第4話
信康がヘルムートと話をしている内に、男性側では乱闘が終わっていた。
身体を痙攣させながらも、地面に倒れている傭兵達の中で一人だけ立っていた。
「良しっ! 男の方は其処までだ。お前、名前は?」
乱闘から生き残った傭兵に訊ねた。そして顔を声のした方に向けた。
見れば二十代前半で綺麗な顔をしている金髪の男であった。
「はい。ぼっ・・・いや自分はリカルド・シーザリオンです」
「良い返事だ。お前には傭兵部隊の副隊長をして貰う。心配しなくても、部隊の指揮に関しては無論教育してやる。何れは俺が指揮を執れない時は傭兵部隊を代わりに統率する様に」
「はっ、承知しました! 御指導っ、よろしくお願いしますっ!!」
リカルドは敬礼して承諾した。
(そう言えば女性の方はどうなった? 戦う音が聞こえてこないが?)
見ると一人の女性が、ヘルムートに敬礼していた。
どうやら、女性の方は模擬戦をせず、誰が纏め役になるかは話し合いで決める事になった様だ。
女性陣は話し合いの結果、ヒルダレイアと言う女性傭兵が纏め役になっとていた。
女性側も纏め役が決まった事が分かり改めて、信康はリカルドの顔をジッと見た。
綺麗な顔立ちなので傭兵というよりも、貴族か騎士と言った方がしっくりしている。
(傭兵にしては、品があるな。もしかしたら、実家は騎士か貴族なのかもしれない。だが生まれはどうあれ、実力は本物だな。こいつはかなり出来る)
乱闘で何十人も倒しているのだから、実力の一端が窺える。
向こうも視線に気づいたのだろう、信康に目を向けてきた。
そうして二人はじっと目で互いを見ていた。
リカルドがこちらに歩み寄ってきた。
「初めまして・・・俺はリカルド・シーザリオンだ。君の名前は?」
手を出して握手を求めてきた。
「信康だ。東洋から来た。よろしく」
信康は握手した。
リカルドはそれを見てニッコリと笑った。
「東洋と言えば、このプヨ王国からは、かなり離れているのによく来たね」
「東洋から直接来た訳じゃあ無い。この間までエルサレエルに居た。其処からこの国に来た」
「エルサレエルと言うと、南東にあるあの国か?」
「そうだ。良い稼ぎになったが、とても大変だった」
「ふうん、そうなのか。良ければその時の事を教えてくれないか?」
「また今度で良いか?」
「ああ、お互い疲れたからね。今度で良いよ」
「お~い、リカルドッ!」
信康とリカルドが声を掛けられた方を見ると、一人の男性がこちらに手を振っていた。
「あっ、そうだ。今日は彼と飯を食べると約束していた」
「そうか、早く行けよ」
「ああ、君と話せてよかったよ。今度、俺の仲間を紹介するよ。気の良い奴らだから、直ぐに君も気に入る筈だ」
「ああ、今度な」
「じゃあね、ノブヤス。これからもよろしくなっ」
リカルドは男性の方に向かった。
リカルドの背を見送りながら、気さくな男だなと信康は思った。
これが後にプヨ王国史上最高の聖騎士と謳われる、リカルド・シーザリオンとの初めての邂逅だった。
後にリカルドは新たな家名をプヨ王国から与えられるのだが、それはまだ先の話である。
余談だが、信康がルノワの所に行こうとして、後ろに振りかえるとルノワが居た。
信康は思わず、声を上げて驚いた。
落ち着いてから何故後ろに居た? と訊くと「私は常にノブヤス様の側に」と返って来た。
この時に内心、ルノワってやっぱりヤバくないか? と思った。