第313話
「成程。女四人に、店長を含む男四人。暗号名はそれぞれ宝石、瑠璃、団栗、雛、暗剣、蜘蛛、蜂。そして店長も調べた結果、穴熊と」
信康はブラベッドをアパートメントまで送り届けると、兵舎にある自分の部屋でシキブの報告を聞いていた。
「その諜報員共は、何処に居るのか分かっているのか?」
「問題ありません。私の分身達をその者達の影に潜ませております。捕縛など何時でも出来ます」
「店の方も配置してあるな?」
信康はシキブに尋ねると、首肯して答えた。
「なら、良いな」
シキブからの報告を聞いた信康は、そのまま立ち上がる。
「どちらに?」
「アイシャの所だ。あんまり待たせ過ぎると、アイシャに悪いからな」
信康の話を聞いて、シキブは納得した。
「それではどちらで、アイシャ様にお会いになられますか?」
「どちらで、とはどう言う意味だ?」
「はい。千夜楼まで行かれるのか、それともアザリー様の屋敷で御会いになるかお聞きしたいのですが」
信康はそう言われて、確かにと思って思案を始めた。しかし正直に言えば、どちらでも良かった。
「どっちが良いと思う?」
「少々お待ちを・・・どうやらアイシャ様は、アザリー様の屋敷に向かう御様子です。丁度良いので、アザリー様の屋敷で会われては?」
「ふむ。それならアザリーに会う口実も出来て、一石二鳥だな。そうしよう」
シキブの報告を受けた信康は、そうと決めると部屋を出た。
「あっ、中隊長」
「部屋に居て良かった。探す手間が省けたわ」
信康が部屋を出ると、サンジェルマン姉妹が居た。
「どうした。二人共?」
「ちょっと装備について、相談がありまして」
メルティーナが話を切り出し始めた。どうやら話の内容は、第二中隊の装備に関してだった。
「現状ではまだ大丈夫なのですが・・・もう間も無くすると新しく入った隊員達の分まで配布する装備が不足してしまいそうなんです」
「不足か。何が不足しているんだ? 魔鎧か? それとも連弩か? または魔馬人形か?」
「はい、魔鎧の材料が不足しそうです。連弩と魔馬人形の材料と魔石は足りていますが、魔鎧の材料だけ足りなくなりそうなのです」
「そうか。材料か」
しかし信康は言いながらも自分及び麾下中隊の隊員達が着用している、魔鎧を筆頭に魔馬人形や連弩がどんな材質を使っているのかすら知らないのであった。
「・・・お前等は錬金術に精通しているだろう? 自前で用意出来ないのか?」
「それは無理よ。錬金術も万能ではないのだから」
「ふむ、それもそうか。仕方がないな。材料が無いのだったら、金がどれだけあっても無意味か」
信康はそう言うと、思案を始めると妙案を思い浮かんだ。
「そうだ。だったらドローレス商会を尋ねたらどうだ? 俺の名前を出せば、快く材料を用意してくれると思うぞ」
信康は普段から懇意にしている、ハンバードが会頭を務めるドローレス商会を提案した。
「そう言えばノブヤス中隊長って、あの大商会と伝手があったのよね」
「すっかり忘れていました。確かにドローレス商会でしたら、わたくし達が必要する材料を用意出来るかもしれません。しかし・・・」
メルティーナは其処まで言うと、少し困った表情を浮かべた。そして躊躇しながらも、信康にある頼み事をする。
「ノブヤス中隊長。お手数ですが一筆、紹介状か何かを用意して頂けませんか? その方が早く取引が済みそうですから」
「それもそうだな。だったら用意して貰いたい材料名も教えろ。手紙に書いておくから」
「お願いします。中隊長」
信康はサンジェルマン姉妹を連れて部屋に戻ると、ドローレス商会への紹介状を作成してメルティーナに渡した。
そして信康はサンジェルマン姉妹と別れた後、食堂で朝食を食べた信康。それから信康はルノワに今日の第二中隊の訓練を全て任せると、中年女性の管理人の下に行き外泊届を提出してから兵舎を出た。
プヨ歴V二十七年六月二十二日。朝。
傭兵部隊の兵舎を出た信康は、斬影を駆けさせてアマンモデウス邸に到着した。
速度を出した為、午前中の間に到着する事が出来た。扉をを叩こうと手を伸ばしたら、扉が自然と開いた。
「あら、奇遇ね」
扉を開けたのは、アニシュザードであった。信康はシキブから滞在中である事を知っていたのだが、敢えて知らない振りをして挨拶をした。
「おはよう。丁度会いに行こうと思って、アザリーに頼もうかと思って来たんだよ」
「私もアザリーに貴方が来たら連れて来てと、今しがた伝えた所だったのよ。これからシエラ姉さんにも同じ事を言いに行こうと思っていたのだけれど、手間が省けて助かるわ」
「俺もそう思う。此処は屋敷に戻って、ザボニーの事で話をしないか?」
「良いわよ」
アニシュザードが扉を開けて、信康をアマンモデウス邸へと招き入れた。




