第371話
数時間後。
王立競技場では豊穣天覧会が開催されていた。
その競技の一つである、馬上槍試合の個人戦が行われていた。
「はあっ!」
グラウェンに乗ったリカルドが、馬上槍を突き出した。
「っっ?!」
胴体に馬上槍が直撃して、相手の騎手は落馬した。
「勝者っ。リカルド・フォン・シーザリオンッ!」
審判がそう宣言すると、観客席から歓声が上がった。
リカルドは歓声に応えるかの様に、馬上槍を天に突き上げた。それを見て観客席からは、更に大きな歓声が上がった。
そんなリカルドを、信康は待合室で見ていた。
(あいつ、普通に強いんだよな)
信康はリカルドが試合をしているのを見て、素直にそう思った。
(冗位騎士との試合でも、頑張ってたしな)
信康は、待合室に張り付けられている出席名簿を見る。
「・・・・・・結構減ったな」
信康はその名簿を見てもう残っているのは自分とリカルドを含めて、四人しか居ないのだと知った。
この競技が始まる前に係員が、名簿に書かれていた名前の半数以上を消した。
理由は不正行為を行ったので失格とした事と、その不正行為により出場不可となったので辞退するという説明が行われた。
その説明を聞いて信康は、カルノーがディエゴを糾弾したんだなと分かった。
案の定、その名簿からディエゴの名前が消えた。
それを見てリカルドは、複雑そうな顔をしていた。
ディエゴがそんな事をした事を信じられない様な、ディエゴと戦う事がなくて嬉しい様な顔であった。
人数は減ったが、それでも三十二人ほど残っていた。なので、競技を行う事に問題はなかった。
そして競技が開始されると参加騎手は、瞬く間に倒されていった。
「残っているのは、俺とリカルドとジャンリムとシーリアか」
知り合いが残っている事に、信康は喜んだ方が良いのかなと思った。
「ノブヤス」
声を掛けられたので、信康は振り返るとリカルドが居た。
「おお、お疲れさん」
「ありがとう。それにしても、残ったのは僕達と一昨昨年の優勝者と信康が勝った去年の優勝者か」
不安そうな顔をするリカルド。
去年の優勝者はシーリアなので、もう一人のジャンリムと言うのが一昨昨年の優勝者と言う事になる。
「噂によるとそのジャンリムって奴は、この馬上槍試合の常連者だと聞いたが?」
「ああ、そうだよ」
信康はそれを聞いて、難しい顔をした。
「強い・・・んだろうな」
「ああ、強いよ。一昨年と去年の大会でも、あのシーリアに敗けて準優勝って結果を残してるんだ」
「そうか」
正直に言えば勝負を嗾けて来たディエゴが失格になっている時点で、信康は敗けようが勝とうがどうでも良い。
なので次に試合は負けても、個人的には問題なかった。
「次は誰が相手だろうな」
「もし僕と戦う事になっても、絶対に手は抜かないでくれよ?」
「了解した」
信康がそう答えると係員がやって来た。
そして、今ある名簿を剥がして新しい名簿を張った。
信康とリカルドはその名簿を見ると。
第一試合 リカルド・フォン・シーザリオン対シーリア・フォル・レダイム。
第二試合 ノブヤス・フォン・レヴァシュテイン対ジャンリム・フォン・マーシャル。
張り出された名簿を見て、信康は少し残念な気持ちであった。
(リカルドと戦った事はないから、ちょっと戦ってみたかったなぁ・・・・・・)
これではリカルドと信康が勝たねば、決勝戦で戦う事は出来ない。
「う~ん。ノブヤスと戦う事が無い事を喜ぶべきか、それとも悲しむべきか」
「其処は喜べよ」
信康はそう突っ込むと、リカルドの肩を叩いた。
「決勝戦に行けたらお互い、全力を出そうぜ」
「ああ、分かった」
信康とリカルドは、お互いの拳をぶつけた。




