第347話
プヨ歴V二十七年六月二十六日。昼。
信康とリカルドはステラに言われて、腕試しの準備を完了させた。
「まさかこんなにとんとん拍子で、事が進むとは思わなかったな」
「そうだね。ステラ女史に感謝しなくちゃね」
二人は話をしながら、ステラが来るのを待った。
そして待つ事、数分後。
「準備は終わったみたいね?」
「お待たせ~」
ステラとオストルが、一緒にやって来た。
「はい、何時でも大丈夫です」
「それはそうと、オストル。もう紹介して貰ったから、俺達にこれ以上付き合わなくても良いんだぞ?」
「うん。だから僕は好きで、見学しに来たんだよ」
「そうか」
オストルがヒルダレイアとカインが居る場所に行くのを見届けた後に、信康はステラの方を見る。
白い外套を纏い、白の制服とスリットが入った白のロングスカートを着用している。
その手には柄が長い、馬上槍を持っている。
「さて。色々教えるにしても、先ずは貴方達の実力を知らなきゃね」
身体をポキポキ鳴らしながらそう言って、ステラは馬上槍を構えた。
「二人共、構えなさい。貴方達の実力を推し量ってから、どの様な訓練をするか考えるわ」
「道理だな。それが一番真っ当と言えるか」
信康は腰に差している、鬼鎧の魔剣を抜刀した。
「良いのかな? ステラ女史相手に、真剣を向けるなんて・・・」
「良いのよ。それに木剣とか刃引きの得物でやっても、本当の実力が計れないでしょ?」
「それはそうですけど・・・」
躊躇するリカルドを見て、信康は溜息を吐くしかなかった。
「ごちゃごちゃ五月蝿いぞ、リカルド。良いからさっさと抜け。出来無いなら、今すぐ帰れ。こうしている間も、時間の無駄だ」
信康からきつく叱咤されたリカルドは、唇を噛み締めて渋々自身の愛剣を抜いた。
「そうそう。それで良いのよ。じゃあ、行くわよ」
ステラが目を細めて、腰を落とした。
信康達はその動きを見て、迎撃が出来る様に鬼鎧の魔剣を中段に構えた。
三人の間に風が流れた。その瞬間に、事態は動く。
「っ!」
ステラが駈け出した。
そして、目にも止まらない速さの突きを繰り出した。
狙いは信康。
信康は繰り出された突きの速さに、思わず面食らってしまう。
しかし直ぐに我に返ると信康は馬上槍の柄の部分に向かって、鬼鎧の魔剣を当てて慌てて軌道を反らした。
「やるわねっ」
突きを防がれても、ステラは馬上槍を引き戻してまた突きを繰り出した。
また攻撃が来ると思い、信康は後ろに跳んで攻撃を躱した。
すかさずステラは馬上槍を引き戻して、今度はリカルドの方を向いて馬上槍を突き出した。
「ぐ、ぐうううっ」
突き出された馬上槍をリカルドは、何とか受け止めたがそれでも数歩は後退った。
ステラはその隙を見逃さないとばかりに、続けて攻撃を繰り出した。
引き戻すのが見えない程の連続の突き。
リカルドは何とか防いでいたが、このままではやられると思っていた。
「はああああっ!」
信康がステラの横合いから、鬼鎧の魔剣を振り被る。
リカルドに攻撃を集中しているのを見て、信康は攻撃に出た。
しかしその攻撃はステラには読まれていたのか、信康の上段からの振り下ろしは柄で防がれた。
「くっ」
「甘いわよっ」
ステラは信康を押し退けると、今度は信康に攻撃し出した。
「ぬ、ぬううっ」
信康はその攻撃を防がないで、避ける事にした。
防げば、攻撃が出来ないと思ったからだ。
しかしステラも攻撃しても信康に当たらないので、少し焦れた様な顔をした。
「なら、少し速くしましょうか」
そう言うなり、ステラは突きの速度を上げた。
その速さに、信康は避ける事が出来ず防ぐ事になった。
(信じられんっ。師匠の槍捌きの速度と良い勝負だぞっ)
信康はステラの卓越した槍術に、思わず舌を巻いていた。
「ノブヤス。今助けるぞっ」
リカルドがステラに攻撃を仕掛けた。
信康に攻撃しているので、隙が出来たと思ったのだろう。
しかしその動きを見て、ステラは笑みを浮かべた。
「あっ!? 待てっ!? リカルドっ!」
信康がそう言ったが、遅かった。
ステラは突くのを止めて、馬上槍を横薙ぎにした。
「ぐああっ!?」
予想もしていなかった一撃にリカルドは横っ腹に貰い、吹き飛ばされた。
その進路上には信康も居た。すると信康は、腰に差していた鬼鎧の魔剣の鞘を抜いて左手に装備した。
そして自分に向かって来るリカルドに向かって、容赦無く鬼鎧の魔剣の鞘を振り被った。
信康が振り被った鬼鎧の魔剣の鞘は、リカルドの腰に直撃して鈍い音を立てた。
そして信康によって吹き飛ばされたリカルドは、二回程地面にぶつかってからそのまま倒れた。
「二人纏めて倒そうと思ったのに、想像以上に出来るわね・・・ふぅ、もう良いわ」
ステラは額に流れる汗を手の甲で拭った。




