第42話
「ふぅ。取り敢えず、やっと引っ越し作業は終わったか」
「そうですね」
「結構時間が掛かりましたね。もう、こんな時間ですね」
セーラがそう言って時計を見ると、今は午後五時過ぎだった。
お昼はブーランジェリー・グランヒェルから購入した焼き立てのパンを食べて、昼休みを挟んで部屋を整理した。その結果、こんな時間になるとは信康達は誰も思っていなかった。
「晩御飯はどうします?」
「・・・・・・・考えてなかった」
終わったら決めようと思っていたので、材料になる食材も買って来ていない。
どうしようかと考えていたら、セーラが提案してきた。
「じゃあ、今から食材買ってきますよ」
「今からか? 流石に碌な物が無いだろう?」
「大丈夫です。これでも料理は得意ですから」
「そうか。じゃあ任せる」
「はいっ、それじゃあ買って来ますね。ノブヤスさん達は休んでいて下さい」
「ああ」
「お願いします」
セーラが買い物の為に出て行った。
来客用に購入した、ソファーに腰掛ける信康。
「セーラが居てくれて助かったな」
「そうですね。セーラさんが居てくれて、助かりました。私達だけでは、夜まで掛かっていたでしょう」
「まぁ、そうだな」
ソファーに凭れながら、息を吐く信康。
其処で今は自分とルノワしか、この部屋には居ない事に気付く。
(さっき出来なかったし、今するか。でも、セーラが何時来るか分からないから・・・・・・)
其処まで考えて、信康は口でさせる事にした。
「ルノワ」
「はい、何でしょうか?」
信康は何も言わず、手招きする。
ルノワは何も言わない信康を不審に思うことなく近寄る。
信康の前まで来た。
「いつも悪いな」
そう言って、ルノワの頭を撫でた。
撫でられる事が、嬉しいのか、顔を緩ませていた。
暫く撫でていると、ルノワは耳をピクッと動かし離れた。
信康はどうしたと尋ねる前に、何故そうしたか直ぐに分かった。
「ただいま、戻りました。食材、沢山買ってきましたよっ」
セーラが紙袋に大量に食材を入れて帰ってきた。
セーラが思っていたよりも早く着いた事に、信康は内心舌打ちした。尤も、顔にはそんな思いは出さなかった。
「済まないな。買ってきてもらって」
「いえいえ。引っ越し祝いみたいなものですから、これくらい安い物ですよ」
キッチンに買い物袋を置くセーラ。
「買ってきて頂いて、ありがとうございます。今日は私が料理を作りますから、セーラさんは休んでいて下さい」
「えっ、ですが」
「セーラさんはお客さんでもあるのですから、お気になさらずに。ノブヤス様と話でもして、待っていて下さい。直ぐに出来ますから」
セーラはまだ何か言いたそうであったが、ルノワにキッチンから追い出されたので、仕方がなくリビングに行く。
リビングには信康とセーラの二人だけになった。
ギクシャクした空気を出していたが、信康がそれとなく話しかけると、セーラが話に乗っかった。
少しすると、ルノワが料理を持ってきたので、三人は一緒に料理を食べた。




