表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/411

第48話

 信康達はアザリアを連れて、森の中を歩き回る。


 歩き回りながら、どうして信康達が来たのか理由も教えた。


「成程のぅ。なりかけが出没したから、それの退治に来たという訳か」


「まぁ、概ねそうだ」


「ふむ。最近やけに騒がしいと思っていたが、まさかなりかけが居たとは知らなかったぞ」


「あの屋敷の周りには獣除けの結界でも、張っていたからだろう。だから、知らなかったんじゃあないのか?」


「お主、よく獣除けの結界が張られていると分かったな」


「あんな所に屋敷が建っていて、住んでいるのが魔法使いなら誰でも思うぞ」


「それもそうじゃな」


 アザリアは納得した。


そうして歩き回っていたら、何処からか悲鳴が聞こえて来た。


「男の悲鳴!」


「あっちからしたわっ!!」


「急ぐぞっ」


 信康達は悲鳴が聞こえた方に走り出す。一拍遅れて、アザリアも後を追いかける。


 悲鳴が聞こえた方に走り出す三人。


 その場所に着くと、かなりの惨状であった。


「ガオオォオオッッッ!!」


「た、たすけ、・・・・・・・がひゅっ」


 なりかけの熊の爪で切り裂かれ、兵士が倒れた。


 幸い切り裂かれたのは腕なので、痛みはするが生きている様だ。


 周囲に居る兵士たちは逃げ腰になりながらも、槍を構え倒れている兵士の傍に行き傷の具合を確認する。


「フーフー・・・・・・・」


 なりかけの熊は注意深く、息を荒くしながら周りを見る。


 それで周りをよく見る信康。すると熊の足元に一人の兵士が倒れているが、首筋を切られたのだろう。首に赤い線が出来ており、その線から血が次から次へと流れて出している。


 口からも血を垂らし、目に光が宿っていないので、恐らく事切れている。


 信康達は鬼鎧の魔剣オーガアーマーズ・ソードを抜いて、なりかけの熊と対峙する。


「熊のなりかけって、聞いていたからね。それなりに強いと思っていたけど、こいつは出来るね」


 ティファは獲物を前にした肉食獣の様な笑みを浮かべながら、舌で舐めずりする。


 得物の二刀を構えて、熊を見る。


 二刀の作りは中国よりも中東よりの作りだ。


 幅広の刃はまるで半月の形を切り取った様な、そんな形をしている半月刀(シャムシール)であった。


「じゃあ、お先っ!!」


 ティファが信康にそう言うと、二刀の半月刀を構えながらなりかけの熊に向かって駆けだした。


 なりかけ熊も自分に向かって来るティファが居るので、そちらに注意を向く。


 信康はその隙に倒れている兵士の救出と回収をする様に、兵士達に指示を出した。兵士達は信康の命令に大人しく従い、負傷した兵士と死んだ兵士を救出及び回収して撤退した。


「セイッ!」


 ティファは右の半月刀を振り被り、なりかけの熊の注意が右剣に向いた。


 その瞬間、見計らった様に左の半月刀で横一文字に切る。


 ドシュッ!


 狙い違わず、なりかけの熊の身体を斬り裂く。


 だが狙いが甘かったのか熊の筋肉で阻まれたのか、なりかけの熊の身体はさほど斬られていなかった。


 具体的に言えば、少し深く切れたぐらいだ。


「っち、浅いかっ」


 テイファは攻勢を続ける。


 なりかけの熊も爪で防いだりして、ティファの攻撃を凌きつつ偶に反撃する。


 なりかけの熊の攻撃は、得物で防いだり避けたりしている。


 なのでティファの身体には、まだ傷一つ付いてはいない。反対に熊の身体には幾つもの筋が出来て、そこから血が流れている。しかし傷自体が浅い様で、なりかけの熊は気にした様子は無く、ティファと戦っている。


(・・・・・・・幾ら女傑族(アマゾネス)と言えど純粋な体力勝負では、如何足掻いたって熊の体力には勝てない。それもなりかけともなれば、尚更の話だ。このままではジリ貧だな。そろそろ乱入するか)


 信康は何時、この戦いに介入するべきか考えていた。


 自分の愛刀である鬼鎧の魔剣の切れ味ならば、なりかけの熊の肉どころか骨まで断てる自信がある。そう思いながら、不意に隣に居るアザリアに視線を移した。


「ふむ。あのティファとか言う無礼な女傑族も、存外やりおるな」


 アザリアはそう言って、ティファの奮闘を評価していた。


 その声を聞いて、信康は妙案を思い付いた。


 どうせならばこの場にある手札を有効活用したいと、そう思いながら。


「アザリア。手を貸して欲しい」


「何じゃ、妾に何をさせたいのじゃ」


「別に難しい事を、お前に頼む心算は無い。俺の得物に強化(エンチャント)の魔法を掛けてくれ。お前程の魔法使いならば、造作も無いだろう?」


 強化とはその名前の通り、魔力で掛けた対象を強化させる魔法だ。魔力を人に掛けて身体能力を上げるか、又は物体に付加する事で強度や威力などが増大させる事が可能。


 魔法を使う者は基礎にこの強化の魔法を習うと、元同僚で魔法に長けた傭兵達から聞いた事がある。アザリア程の技量があれば、朝飯前だと思う信康。


「別に構わぬが・・・強化の魔法を掛けても、あのなりかけの熊を倒せるか分からんぞ」


「ぶっちゃけて言うとお前に強をして貰わなくても、あの程度の熊を倒すなんて別に大した事でも無いんだ。だがあった方が、より楽に倒せる。と言う訳で、よろしく」


 信康があまりに自信満々言うので、面白そうな顔をするアザリア。


「ほっほほほ。なり損ないとは言え、魔物に近い熊を相手にそんな大口叩けるとは、面白い男よ」


「そいつはどうも」


「では、早速・・・強化」


 アザリアは詠唱を唱えないで、強化の魔法を唱えた。


 すると信康の鬼鎧の魔剣に、光が宿り発行し始めた。


「無詠唱か、やはり思っていた通り凄いな」


 信康は刀を見ながら感心する。


 無詠唱で魔法を唱えると、精度が無ければ威力が半減すると言われている。詠唱時と同等以上に、無詠唱で魔法を唱えられる魔法使いは一流の証明でもある。


 しかもこの強化の魔法は、かなりの強化がされていた。


「ほっほほ。妾にとってはこれ位、簡単な事じゃ」


 アザリアは大した事は、していない様に笑う。しかし信康に褒められて、まんざらでも無い表情を浮かべていた。


 信康は魔法で強化された鬼鎧の魔剣の刃横にして、正眼に構える。


 そして、なりかけの熊の動きに注視する。


(さて、さっさと殺るか。熊の筋肉は厚くて面倒だから、狙うは急所のみっ!)


 信康は熊が背中を見せるその時まで、ジッとティファの戦いを見ている。


 ティファはと言うと自分の半月刀で、なりかけの熊の身体を斬り裂く事は出来ている。しかしどの太刀筋も、内臓まで達していないのは分かっていた。


 だが攻撃をしないで防御に徹しても、なりかけの熊の一撃を受け止める事も逸らす事も出来ない。防御に回ると死ぬと分かっているので、効かないと分かっていても攻撃するしかない。


(っち! 前の戦で、寿命(ガタ)が来ていたみたいね。この任務が終わったら、修繕に出そうかな? それでも直らないなら、新調する事も考えないと駄目だね)


 ティファは呑気にそう考えながら、何かこの苦境を打開出来る手段を考える。


 しかしお世辞にも回転が速いとは言えないティファの頭では、何も思いつかないまま戦い続けていく。するとなりかけの熊が、漸く信康に背中を見せた。


「っ!・・・好機っ!!」


 信康はなりかけの熊が背中を見せると、鬼鎧の魔剣を構えたまま駈け出す。


 なりかけの熊の注意はティファに向いているので、信康に構う余裕は無かった。


 そして信康は、鬼鎧の魔剣を前へと突き出してた。


 突き出された鬼鎧の魔剣はなりかけの熊の毛皮と筋肉を貫き、更に心臓を貫いて勢いのまま突き進み、なりかけの熊の身体を貫いた。


「グゥオオオオオオオオッ!!」


 なりかけの熊は、悲鳴を上げる。


 なりかけの熊の悲鳴を聞きながら、信康は|鬼鎧の魔剣を捩じり抜いた。


 捩じった事で傷が広がり、出血が増えていく。


「っ!  隙ありっ!!」


 自分の急所に鬼鎧の魔剣を突きたてられたので、なりかけの熊の動きが止まった。


 その隙を見逃さず、ティファはなりかけの熊の首に向かって半月刀を叩きつけた。


 なりかけの熊に妨害される事無く、半月刀は首に叩き付けられた。そして首から噴水の様に、血が噴出して地面を赤く染めて行く。


「グウゥゥゥゥ・・・・・・・」


 なりかけの熊が、俯せに倒れた。


 信康は一応確認の為、鬼鎧の魔剣で熊の身体を突いた。


 だが、反応も無かった。更に目を見てもその目には光は宿っておらず、ただ空虚だった。


「どうやら、死んだみたいだ」


 信康はなりかけの熊が死んだのを確認して鬼鎧の魔剣を振ってから収めた。


 ティファも信康を真似て半月刀を振って血を振り落としたが、少し血が残ったので布で拭いてから鞘に納刀して収めた。


「助かったわ。お蔭で殺られずに済んだ・・・でももうちょっと早く、加勢してくれても良かったんじゃないの?」


「悪い悪い。だが最善の方法だったろう?」


 信康達は軽口を叩いていたら、拍手が起こった。


「うむ。なりかけ如きとはいえ、よくぞ倒した。見事な腕前よ」


 アザリアが信康達を褒め称える。


 二人は当然みたいな顔をする。


「まぁなりかけが相手だったから、この程度で済んだね。これが魔物の熊なら、こんなに早く倒せなかったと思うよ」


「それは俺も同じだ」


 そして三人は笑い出す。


 笑いながらも話していると、負傷した仲間を搬送していた兵士達が戻って来た。


 遅い増援だなと思いつつも、口には出さない三人。


「・・・・・・皆さんが、このなりかけの熊を倒したのですか?」


 そう問い掛けるのは、増援の中に居る美女だった。


 金髪を足まで届く長さの三つ編みにして、横髪は外にハネている。


 着ている服も警備隊の制服ではなく、真っ白な服に同様の白い胴当て。手には白い手甲を着け、腰には剣を差している。


 理性的な眼差し。何処か気品を感じさせる顔立ち。神々しい雰囲気を放っている。


 その青い瞳が、信康達を見る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ