無いので、全てでは無いにせよ傭兵部隊の現状について世間話がてらマリーザとダリアに話し始めた。


「・・・と言う訳で、俺はこうして配達員の仕事をしている訳だ」


「・・・・・・そう。自分達の都合で雇っておきながら、扱いが雑過ぎるわね」


 信康に対して、同情する様な視線をマリーザは向けた。


 マリーザと同様に、ダリアも同情した顔で信康を見てきた。


(傭兵って職業を見下さない辺り、やはりマリーザは根は良いのだろうな)


「おっと、忘れる所だった。受領印をくれないか?」


「そ、そうね。ダリア」


「はい。此処に」


 ダリアが判子の様な物を、受領書にポンッと押した。


 宿根草の紋章が掘られた判が押された。


「まいど~」


「・・・・・・ノブヤス、わたくしから提案があるのだけど?・・・貴方さえ良かったら傭兵なんて仕事は辞めて、ルベリロイド子爵家に雇われる心算はなくて? ノブヤス程に技量なら、当家が保有している私設兵団の団長に、わたくしが推薦しますわよ。給金もそうね・・・住込みの三食付きで、月額は最初は金貨三十枚。増額は貴方の働き次第で、勿論特別報酬ボーナスも忘れず付けるわ」


 通常の傭兵ならば破格と言える厚遇を聞いて、信康は一瞬面食らった。しかし直ぐに、首を横に振って信康はマリーザの勧誘を断った。


「俺を高く評価してくれるのは、実にありがたいし嬉しく思う。しかし俺とプヨとの契約は現状、継続状態にある。その契約が終わるか、俺が解雇(クビ)にならない限り、それは無理な話だな」


「あら、先の戦いで真紅騎士団(クリムゾン・ナイツ)の十三騎将の一人を討ち取ったのに、勲章しかくれないプヨに其処まで忠誠を尽くすなんて、真面目で律儀なのね。わたくし、益々ノブヤスの事が気に入っちゃったわ」


 マリーザが呟いた一言を聞いて、信康は片眉をピクリと動かす。


 パリストーレ平原の会戦で信康とリカルドの功績は、プヨ王国では伏せられプヨ王国軍関係者の功績と不透明な発表しかされていない。理由は傭兵の功績では、宣伝にならないと言うプヨ王国軍上層部の判断があるからだ。


 当初はアグレブ奪還と、そう云っていたプヨ王国軍。パリストーレ平原の会戦での敗戦以降、現在ではカロキヤ公国軍の侵攻を食い止めたと名目を変えている。されど事実が世間に発覚しても、捏造や手柄の横取りと非難されない様に布石を打っている辺り実に強かである。


 そう言った思惑もあってか、真実を知っているのはプヨ王国軍関係者だけの筈である。にも関わらず何故部外者である筈のマリーザが、信康の功績を知っているのかと驚いていた。そんな信康の視線に気付いて、マリーザは可笑しそうにクスクスと笑う。


(もしかしてプヨの情報管理、ザルなのか? それともマリーザに身内に軍の関係者が居るのか・・・)


「別に其処まで驚く事でも無くってよ。ルベリロイド子爵家は情報を生命線として重視した結果、今日まで成り上がれたのですもの。それに少し情報収集を嗜んでいる貴族ならば、皆が真実を知っているのでは無いかしら?」


「・・・そうなのか」


 信康はマリーザの一言に対して、そうとしか言えなかった。


 信康はこれ以上この場に居れば丸裸にされるかもしれないと思い、「じゃあ、これで」と言って部屋を出ようとした。


「ノブヤス。わたくし、学園が夏休みに入ったから前より時間がありますのよ。だからお暇な時にでも、我が屋敷に来て下さいな。美味しいお茶と茶菓子を、用意してお待ちしてますわ。それと今度からわたくしの事は、マリィと呼んで下さいな」


「・・・・・・・お誘い、ありがたく。機会が出来たら、お伺いしよう」


「ええ、美味しい茶を用意してあげますわ」


「・・・じゃあ、またな・・・」


 信康は一言そう言ってから、部屋を退室した。



 マリーザの屋敷を出た信康は、残り二件の配達を終えてから直ぐに駅馬車組合本部に向かった。


 受付で報酬を貰う為だ。


 だが受付に行くと、其処に居た組合員が信康を見るなり、万歳してきたのだ。


 意味が分からず、訊いてみた。


 すると先程ルベリロイド子爵家から配達物を傷なく時間に間に合わせて届けた追加報酬として、駅馬車組合本部に金貨十枚と信康に金貨五枚が届けられたそうだ。


 更に当家当ての荷物は、必ず信康にする様にと御指名を貰った。


 ジーンと組合長に頼まれ、信康は渋々だが受けた。

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