第398話
翌日。
信康とリカルドの両部隊は、死体の回収作業をしていた。
停戦もしない死体の回収なので、敵の攻撃を受ける可能性がある。なので砦側を警戒しつつ、なるべく早く死体の回収作業を終わらせようと勤しんでいた。
そもそも、どうしてこの状況で死体の回収作業をしているのかと言うと、総大将グイルの命令だからだ。
伝令で出撃するなと通達したのに、勝手に出撃した罰だとヘルムートから聞いた。出来れば御咎めなしにして欲しかったと思いながら、信康はその命令に従った。
「ふぅ、荷車があるだけマシか」
信康は死体を背負い、荷車に乗せて額に浮かんだ汗を拭う。
「済まない、ノブヤス。僕が出撃したいと言ったばかりに」
リカルドは死体を荷車に乗せて、身体を信康に向けて頭を下げる。
「良いさ。俺も出撃したいと言ったんだから連帯責任みたいなものだろう」
信康は気にするなと手を振る。
「助かるよ」
「しっかし、こうして見ると殆どが味方の死体だな」
信康は辺りを見回しながら呟く。
今も信康とリカルドの二隊の隊員達は壊滅状態となった第二部隊の死体を回収している。
その作業を見て、思わず口に出たようだ。
「それで思ったのだけど、どうして第二部隊は持ち場を離れたんだろうね」
リカルドは気になっていたのか、信康に訊ねた。
「ああ、推測で良いのなら教えてやるぞ」
「構わない。それに、君の推測は結構的を射ている事が多いからね」
「分かった。恐らくだが、グイルはムスナンに威力偵察に行って来いと言ったんだろう」
「第二部隊だけにかい?それはかなり無謀というか愚策じゃない?」
「今回の出兵目的は新生第三騎士団のお披露目みたいなものだからな。つまり、結果を残さないといけないんだよ」
「ふむふむ。成程」
「で、そんな中で砦の攻略に失敗。多分だが、事前に砦に偵察はしたんだろう。その偵察をしたのが第二部隊だろうな」
「つまり、砦の偵察を失敗した責を砦に攻撃する事で許したと?」
「ムスナンには威力偵察と言ってな」
「でも、それだったら別に救援しても良いと思うのだけど?」
部隊を一つ壊滅させるというのは、戦場では結構後々に響く。
「これも俺の推測だが、ムスナンに砦に偵察に行かせて生きて帰還出来たとしても許すつもりなんて最初からなかったんじゃあないかと思うぞ」
「どうして?」
「伝令が「第二部隊が勝手に持ち場を離れた」と言ったからだよ。恐らく、無謀な威力偵察なんかに無理矢理行かせて部隊を壊滅させたら自分の人望が無くなると考えたんだろう。ムスナンが死んだらそれで許し、もし、ムスナンが生きて帰って来たら、部隊を壊滅させた責任と持ち場を離れた罪で処罰するって筋書きだろうな」
信康の推測を聞いて、リカルドの顔に怒りが浮かんでいた。
「つまり、第二部隊はグイルの腹癒せとムスナンを処罰される為だけに壊滅したという事かい?」
「推測だが、そうなる」
「ふざけてるっ」
手を握り絞めるリカルド。
「・・・・・・」
兄を殺された原因が、自軍の指揮の所為でもあると分かったリカルドに信康は声を掛ける事が出来なかった。
どうしたらいいかと思っていると。
「隊長っ。ノブヤス隊長っ」
信康の隊の隊員が声を掛けて来た。
「どうした?」
「ちょっと来てくださいっ」
隊員は来てくれというので、信康はリカルドに一瞬だけ目を向ける。
顔を伏せて拳を握っている。
これ以上声を掛けるべきではないなと思い、信康は呼んだ隊員の下に行く。
「一体、どうした?」
「これを見て下さいっ」
隊員が指差した先には、昨日、信康の隊の攻撃で撃墜したと思われた飛行兵部隊の死体があった。
その死体がある中で、一匹だけ微かに呼吸しているグリフォンが居た。
更にそのグリフォンの腹には露出が激しい軽鎧を着た女騎士が居た。
どうやら、グリフォンが自分の主を腹に隠して守っているようだ。
「昨日の攻撃で、奇跡的に騎手も騎獣も致命傷を受けないでいたようです」
「ふむ。グリフォンが女騎士を庇っている所を見ると、そう考えるべきか」
グリフォンも致命傷こそ受けなかったものの、翼と足に矢が刺さって飛び立つ事が難しいのだろう。
「お前等、少し離れろ」
グリフォン達の周りを囲んでいる部下にそう命じる信康。
そう命じられてグリフォンから離れる隊員達。
信康は隊員達を間をすり抜けて、グリフォンに近付く。
「・・・・・・」
「Guriririrriri」
グリフォンは近付く信康を威嚇する。
「自分の主を助けるとは、畜生ながら天晴な心構えだ。だが今は戦争中なんでな、悪く思うな。『酔呪の光』」
信康は人差し指をグリフォンに向けて詠唱した。
すると、指先から黒い光が生まれた。
その光を見たグリフォンは瞳に力を無くした状態となった。
「よし、良い子だ。其処から離れてその女を見せろ」
信康がそう命じると、グリフォンは立ち上がりその場から離れる。
「「「おおおおおおおおっ」」」
グリフォンが信康の命令を聞いたのを見て、驚きの声を上げる隊員達。
グリフォンが退いたので、信康は女騎士に近付く。
「ふむ。特に外傷らしい外傷はないな。おい」
「へい。何ですか?」
「空いている荷車を持って来い。この女とグリフォンを乗せて俺達の陣まで運べ」
「えっ、良いのですかい。生きているから、捕虜になりますぜ。それだったら、本陣に渡した方が褒美を貰えると思いますよ」
「気前が良い大将だったらそうするが、生憎と期待出来ん。それに、ちゃんとした情報を持っているか知りたい」
「はぁ、分かりました」
「ああ、それと、もし運んでいる最中、傭兵部隊の奴ら以外に訊かれたら『カロキヤ軍飛行兵部隊のグリフォンを鹵獲した』と言え」
「女の方は?」
「傷が少ない死体だから持って帰って来たとでも言っとけ」
何処の戦場でも、異性同性構わず綺麗な死体で性処理をする変態は居るので通じると思い、信康は述べた。
「いや、ちょっと隊長。俺達、そんな趣味はありませんよっ」
「だから、何か言われたらそう言えと言っているだけだ。それに生きているだろう」
「するてえと、部隊の慰安ですか?」
「・・・・・・持っている情報による」
それだけ言って、信康は後の事は部下に任せて死体回収に戻った。




