第382話
「攻城する時に攻め手が欠けるが。少し面倒だと思えばいいか」
「面倒ねぇ、勝てないとは言わないんだ」
鈴蘭はこの編成では勝つのは難しいのではという顔をしていた。
「それは大丈夫だろう。幾らなんでも『不落』の異名を持つ城塞都市アグレブをまさか、攻城兵器も持たずに進軍する訳ないにも行くまい。ついでに、俺達はその攻城兵器を幾つか貰えれば良い」
「そう上手く行くかな?」
「かなじゃない。行かせるんだよ。なに、良い方法があるから大丈夫だ」
「良い方法?」
それを聞いて胡乱な目をする鈴蘭。
「そんな目で見るなよ。ちょっとした知り合いが居るから、そいつに口利いてもらうだけだ」
「へぇ、それって女?」
「男だよ」
信康は失礼だなと思いつつ答えると。
「えええええっっっ⁉」
鈴蘭は信じられないという顔をした。
「何だよ。その反応は?」
「だ、だって、信康が男友達いるなんて信じられないよっ」
「失礼な奴だな。俺だって同性の友達の一人や二人は居るぞ」
「うっそだぁ」
鈴蘭がそんな事を言うので、流石にカチンと来た信康。
「お前な、俺だって故郷に同性の友達ぐらい・・・・・・」
其処まで言って、言葉が続かなかった。
信康は故郷の友達の事を思い出していると、何故か浮かんでくるのは、父親。その家臣。母親。世話になった吉良家の者達。
皆、同世代ではなく自分よりも一回り年上の人達だった。
そして、一緒に遊んだ者と言えば、妖と鈴蘭達だけであった。
しかも、その妖も男の子は一人も居ない。女の子だけだ。
「ま、待て。えっと、一緒に遊んだ妖は、ぬらりひょんの娘。雪ん子。猫又。鬼。稲荷。カラス天狗だったな」
遊んだ者達を種族を挙げて行くと、見事に男の子は居なかった。
ちなみに、雪ん子は雪女の子供で女の子を事を言う。男の子の場合は雪童子と言う。
「ほら、全部、女の子じゃない。まぁ、故郷で女の子と遊んだから、こうして立派な女たらしになったんだろうね」
鈴蘭はにひひっと笑のであった。
「む、むううううっ・・・・・・」
それについては、信康は反論する事が出来なかった。
数日後。
信康は兵舎と貰った家を行き来しながら、戦への準備を進めていた。
まだ正式に発表はされていないが、鈴蘭達が集めて来た情報だ。
ガセネタという事は無いだろうと思い、訓練をしながら部隊の装備の確認をしていた。
今日も、部隊を二つに分けて模擬戦をしていた。
だが、信康はルノワと一緒に見ているだけで何もしなかった。
代わりに、指揮するのはケンプファと新参のブルスティが指揮を取っていた。
「左翼、下がれ。中央、その場で待機しろ。右翼前進!」
「全隊、守りを固めろっ」
現在はブルスティが攻撃。その攻撃をケンプファが防いでいるという感じになっている。
二人の指揮を見ながら、信康は二人の癖を見抜く。
(ケンプファは堅実な戦法を好むようだな。対して、ブルスティは攻守ともに良いバランスだな)
当初は二人の指揮ぶりを見て、優れた方を副隊長にすると考えていた。
だが、二人共。優れた指揮なので、どちらを副隊長にするか悩んでいた。
「なぁ、お前はどっちにしたら良いと思う。ルノワ」
そう訊きながら、信康は隣にいるルノワの尻を撫でた。
いきなり撫でられたので、ビクンと身体を震わせるルノワ。
「ん、わ、わたしは両名を副隊長にしても、良いと思います・・・・・・」
顔を赤らめながら答えるルノワ。
「ふむ。それも悪くないな」
信康は悪くないなと思った。
信康の部隊は歩兵。騎兵。弓兵。魔法兵と最近新設された治療部隊という内分けである。
なので、分隊で行動する事もある。その時に副隊長と一緒に行動した方が不足な事態になっても対処できる。
更に、信康は前線に出て戦う事も良くあるので、その間の部隊の指揮を任せる事も出来る。
「・・・・・・そうだな。二人共。副隊長にするか」
信康がそう考えていると、誰がか近づいてきた。
「失礼しますっ」
信康が声をした方に顔を向ける。
其処にはヘルムートの部隊の者が居た。
「何か用か?」
「はっ。ヘルムート隊長が御呼びです。至急会議室へと来られたしとの事ですっ」
「ふむ、そうか今向かう。ルノワ。模擬戦が終ったら、後は好きにさせろ。それと、後でブルスティとケンプファには俺の部屋に来いと伝えろ」
「畏まりました」
ルノワは一礼し答えた。
それを背で聞いた信康は呼びに来た隊員の案内で会議室に向かった。




