第335話
「はふぅ、お茶が美味しい」
ルティシアの説教が終ったアンヌエットは、茶が冷めたので新しく茶を注文してその茶を味わっていた。
説教されたルティシアは椅子に持たれながら、魂が抜けた様な顔をしていた。
「ルティ姉様。大丈夫ですか?」
マリアがそう話し掛けるが、ルティシアは反応しない。
「あわわ、反応が無いのですっ」
「放っときなさい。その内、勝手に起きるでしょうから」
心配するマリアとは対照的に、アンヌエットは冷めた目でルティシアを見ていた。
「大丈夫だから、放っておきなさい」
アンヌエットが強く言うので、マリアもルティシアを放置する事にした。
「おっ、漸く終わったか?」
アンヌエットの説教が終わったので、信康が声を掛けた。
「ええ、悪かったわね、待たせて」
「いや、別に。それに面白い物が見れたからな」
「面白い物?」
何それ? と言わんばかりの表情をするアンヌエット。
信康の言葉の意味が分からないので、マリアを見るがマリアも首を横に振る。
「いやぁ、身内とは言え聖女様が怒られる所を見れるとはな」
信康はそう言うと、アンヌエットは見世物扱いするなと怒った。
「だったら、人目の付かない所で怒れ。あれでは見世物だし、公開処刑さながらだったぞ」
「ふん。あの馬鹿姉が悪いのよ・・・それはそうと、あんた達は着て行く服は選んだの?」
アンヌエットにそう言われて咄嗟にリカルドが答えようとしたが、信康が足を蹴ってそれを止めた。
「いや、リカルドは買えたが俺は買いそびれたよ」
信康はそう言って、礼服を買っていないとアンヌエットに告げた。
しかしこれは、信康が吐いた嘘であった。
何故ならそれは、アンヌエットの性格を理解しての言動だったからだ。
「ふ~ん。そうなの・・・そう、買いそびれたのね。それは残念ねぇ~」
残念と言いながらも、何処か嬉しそうな顔をするアンヌエット。
そして足元にある、紙袋から何かを取り出した。
「丁度・・・そう偶々、偶然にもあんたに似合いそうな服を見つけたのよ。この前、買い物に付き合ったお礼に買ってあげたわ。ありがたく思いなさいよ」
そう言って、アンヌエットは折り畳まれた服を出した。
それは青を基調とした、上下の礼服であった。
「おお、こいつは良いな。それに」
信康はその上着を持って、自分の身体にあてた。
「採寸も問題無いな。そう言えばお前の買い物に付き合った時に、俺に服を当てていたよな」
信康は礼服をアンヌエットに見せながら言う。
「そうね。そんな事をしていたわね。まぁあれはこの先、あたしに恋人でも出来た時に逢瀬の練習になると思って、あんたを連れて買い物に行っただけなんだからね。そのお礼にその服を買ったんだから、光栄に思いなさいよ」
「でも、アン姉様。その服を選ぶ時は物凄く真剣に選んでむぐうううぅ」
「お黙り」
マリアが何か言おうとしたが、アンヌエットが口を押えた。
「総隊長。これはどうですか?」
「うん、悪くないな。お前はその服を着て、式典に参加しろ。リカルドが買った礼服は丁度、対照的に赤色だから様にもなる」
ヘルムートはそう言って、信康の礼服を満足気に見ていた。
「アンヌエット嬢。良ければ、領収書をお借りしたい。一応決まりで、王宮に提出しなければならないので」
ヘルムートはそう言うとアンヌエットから、信康の礼服を購入した証明書である領収書を借りた。信康が自分で用意した礼服は、アンヌエットの好意を無碍にしない為にも密かに自腹で購入と言う事にした。
「じゃあ、ノブヤス。俺達は先に兵舎に帰るが、お前はこれからどうする?」
そう言われて、信康は何も考えていなかった。
「そうか。じゃあ、お前の好きにしろ。それとお前なら分かっていると思うが、明日は大事な式典だ。外泊するのは自由だが、遅れて来る事は絶対に許さんからな。肝に銘じておけよ」
「了解です」
信康の返事を聞いてヘルムートはテーブルに自分達が飲んだ茶の代金を置き、リカルドと一緒に妖精の隠れ家から退店して行った。
「何か、気を使わせたかしら?」
「そんな事はないと思うぜ。第一そう思うのだったら、お前の説教が始まった時に店を出て行くと思うぞ」
「それもそうね。それと、これもなんだけど」
アンヌエットは又か紙袋の中を漁りだした。
そして出て来たのは、首飾りであった。其処には青く輝く、蒼玉石が埋め込まれているみたいだ。
「これは?」
「あんたへの贈物プレゼントよ。本当はそれで買い物の御礼だったのだけど、服のついでにあげるわ。大切にしなさいよ」
「良いのか? こんなにくれて」
「別に良いわよ。これは買い物の御礼なんだから」
そう言って、アンヌエットは顔を横に背ける。
信康はその首飾りを貰い見ていると、マリアも見た。
「あれ? それって確か、アン姉様がノブヤスさんと一緒に買い物した時に買った物ですよね? 何の為に買ったんだろうと思ったら、アン姉様はノブヤスさんのプレゼント用に買ったんですね」
「別に、そんな心算じゃあ・・・・・・うん?」
マリアの言葉を聞いて、違和感を感じたアンヌエット。
「マリア? どうしてあんたがあたしとノブヤスと一緒に、買い物をして買った物を知っているのよ? これはノブヤスも見てない所で買ったのに」
「あっ!?」
失言だったとばかりに、口を抑えるマリア。
それを見て、アンヌエット目を吊り上げる。
「もしかしてあんた、いえ違うわね・・・あんた達、あたしの後をコッソリ付いて来たの?」
「あ、あわわわわっ!?」
マリアは口を抑えながら怯え出した。しかしそれでは、自白しているも同然と言えた。
「その反応を見るに、本当みたいね? 誰が付いて行こうと言ったの?」
「え、えっと・・・・・・」
「正直に言ったら、特別に許してあげるわよ。と言うか白状しなかったら、どうなるか分かっているのでしょうね?」
笑顔なのに、アンヌエットの背後には燃える炎が幻視出来た。
「・・・・・・ルティ姉様です」
アンヌエットの迫力に押されて、マリアは自白した。
「ふん、やっぱりね。そうだと思ったわ」
アンヌエットはルティシアの頬を叩いた。
「ほら、起きなさいよっ」
「う、うう、い、痛いです。アンヌ」
頬を叩かれて気を取り戻したルティシア。
「一応聞くけどあんた、あたしとノブヤスの買い物の後を付けた?」
「え、ええ? な、何の事でしょうか? 私にはさっぱりです」
ルティシアは顔を背けながらそう言う。
「そう。そういう態度を取るのね。でもね。もう、マリアが自白したわよ」
「マリアァっ!?」
ルティシアが叫ぶと、マリアは思い切り視線を逸らした。
「さて・・・じゃあ、屋敷いえに帰ったら、じっくりとお話をしないとね」
「あ、ああ……」
それからは四人は妖精の隠れ家を退店して、店先で別れた。
別れる際にルティシアの手を引っ張るアンヌエットの背中に、燃え盛っている炎が見えた。
信康はそれを見て、合掌した。
「・・・・・・今日はやる事無いから、誰か誘って酒でも飲むか」
信康は暇なので久し振りに、誰か誘って酒を飲む事にした。
その為にも一度、傭兵部隊の兵舎に帰還する事にした。




