第321話
プヨ歴V二十七年六月二十四日。昼。
信康がビュッコック率いる警備部隊に協力して、カロキヤ公国の諜報機関を摘発した後。
信康は逃げ帰るみたいにケル地区からヒョント地区にある傭兵部隊の兵舎に帰還した後、ヘルムートに呼び出しを受けた。
「ノブヤス、俺に何か報告する事があるんじゃないのか?」
ヘルムートは口角を上げながら、信康に問い詰めた。
そんなヘルムートの態度を見て、信康は溜息を吐きながら報告する。
「ええ、ありますよ。カロキヤの諜報員の本拠地を見つけたんで、警備部隊に通報しました。何か問題でも?」
「大有りだっ。善良な市民だったら無しだが、お前だから問題有りまくりだっ」
ヘルムートは机を何度も叩いた。
「全く・・・話が耳に入った時は思わず第二訓練場まで行って、第二中隊が捕り物に参加してない事に愕然としたわ。俺への報告は遅れても良いから、何故自分の手柄にしなかった?」
「ああ、それですか?・・・施設警備の任務を引き継いだ警備部隊がですね。機密情報取られて泥を被っていたんで、何とかならないかって思って通報しました」
信康の言い分を聞いて、ヘルムートは呆れ果てる他に無かった。
「義理堅いのか、謙虚なのか分からんが・・・前者だろうな」
「まぁ受けた義理や恩、それと貸し借りは忘れない方ではありますね」
ヘルムートは信康の返事を聞いて、苦笑しながらある紙を手渡した。
「まぁ良い。御蔭でビュッコック総隊長から、傭兵部隊とお前宛に感謝状が届いてる。要請があれば、喜んで協力すると言う文言と一緒にな・・・・・・それから新たにお前の中隊に配属する人員について、話す事があるぞ」
信康はビュッコックからの感謝状を受け取りつつ、ヘルムートの話す内容を聞くべく傾聴する。
「このブルスティ達なんだが、人数が多過ぎて全員をお前の中隊には配属出来ない。それとこのシギュン大佐だが、本当に傭兵部隊うちに転属する気なのか?」
「ブルス達の事は分かりました。後で相談します・・・エルドラズとヴィシュターヌ教団から、シギュンは許可は貰っているみたいですよ。それに階級の問題で俺の中隊に入れなくても、俺が昇進するまで総隊長の下で我慢するそうです」
信康は内心では残念に思いつつも、ヘルムートにそう返事をした。
「・・・・・・そうか。まぁなるべく希望には添える様にしよう。それとシギュン大佐に関しては、お前が昇進したら転属させておくぞ」
ヘルムートの配慮に満ちた発言を聞いて、信康は感謝した。
「話は以上だ。取り敢えず疲れたろうから、今日はもう休んで良いぞ。午後の訓練の事は、俺からルノワ達に言っておいてやるから」
「了解です。ありがとうございます」
信康は返事をした後に、ヘルムートに敬礼してから総隊長室を退室した。
総隊長室を退室した信康は、取り敢えず自室に戻った。
「あ~流石に疲れたなぁ」
信康はそう言いながら、寝台に横になった。
そうして休んでいると、影からシキブが出て来た。
「御主人様。ザボニーとカロキヤの諜報員の捕縛、おめでとうございます」
シキブはそう言って祝福すると、果実酒が入った酒瓶を開けてコップに注いだ。
信康は起き上がってそのコップを受け取ると、喉に一気に流し込んだ。
「っぅ・・・美味いな」
「喜んで頂けて、何よりです」
信康は果実酒を堪能していると、シキブがある事実を報告して来た。
「件の店ですが・・・レシピが大量にあったので、全て回収しておきました」
「何? それは本当か?」
シキブの報告を聞いて、信康は驚いていた。
「御主人様マスターがお望みでしたら、何時でもあの野生鳥獣ジビエ料理を御用意致します。店内に残っていた肉は全て回収済みですから」
「そうか・・・じゃあ今度用意してくれ。俺は昼寝がしたい気分だから、昼食めしは要らん」
「承知致しました」
シキブはそう答えると、影の中に潜り込んだ。室内が静かになったので、信康は目を瞑り眠りについた。
プヨ歴V二十七年六月二十四日。夕方。
眠りから目を覚ました信康。
「ふわああぁ、良く寝た・・・」
信康は欠伸をして、寝台から降りた。
「さて・・・ちょっと出かけて来ようかな?」
信康はそう決めると、部屋を出て行った。




