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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章

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第43話

 プヨ歴V二十六年六月二日。


 小鳥の囀りが響き、部屋に陽光が差し込む。


「う、う~ん・・・・・・・朝か」


 信康は目を覚ますと、自分の両腕を枕にして寝ている二人が目に入った。


「すぅ、すぅ・・・・・・・・」


「う~ん・・・・・・・・」


 セーラとルノワは、気持ち良さそうに寝顔を晒す。


 信康は二人が起きるまで、このままで居ようと思い目を瞑る。


(これで兵舎の増築が終わるまでの間、部屋は確保出来た。さて、これからどうしたものか)


 このまま兵舎の増築が終わるまで、何もしないというのは退屈過ぎる。ルノワやセーラと過ごし続けるのも良いのだが、流石に二人も四六時中自分と居たいかと言われたら首を横に振る筈だと思う信康。


 なので、少し別の事で身体を動かす方法を考える信康。


 だが、何をしたら良いのか分からない。


 そう考えていると。ルノワの耳がピクピクと動き出した。


「う、う~ん・・・・・・おはようございます。ノブヤス様」


「ああ、おはよう」


 ルノワは信康の頬に口付けをしてから、身体を起こす。


「身体を洗ってから、朝ご飯の支度をしますね」


「良いのか? 今日くらいは俺がしても良いぞ」


「いえいえ、これくらいなんとも」


 ルノワは身体を起こそうとしたが、足が縺れてしまいベッドから落ちてしまった。床に転がったルノワは、信康に尻を見せる様な四つん這いの体勢になった。


「う、うううう、おう、あさですか・・・・・・・・」


 音が聞こえたセーラが目を開ける。


 そして、直ぐに自分がどんな状態か分かったようだ。


「あっ、わたし・・・・・・・結局、寝ちゃったんですね」


「そうだな」


「わ、わたし、ちょっと身体を洗いますね」


 セーラはベッドから出ようとしたが、全裸だと分かるとシーツを奪って自分の身体に纏わせた。


 そして、風呂場に向かっていくので、ルノワもその後に続いた。


 二人が出た後、信康も風呂場に入り身体を綺麗にした。


「ちょっと、出掛ける。留守は任せたぞ」


 朝食を取り終えると、信康は声を掛けると、二人は頷いた。


 部屋を出ると、何処に行こうかと考えながら歩いた。


 そうしたら、自分が出た部屋の右隣の部屋の扉が開いた。


 左隣の部屋はルノワの部屋なので、右隣の部屋の住人は知らない人物だ。


 丁度良いとばかりに、出て来る人に挨拶をしてこの階の住人はどんな人なのか、大まかに訊こうと思った。


 誰が出て来るだろうと思っていたら、出て来たのはレズリーだった。


「ああ、あんたか。おはよう、こんなに朝早くから、何処かにお出かけかい?」


「おはよう、レズリー。まぁな。今日も平日だから、お前はこれから学園に行くのか?」


「そうだよ」


 其処まで話していて、信康はレズリーが信康がこのアパートメントに居る事に驚いた様子は無いのが気になった。


「そう言えば、お前。そんなに驚いてないが・・・俺がこの部屋に来る事を知っていたのか?」


「ああ。一昨日、大家のカルレアさんから話を聞いていてね」


 成程なと納得した信康。あのカルレアは真面目そうだから、普通にしそうだなと思った。


「急いでいる所を悪いが、ちょっと教えて貰いたい事がある」


「良いぜ。何が知りたい?」


「この階の住人を教えてくれ」


「ああ、それくらいならお安い御用だ。この階は全部で六部屋ある。先ずはあたしだね。二〇一号室にあたしが住んでいるよ。日中は大体学園に居るから、用事がある時は夜に来な。その時間なら居ると思うから。それであんた達が借りた部屋が、二〇二号室と二〇三号室だね。次に二〇四号室の人は占い師をしているそうだぜ」


「占い師?」


「ああ。シエラザードって女の人が住んでいるだけど、あたしから見てもすっごい美人だね。特に此処が凄いね」


 レズリーは手で山を作るジェスチャーをした。


 それは胸がデカいと言いたいのだろう。


「ほぅ、それはなんとも」


 それならば是非とも、お近付きになりたいものだと思う信康。


 そしてその極上に肉体を味わいたいと思っている。


「話を続けるぜ。二〇五号室に居るのは魔族で、ブラベッドって言う女だよ」


「今度は魔族か」


 魔族とは亜人間の種族の一つだ。特徴なのは色々な肌をしていて、角がある有角種と角が無い無角種で大きく分かれる。


 他に特徴と言えるのは、森人族(エルフ)と同様に不老長寿だと言われている。


「仕事はバーテンダーをしているそうだぜ。話した事が何回かあるけど、良い人だと思うよ」


「ふぅん、そうなのか」


 女性のバーテンダーか、あまり見かけないなと信康は思った。


 バーテンダーは主に男性がする事が多い職業だ。


 なので、女性がなるのは珍しいのだ。それは魔族も同じだ。


「最後の二〇六号室の人は半森人族(ハーフエルフ)のコレットさんだ」


「今度は半森人族か。ここのアパートは随分と色々な人種がいるな」


 半森人族。森人族と人間との間に生まれる混血児で、森人族からは混血と忌み嫌われている。人間からしたら森人族と半森人族の違いが分からないので特に区別はされない。


 森人族から言わせたら、耳が自分達の耳よりも短いと言うが、全く分からない。


「でも、あたしは話した事ないから、どんな人か知らないな。目と耳以外は隠れるフードをずっと被っているから、見た目だけじゃ男か女かも分かんないし。朝に偶に会う事もあるけど、会釈されるだけで言葉を交わした事も無いなぁ」


「そうか。教えてくれてありがとな」


「いや、これくらい安いものだから、別に良いさ」


 レズリーは腕に付けている時計を見る。


「やっべ、そろそろ行かないと遅刻しちまう。じゃあ、あたしはも行くぜ」


「おう、色々教えてくれてありがとな」


 信康がそう言うと、レズリーは片手をひらひらさせて学校に向かう。


 レズリーの背が見えなくなると、信康も下に行く。


(鍛錬や勉強って気分でも無いから、何処かに暇を潰せる所でも探すか)


 信康はそう思うと、アパートメントの敷地外に出た。今日は大家のカルレアに、会う事は無かった。

 

 暇潰しを探しに、外へと出かけた。

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