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信康放浪記  作者: 雪国竜
第三章

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第281話

 ジャンヌ達と共に信康は、表の顔にして隠れ蓑のドルフィン商会の店舗がある場所に向かう。


 ドルフィン商会の店舗前に到着すると、凡そ五十人程度の女性が店舗前に集結していた。其処へ一人の女性が代表して、ジャンヌに一礼して頭を下げる。


「お帰りなさい、ジャンヌ会頭。今日帰って来ると聞いて、驚きましたよ」


 女性は表向きの呼称であろう、会頭と付けてジャンヌを呼んでいた。お頭などと呼べば不全極まりないので、当然と言える。


 そもそもジャンヌはドルフィン商会の会頭なのだから、その呼称は間違ってなどいない。そして今後から、ジャンヌをお頭と呼ぶ事は無いだろう。


「理由は後で話すよ・・・所で、ヴェルナは居ないのかい?」


「ヴェルナ副会頭ですか? 副会頭でしたら会頭達が出掛けたその日に、商品の仕入れに行きました」


 ジャンヌは女性の報告を聞いて驚いた後に、何処へ向かい何を仕入れに向かったのか尋ねる。


「プヨの東部地方に行きました。品は宝石、木材、鉄鉱石、魔石その他諸々です」


「そうかい。となると今日明日中になんて、帰って来ないんだろうねぇ」


「ええ。一週間後には帰って来るそうです」


「分かった。ついでに紹介しとくよ。この人はノブヤス。あたしの大事な客人だよ」


「客人ですか?・・・っ!? ・・・商品じゃなくて?」


 女性達は怪訝そうな表情を浮かべると、信康の正体に気付いたのか小声でジャンヌにそう指摘した。するとジャンヌは両目を見開いて驚いた後に、その女性の頭頂部に拳骨を落とした。


「お馬鹿ぁっ!? 滅多な事を言うもんじゃないよっ!・・・もう一度言っておくけど、ドルフィン商会ウチにとって一番大切な客人だよ。くれぐれも丁重に扱いなっ! 良いねっ!?」


 ジャンヌは女性を殴った後に怒鳴り付けると、背後に居た女性陣にも信康を賓客として扱う様に厳命した。


「す、すみません。失礼しましたっ・・・っ」


「分かりゃ良いのさ。それと隣の森人族(エルフ)はトレニアって言って、同じく客人だから粗相なんてしでかしたら承知しないよ」


 ジャンヌがそう命じると、今度は何も聞かずに女性達は首肯して頷いた。


「信康だ。短い間だが、よろしく頼む・・・それと俺はジャンヌと相談する事があるから、トレニアにだけ部屋を用意してやってくれ」


 信康が自己紹介と共にそう言うと、女性は確認する様にジャンヌを見た。するとジャンヌは驚いた様子を見せたが首肯したので、女性陣は黙って言われた通りにする事にした。それから信康達はドルフィン商会に入店すると、信康はジャンヌの自室でジャンヌと二人きりになった。


「随分と人が残ってたな。てっきり海賊船に居たのが総数だと思ってたぜ」


「当然じゃないか。商会なのに人が居なかったり少なかったら怪しまれちまうし、いざって時に危ないからね。何より女の子達は表の顔もあるから、裏稼業はなるべく野郎共に進んでさせてたのさ」


 信康が口にした発言を聞いて、ジャンヌは店番していた人数の多さの理由を答えた。


 聞きたい事を聞いた後、信康はジャンヌと共に夜を明かした。



 プヨ歴V二十七年六月一日。朝。



 そのまま一晩過ごした信康達は朝にやって来た水竜兵団の兵士達に案内されて、水竜兵団の兵舎にて事情聴取を行った。ジャンヌは信康に散々抱かれて腰を少し震わせていたので、信康に支えられて移動する事となった。


 念入りに準備を行ったからか、口裏合わせも上手く行き疑われる事も無かった。事情聴取そのものも、昼前に終わった。


 信康とジャンヌは正式にその功績を表彰され海の貴族を相手に臆する事無く、勇猛果敢に戦った事になっている女性陣にも褒賞が与えられる事となった。


 昼過ぎになってプヨ五大貴族の一角であるイースターニュ公爵家から、長年に渡り大海賊と恐れられて来た海の貴族の捕縛成功の事実が正式に発表された。


 この公式発表を受けて、ドルファン市内中がお祭り騒ぎとなった。脅威が一つ減った事で航路と海域の安全性が高まった結果に繋がる事を喜び、酒場は満杯に入った木製ジョッキを掲げて一気に呷る船員や漁師達で溢れていた。


 海賊の被害が減って治安が良くなる事はやはり嬉しいのか、一般家庭でも食卓にはお祝いするかの如く食卓に多くの料理が並べられた。


 こうして信康はもう一日ドルファンで過ごして次の日の朝に、水竜兵団が手配した馬車で王都アンシへ帰還する事となった。


 余談だがイースターニュ公爵家の現当主は信康の功績を称えて直接会って褒章を与えようとしたのだが、信康はシュライトにそう言う話が出た際には面談は断って欲しいと頼んだ。


 貴族に会えば、面倒事に巻き込まれると思ったからだ。 」

 

 シュライトは勿体ないと言うが、信康は気にしなかった。


 恩人の頼みという事でシュライトは、信康が会えない事をイースターニュ公爵に報告した。


 イースターニュ公爵はその理由について尋ねると、シュライトは事前に考えていた作り話を報告した。更に信康からの要望で自分の褒章は減らしても良いから、ジャンヌの叙爵に口添えして欲しいとシュライトはイースターニュ公爵に伝えた。


 その結果としてイースターニュ公爵を筆頭に水竜兵団の諸将は信康は非常に謙虚で慎み深く、驕らない性格で他人想いな人物だと言う好印象を抱かせる事となった。但し水竜兵団団長だけは、何故か青筋を浮かべ握り拳を作っていた。

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