第363話
プヨ歴V二十七年十月一日。
ケソン地区にある、プヨ王立競技場。
「ええ~本日は晴天に恵まれ、この良き日に収穫祭を行う事が出来て、誠に嬉しく思えます。そもそも、収穫祭とは・・・・・・」
収穫祭の開催を告げる挨拶を、儀典局局長が収穫祭の歴史に遡りながら挨拶する。
皆も挨拶はこういうものだと分かっているのか、誰も『早く開催を宣言しろ』とか『話が長いっ』とか野次を言う者は居なかった。
過去の事例を遡れば実際にヤジを飛ばした愚か者は何名か居るのだが、全員が例外無く近衛師団の団員達に拘束されていた。
「・・・・・・早く開催してくれないものか。このままじゃあ、開催宣言する前に疲れきっちまうぜ」
「まぁ、そう言わずに」
信康は欠伸交じりでその挨拶を聞いており、耐え切れず苦言を言うとリカルドは宥める。
「どうせ、俺達の試合は明後日だろう? だったら開催宣言を終えたら、さっさと帰って寝たいんだがな」
「そんなに眠いのかい?」
リカルドが尋ねると、信康は首肯した。
「そうなんだ。そう言えばステラ女史の屋敷で、時々寝泊りしているそうだね?」
「ああ、そうだ」
信康が肯定すると、リカルドは思わず冷汗が背中に流れるのを感じた。
「どう過ごしているかは、想像に任せる」
「嘘だろう? 相手はプヨ五大貴族の一つ、ユキビータス伯爵家の分家筆頭一族の当主補佐なんだよ? そんな名家の女性に手を出したら、どんな目に遭うか分からないぞっ!?」
「ははは、リカルド。良い事を教えてやろう」
信康は笑みを浮かべながら、リカルドを見る。
「人生とは結局、楽しんだ者勝ちなんだよ。我慢して月日を過ごすのは、金を無駄遣いしてるのと一緒だぜ」
「そんな享楽的な考えで、ステラ女史に手を出したら駄目じゃないかっ」
「言っておくが、この関係は互いに同意してるし、遊びの心算は無いからとやかく言うな」
「だからって、少しは自重しようよっ?!」
リカルドが半ば発狂しつつそう言うと、信康は溜息を吐いた。
「お前な、そろそろ、ライリーンに声を掛けてもいいんじゃないか?」
そしてそんな消極的な思考を持つ所為で、リカルドは想いを寄せるライリーンに対して未だに話し掛ける事も出来ていない事を皮肉った。
「そ、それはその・・・・・・」
「何なら今度、場を設けてやろうか?」
「そうかい?・・・いや、でもやっぱり、人の手を借りないで親しくした方が良いだろうし・・・だけどあの娘を前にするとどうにも、口が開かないからなぁ。此処は潔く、皆の手を借りた方が良いかな。いや、でも・・・・・・」
リカルドは喜んだと思ったら悩んだりと忙しそうに、表情を変えていた。
「はぁ、面倒臭い奴だな」
そんなリカルドを見て、信康は溜め息を吐いた。
「以上を持って、収穫祭の開催を宣言する」
儀典局局長の話を聞き飛ばしていたが、開催を宣言すると言うと競技場内に居た人達が歓声をあげた。
すると、音楽隊が音楽を鳴らし始めた。
『では競技大会を行います。各競技に参加する選手の方々は、競技場に集まって下さい』
何処からか声が聞こえて来た。
「何だ。この声は?」
「僕も詳しくは知らないが、魔法道具を使った声を拡散する道具?・・・だそうだよ」
「声を拡散させるか」
面白い魔法道具もあるのだなと思った信康。また軍隊や部隊の全ての兵士に、声や号令を届かせたい時に便利だなとも思った。
「そう言えば、リカルド。競技大会って、何だ?」
「簡単に言えば、軍属じゃない人達がする競技の大会だよ」
リカルドの話を聞いて、ナンナが以前言っていた話を一部思い出していた。
「正確に言えば、騎士だけが参加するのが豊穣天覧会で、騎士の称号を持ってない軍属の人達が参加するのが競技大会。軍属じゃない一般の庶民、つまり市井の人達が参加するのがスポーツ大会だね」
「随分と細かいんだな」
そんなの初めて聞いたぞみたいな顔をする信康。
「ああ、ノブヤスは知らなかったんだね。まぁ、さっきも言ったけどこっちの方は騎士の称号を持ってない軍人が参加する競技だよ。因みにこっちには軍人だけじゃなくて、目的で腕自慢の人達も参加するよ」
「平民でも参加出来るのか?」
信康はあからさま過ぎる人脈作りだなと思った。
「内容はどんな感じだ?」
「こっちの方の競技は長距離走。リフティング。的当て。遠投。拳闘。馬術競技という事をするんだよ」
リカルドの話を聞いて、正直に言うと豊穣天覧会より面白そうだと思った。
「言っておくけど、僕達が参加する競技も人気があるんだよ?」
「分かってる・・・・・・うん?」
信康が生返事をして競技場内に入る選手を見ていると、ナンナが入って来るのが見えた。
「あいつ。ナンナか?」
「知り合いでも居たのかい?」
「ああ、ちょっと挨拶して来る」
信康はそう言って、ナンナの居る所に向かった。




