第300話
「おはよう、二人共。俺に何か用か?」
ライナ達を見るなり、挨拶しつつも首を傾げる信康。
何故なら二人が自分を探しに来る、明確な理由が思い付かなかったからだ。
「あのね・・・ヘルムート総隊長に言われたんでしょう? 施設警備に回れって」
「ああ、言われたぞ」
「それで、朝早くから探していたのです」
信康は二人の話を聞いて、漸く納得した。
「そうか。朝食はまだか? 何だったら一緒に食おうぜ?」
「良いわよ」
「御相伴に預かります」
信康は二人の返事を聞いてから、空いてる席に座った。
信康の対面にはライナが座り、そのライナの隣にはサンドラが座った。
するとヴェルーガは、信康達の為に出来立ての朝食を用意してくれた。
「俺を探しているという事はあれか、施設警備で何かあったのか?」
昨日の捕り物を一部始終見ている信康だったが、馬鹿正直に言う心算は無かった。
「そうなのよ。昨日、施設に忍び込んだ者が居たの」
「・・・ほぅ?」
「幸い、何も取られる事はなかったのですが・・・その忍び込んだ者は逃がしてしまって」
「成程な。それで俺の中隊も加わって、警備計画を練り直すと言う事だな?」
「そういう事よ。これを見てくれる?」
ライナは胸元からか紙を出して、テーブルの空いている場所に広げた。
その紙に描かれているのは、軍事施設の見取り図だった。
「これが俺達が警備する、施設の見取り図か」
「そうです。地下三階地上二階の、五階建ての建物です」
軍事施設の見取り図を見て、信康はかなり大きい施設だと理解した。
「昨日は二階を警備していた部下が偶然見つけたから、後一歩と言う所まで追い詰める事は出来たけど・・・肝心の侵入経路が分からないのよ」
ライナはお手上げとばかり肩を竦める。
「ですので、今夜は二階にも人を送りたいのです。そうすれば、昨日の様な事は起こらないと思います」
「成程な。じゃあ、二階は俺の中隊が受け持つと言う事か?」
「いえ。其処の所は話し合ってから、決めようとライナさんが」
「話してから警備する所は決めないと、後で面倒でしょう」
「そうだな」
信康はそう返事しながら、改めて軍事施設の見取り図を見た。
何処か変な所はないか、もしくは侵入経路は無いかを探していた。
そうして見取り図を見ていると、信康はある所に目が留まった。
「・・・・・・此処の屋上は、どうなっているんだ?」
「屋上? この施設の屋上は、屋根以外何も無いわよ」
「もしかしてノブヤス副隊長は、屋根から忍び込んで来たと思っていますか?」
信康の推測に、ライナとサンドラは怪訝そうな表情を浮かべた。
「私達もその可能性も考えたんだけど、何処の部屋にも侵入した形跡もないのよ」
「私も空を飛んで確認しましたが、屋上の窓も破られてもいないし、窓を壊した音もしませんでした」
信康は二人の話を聞いて思案した後、自分が二階の担当を買って出た。
「私は良いけど、サンドラ。貴女はそれで良いかしら?」
「私も構いません。では引き続き、私は外の警備を担当します」
「分かったわ。じゃあ私も地上一階を警備するわね」
「じゃあ、そう言う事で良いか?」
「ええ、問題ないわ」
ライナは見取り図を畳んで胸元に仕舞うと、自分の配膳を取って席を立った。既に朝食の方を、ライナは食べ終えていた。
「ノブヤス、サンドラ。今日の午後五時に養成所で、合流と言う事で良い?」
「問題ない」
「私もです」
二人の返事を聞いたライナは、そのまま立ち去ろうとした。そんなライナに、信康は声を掛ける。
「ライナ。その前に聞くが、見取り図はその一枚だけか?」
「いいえ、複写したのはまだあるわ。サンドラが持っているから、欲しかったら貰いなさい」
「分かった」
それだけ言って、ライナは配膳を返却してから食堂を出て行った。
その背中を見送ると、信康はまだ座っているサンドラを見る。
「と言う訳で、その見取り図を複写した物が欲しいのだが?」
「分かりました。私の部屋に有りますので、今から取って来ます。食堂此処で待っていて下さい」
「了解した」
サンドラも食べ終えた配膳を持ってから、席を立つと配膳を返却した後に食堂から出て行った。
信康は朝食を食べながら、サンドラを待つ事にした。
「はい。飲み物のお代わりよ」
ヴェルーガが信康の為に、コップに牛乳を入れて持って来てくれた。
「ああ、済まない」
信康はコップを持ち、牛乳を喉に流し込んだ。
「今夜は夜勤みたいだから、何か携帯出来る夜食を作ろうか?」
「頼めるか? そうだな・・・少し多めに作って、九百六十人分位欲しいな」
「了解~じゃあ、作るとしますか」
ヴェルーガは笑顔で、厨房へと向かった。
信康はそれから朝食を食べ終えた頃に、戻って来たサンドラから軍事施設の見取り図を貰って別れた。それから自室に戻ると、ルオナとコニゼリアは居なくなっていた。
「・・・シキブ」
「はっ」
丁度良いと思った信康は、シキブの名前を呼ぶと自分の影が蠢き出してシキブが顔を見せた。
「聞いての通りだ。施設の屋上で張っていろ。あの侵入者を見つけたら、殺さず捕まえるんだ」
「畏まりました」
それだけ言うと、影が蠢くのを止めた。
信康は軍事施設の警備任務を通達すべく、自室を出て第二訓練場へと向かった。




