第33話
カロキヤ歴R十八年五月十七日。朝。
時間は少し遡り、場所は城郭都市アグレブにある某所。
其処では、真紅騎士団が軍議を行なっていた。
内容は先のパリストーレ平原の会戦で戦死した、『双剣』のダーマッドについてだ。
カロキヤ公国軍の撤退を援護した際、敵の傭兵部隊と交戦。ダーマッドは戦死しダーマッド隊も半壊したと言う凶報は、勝利に浮かれつつあった真紅騎士団に激震を齎した。特に真紅騎士団が誇る十三騎将の一人が討たれたと聞いて、他の十三騎将達は耳を疑った。
「まさかダーマッドが殺られるとはな」
四十代くらいの男性が呟く。
額にバンダナを巻いて、巌の如き顔をしていた。
この者は戦死したダーマッドと同じ十三騎将の一人で名をオクサ・バランキオ。
十三騎将の中でも一~二を争う巨躯の持ち主だ。愛用の斧槍で戦場で暴れる姿は、さながら暴れる牛の如くと言われたので、異名が『暴牛』と言われている。
「仕方がない。あいつは腕は立つが、相手を自分よりも下に見る所があったからな」
そう言ったのは、オクサと対面に座っている三十代くらいの男性だ。
あっさりした顔だが、無精ひげを生やしているので十歳上に見える。
この男も十三騎将の一人で名前はサグァン・バーナード。
真面目な性格で、十三騎将の中でも常識人で知られている。
異名は『剣実』と言われている。剣と盾を使った堅実な戦い方からそう言われている。
「俺はダーマッドのスカした態度が気に入らなかったから、居なくなって清々するがな」
別の席からは、ダーマッドの普段の態度に怒っているみたいに言う。
二十代後半ぐらいの男性で、左頬から顎に掛けて刀傷がある偉丈夫だ。
この男性の名前は、ポルトス・アグラヴェイン。
異名は『暴乱』と言われる、十三騎将随一の暴れん坊で、血の気の多い十三騎将の中でも、特に気性が荒い事で知られている。
そして、そんなポルトスが率いる特攻部隊は、真紅騎士団随一の突破力を誇る部隊である。
「確かに、あの態度で部下に相当嫌われていたからな」
そう言うのは、外套で顔を隠した男だ。
この男性の名前はマックス・ガスパール。
先のパリストーレ平原の会戦で、第三騎士団団長であったフォルテスと副団長を討ち取った名手だ。
真紅騎士団でも随一の名手で、異名を『魔弾の射手』と言われている。
性格は至って温厚で、血の気が多い十三騎将達のストッパー役をしている。
「だがダーマッドは曲がりなりにも、我等十三騎将の一人であったのは事実よ」
今度は女性の声が聞こえて来た。
赤い長髪を腰まで伸ばして、前髪で左目を隠すという変わった髪型をしている。
この女性はロザリア・ルシアン。
十三騎将で三人しか居ない、女性幹部の一人だ。
異名は『氷炎』と言われている。
由来は氷のの様な冷徹さと炎の様な苛烈さという相反する性格から着いた。
「そうだな。戦争には勝ちはしたが、我等十三騎将の一人が殺られたのだ。団員達はダーマッドを討ち取った奴を討ち取ろうとしたが、討ち取れずに返り討ちに遭って部隊を半壊される始末。奴が使っていた魔宝武具である大いなる激情まで、敵の手に渡る事態こそ避けられたが・・・これは俺達真紅騎士団の沽券に係わる事案だ」
そう答えたのは、顔を傷だらけにしている男性だ。
年齢は三十代半ばで、手や服の隙間からも傷が見える。
男性の名はバルド・マクシリアン。
全身に傷が付いているのはそれだけ、修羅場をくぐっている証拠だ。
彼が最も活躍するのは、退却戦や防衛戦など守戦で、その守りの厚さから『鉄壁』と言う異名を持った男だ。
「それで、ダーマッドを討ち取ったのはどんな奴だ?」
そう話し出すのは、ロザリアとマックス以外、皆日に焼けた肌をしている中、日に焼けていない白皙の肌をした優男だ。緑色で少し長く伸ばした髪。女性のような顔をしている。
男の名はセイラル・ハルケルト。
十三騎将随一の槍の使い手で、彼の槍術の速さと率いる騎馬部隊が真紅騎士団最速と言われ、『疾風』の異名で呼ばれる様になった。
「そうだぜ。それが分からないと、敵討ちも出来ないぜ。なぁ、じっちゃん」
今度の男性の声は、今まで聞いた声よりも幼いように聞こえる。
それも当然だ。その者はまだ十五歳なのだから。
声の主はの名はネイファ・スギョンラントンという。
俊英をもってなる十三騎将最年少の幹部だ。
若いだけに鼻っ柱が高く、気が短いのが欠点なのだが、団長のヴィランも大事に育てたいと思っているみたいで、此処ぞと言う要所で使う事を好んでいる。
実力の面で言えば、剣と魔法を練達に使えるので、他の十三騎将達にも遅れは取らない。
雷魔法を使う事から『赤き稲妻』の異名で言われている。
そのネイファにじっちゃんと言われた男性はおもむろに口を開く。
「生き残った者達の報告によると、ダーマッドを討ち取ったのは、鬼を象った鎧を纏う東洋人と報告を受けている」
そう話しだした男性は、髪が白髪になっている上に顔が皺だらけの所を見ると、もうかなり高齢のようだ。開いているか分からないくらい細い目が上座に座る人物を見る。
この男性は真紅騎士団クリムゾン・ナイツ副団長兼参謀を兼ねている、アナベル・ゼーミルビスと言う。
真紅騎士団が旗揚げした事から今の地位にいる人物で、十三騎将問わず他の団員達にも信頼が厚い人物だ。
性格は冷静沈着。滅多な事で取り乱さない大らかさを持っている。
参謀としてありとあらゆる策を立てるだけではなく、武将としても魔法使いとしても一流だ。
杖と鎌が一体になった武器を使う事から『死神参謀』と言われている。
といっても言っているのは、真紅騎士団内だけだ。
本当の異名は『絶影』だ。
「東洋人?」
「・・・何か、誰を思い出す様な特徴を持ってんな」
「確かにそうだな」
「人種などどうでも良い。ただ言えるのはこのままにしては、我が騎士団の面子に泥が塗られたままだと言う事だ」
そんな話をしている最中。
「静まれ」
上座から声があがると、話し合いがピタリと止まる。
そう声を掛けるのは真紅騎士団団長『破軍』のヴィラン・ダングラールだ。
顔をフルフェイスのヘルメットで隠しているので、表情は伺えないが話し合いを止めると言う事は何か考えがあるのだろう。
「『双剣』を討ち取ったのは、敵方に雇われた東洋人の傭兵としか分かっていないのか?」
「いえ、名前は分かっております。ダーマッドを討ち取る際、ノブミスと名乗ったそうです」
「ノブミス。聞いた事がない名だ」
「どうなさいます?」
「先ずは、情報をが欲しい。このノブミスと言う名前が、正しい名前なのかも定かではないのだからな。其処で『隠密』と『血染』」
「「はっ」」
今まで、話に加わっていなかった幹部の二人が声をあげる。
「お前達にはプヨの王都アンシへ潜入し、情報収集に励め。その際、話にあがった東洋人の情報は優先して集めよ」
「承知しました。団長」
「手順はこちらに一任でよろしいでしょうか?」
「うむ、任せる」
「では、私達はこれで。行くわよ、ライリュ」
「ええ」
二人は出て行った。
今出て行った二人に加え、この場に居る者達と死んだダーマッドを合わせて真紅騎士団十三騎将だ。
尤も、ダーマッドは死んだので今は十二騎将だ。
二人が出て行くと、これからの事で会議が行われた。
その際、ヴィランは二人が出て行った扉を見る。
(無理はするでないぞ。ライリュ)




