表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信康放浪記  作者: 雪国竜
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

407/411

第401話

「へへっ、悪いな。ルディア」


 ゲオルードは死んだ愛騎に変わったグリフォンの背に乗りながら、この場に居ないルディアに謝った。


「何か言いましたか。隊長」


「いや、何も」


 傍に居る副官が、ゲオルードに訊ねるが、ゲオルードは首を横に振る。


「こうして上空から敵陣を見ると篝火がまばらで見張りも少なくないか?」


「ええ、夜襲はないと思っているのか、警戒心が薄いですね」


 プヨ軍の陣地を上空から見るゲオルード達は陣地を見ながら話ている。


「まずは、敵の陣地にを攻撃して適当に暴れたら砦に撤退だ。ついでに」


「ついでに捕まっている奴を助ける、ですか?」


「そうだ。悪いな」


「何を言いますか。隊長が『今晩は新月だから、夜襲を掛ける』って言った時からこうなる事は予想済みですよ。でも、後で軍法会議に掛けられたら助けてあげられませんからね」


「それは大丈夫だ。夜襲が成功すれば、誰も文句はつけれないからな」


 ゲオルードはもう既に夜襲が成功したみたいな顔をしていた。


「まぁ、これだけ警戒がないのでしたらそう思いますね」


 副官も頬を掻きながら頷いた。


「じゃあ、そろそろ行くぜっ」


 ゲオルードがそう声を掛けると、副官と連れて来た部下総勢五十騎が頷いた。


 ゲオルードが槍を振り下ろすと同時に、プヨ軍に向けて急降下した。


 その後、部下達が続いた。


 ゲオルードは少しも速度を落とさず、そのまま駆け出した。


 そして、降下先には敵兵がいる。ゲオルードは片手で手綱を操りながら、槍を扱いて敵兵に狙いを定めた。


「おっしゃらあああああっ」


 降下しながら繰り出された一撃は、敵兵に当たる。


 だが、槍が当たった敵兵は悲鳴を漏らす事無く倒れた。


「あん?」


 ゲオルードも斬った手応えが肉を斬った感触ではないと思い、首を傾げた。


 部下達も敵兵を切り捨てるが、その感触に首を傾げていた。


 ズシャアアアアアッ‼


 部下の一人が陣幕を切り裂いた。


 だが、その陣幕には人が一人も居なかった。


「これはっ⁉」


「しまった。罠か⁉」


 誰かがそう叫ぶと、四方から火矢が飛んで来た。


 その矢はゲオルード達を当てる為というよりも、狙いを定める為に放ったのだろう狙いが適当であった。だが、その火矢の明かりにより、ゲオルード達が丸見えであった。


 そして、その明かりにより自分達が切り裂いた物の正体が分かった。


「これは⁉」


「藁人形⁉」


 ゲオルード達が倒したのは、兜と鎧を着用した藁人形であった。


 今夜は新月だからゲオルード達が夜襲を掛けたように、プヨ軍もその新月を利用したのだ。


 これでもし月が出ていたら、動かない敵軍の兵士を不審に思うだろうが、新月では暗いという事で誤魔化す事が出来た。


「っち、撤退だ!お前等、遅れるなっ!」


 ゲオルードは夜襲が失敗したと分かると直ぐに撤退を指示した。


 部下達も慌てる事無くその指示に従い、砦へと向かった。


 その途中、ゲオルードの部下が磔にされている所に通りかかった。


「仕方ねえ。行き掛けの駄賃だ。こればっかりは貰って行くか」


 ゲオルードは手綱を操り、磔台に近付く。


 槍を仕舞い、短刀を出して女騎士に声を掛ける。


「おい。大丈夫か?」


「・・・・・・」


 顔を俯かせたまま、何の反応も無い。


 これはかなり拷問されたなと思いつつ、ゲオルードは短刀で女騎士を縛っている縄を斬る。


 そして、女騎士を自分の胸元に抱き寄せる。


「おい。しっかりしろっ」


 ゲオルードがそう声を掛けて、女騎士の顔をあげる。


「おい。大丈夫か・・・・・・っ、これは⁉」


 ゲオルードは女騎士の顔を見て驚いた。


 自分の情婦なので顔は知っている。


 今、自分の腕の中に居る者は自分が知っている女騎士にそっくりだ。


 だが、其処にある顔は作り物の顔であった。


 目が硝子玉みたいな物で、顔は肌色に似た塗料が塗られていた。


「こいつは、人形か⁉」


 驚くゲオルード。


 そんな中で、突然人形が発光し出した。


 次の瞬間、爆発した。


 ドンという大きな音を立て、周囲に黒煙を噴かせた。


「隊長っ⁉」


 副官が驚く。


 その黒煙の中から、ゲオルードが飛び出した。


 ゲオルードは地面に落下した。


 幸いだったのは、磔台がそれほど地面に離れていなかったので死ぬような事はない。


「ってて、いきなり、ばくはつしやがった・・・・・・」


 ゲオルードも頬に煤をつけているが、それほど傷を負っていないようだ。


「はっはは、まさかここまで簡単に引っ掛かるとはな」


 暗がりの中から、信康が出て来た。


 鎧を召喚したのか、既に『黄乾闥鬼の鎧』を着用していた。


「おまえはっ⁉」


「この前ぶりだな。えっと、げおるーど?だったな」


「その声は、東洋人の傭兵かっ」


「そうだぜ」


「丁度いい。此処で手前を殺して、俺の相棒の仇を取らせてもらうぜっ」


「やってみろ。出来ればの話だがな」


 信康は琵琶を構える。


「隊長を助けろっ」


 副官がそう命じると、部下達が降下してゲオルードの周りを固める。


「ふっ、破滅の音色で黄泉へ誘ってやる」


 ジャン! ジャアアアン‼


 信康が琵琶を鳴らし出した。


「「「Guuuuuuuuuuuuuuu⁉⁈」」」


 グリフォン達が苦しみ出した。


 それにより、騎兵隊の隊員達がグリフォンから落ちないように手綱を操る。


 シャラン! シャンシャン!


「「「があああああああっっっ⁉」」」


 琵琶の音が変わったと思ったら、今度はゲオルード達が耳を抑えて苦しみ出した。


「な、なんだ、こりゃあ?」


「破滅の音色だよ」


 信康はそう答えながら、再び琵琶を鳴らし出した。


 その音色が聞こえると、何処からか部隊が現れた。


「隊長に当てるなよ。よく狙え、撃てっ」


 トッド率いる弓兵部隊が連弩で矢を放った。


 信康の攻撃で、苦しんでいるゲオルード達は飛んでくる矢を防ぐ事が出来ず、矢が当たり、一騎又一騎と撃墜されて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ