第278話
マリーアと別れた信康は失神していたジャンヌが居る部屋に戻ってきた。
「よぉ? 今いいか?」
「っ!?」
ノックもなしに扉を開けて部屋に入ってきたからか、驚愕したジャンヌは跳び上がる様に、身体を起こして起床した。その瞬間、小山の如き超乳がぶるんと揺れる。
「・・・っ」
信康は苦笑しながら、ジャンヌに話し掛ける。
「お前、俺の提案を聞く気は無いか? ジャンヌ」
「はぁっ!?」
ジャンヌは今まで以上の衝撃を受けて、口を大きく開けて驚愕する。
「て、提案って何よ?」
ジャンヌは何度か深呼吸して自身を落ち着かせる。
落ち着くと興味が有るのか信康の提案を訊こうと訊ねた。
「ああ、先ず第一に・・・お前等には海賊を辞めて貰う」
「っ!?・・・海賊を辞めて、どうするのさ? それだと稼ぎ口が減るし、海軍の連中だって海の貴族の手配を取り下げたりしないよっ!」
信康の最初の提案に対して、ジャンヌは難色を示した。
「まぁ聞けよ。このまま海賊家業を続けていたら、何時までも捕縛される危険性リスクがある。それにお前は繋がりのある貴族に推薦を貰って復帰しようと考えているみたいだが、そいつ等が海賊のお前を貴族に推薦してくれるなんて、御人好しな連中だと本気で思っているのか?」
信康は其処で言葉を区切り、ジャンヌを見る。
ジャンヌは何も言わなかった。
「もしお前が海賊をしていた事実が露見すれば、推薦したそいつ等にも火の粉が飛ぶ。お前等海の貴族は、プヨ近海でも有名な大海賊なんだろう? このままではそいつ等に良い様に使われて続けた挙句、最後には手柄稼ぎに売り飛ばされるかもしれないんだぞ? 手土産にされていないのは、お前の正体が露見していないからに過ぎないんだ」
「うっ・・・」
信康が挙げる懸念事項を聞いて、ジャンヌは再び閉口した。
「となると取れる手段は一つだ・・・やはりお前自身がプヨから貴族位を叙爵されるだけの功績を上げるのが、一番の近道であり唯一の道だ。まず手始めとして、海の貴族を捕縛した立役者になれ」
「・・・はぁっ!?」
ジャンヌは信康の提案内容を聞いて理解が追い付かず、大声を上げた。信康はジャンヌのそんな姿が面白かったのか、笑いながら更に驚くべき提案を続ける。
「お前が表に姿を現していないのは、実に僥倖だった。其処で身代わりを立てて、そいつ等を首領を含む海の貴族の海賊として捕縛するんだよ」
「で、でもその肝心の身代わりって、誰がなれるって言うのさっ! どっから用意すれば良いんだいっ!?」
ジャンヌは絞り出す様に、身代わりについて信康に強く問い詰めた。
海賊として身代わりで差し出される物好きが居るとは、ジャンヌには考えられなかったからだ。
「実は、こういう方法を思いついてな」
信康は何をしたのかを告げる。
「そ、それじゃ・・・」
「ああ、即答で承諾したぞ。もう、みんな言う事を聞くようになっているだろう」
「・・・っ」
ジャンヌはその仕打ちに言葉を失った。
(マリーが失敗するとは思えんし、多分、もう言う事を聞くだけの人形になっているだろう)
信康は心中でそう呟きながら、ジャンヌを他所に独言を呟いた。
「取り敢えず・・・顔バレしていない奴で、一番船長らしい風貌の奴を身代わりに立てるか。ジャンヌ、賞金首は何人か居るか?」
「あ、ああ・・・・・・首領のあたしが金貨二千五百枚。副船長が金貨一千八百枚。副船長の両腕になってる二人が居てどっちも金貨八百枚。ガリンペロ兄弟って奴等が居るんだけど、そいつ等が一人金貨五百枚の二人で金貨千枚。金貨三百枚が五人。金貨二百枚の奴が九人。金貨百五十枚の奴が十四人。金貨百枚の奴が二十一人。それ以下の賞金首が後数十人居る筈だから、全員で八十人位になる筈だよ。それと女の子達に、懸賞金が掛かった娘は居ないね」
「ほう? 流石は古株の大海賊。俺が思っていたよりも、抱えている賞金首の数が多いな。これなら総額は多く見積もると、金貨一万五千枚は超えるかもしれないな・・・その大金だが、全部お前が貰え」
ジャンヌは大金を独占出来ると知って思わず惚けたが、直ぐに信康に問う。
「た、確かにお金は欲しいけど、それで皆を売るなんて・・・・・・」
「折角身代わりが手に入ったんだぞ。それも全部が全部、嘘って訳でも無いしな。これを利用しない手は無いだろう? お前は貴族に復帰したくないのか?」
仲間想いなジャンヌは副船長達を売り渡す事に躊躇するが、信康が説得する。最後の貴族になりたいか否かを問われて、ジャンヌは再び閉口した。
「で、でもっ! 海賊は捕まっちまったら良くてトプシチェに奴隷として売り飛ばされるか、どっちにしたって死罪は間違いないよっ!!」
「海賊は陸に上がれば死罪か。其処は何処の国でも同じか」
ジャンヌは海賊の悲惨な末路を思い出して、信康にその事実を伝える。信康は渡り歩いた国々における海賊の扱いを思い出して、ジャンヌの心配に応えた。
「ジャンヌ、心配は無用だ。俺が投獄されていたエルドラズの所長とは、仲良くして貰っていてな。もし副船長達が死刑判決を受けても、死刑は執行しない様に取り計らってやる。そうして生かしている間に、何とか仮釈放して貰える良い方法を一緒に考えておいてやるさ」
(海賊の分際で、あれだけの技量があるんだ。生かしておけば、使い道が出来る日が来るかもしれんからな。まぁ駄目なら駄目でも構わん。ジャンヌには悪いが、その時はその時だ)
信康は心中で真の思惑を一考しながら、ニヤリと笑った。既に計画を実行する前にディアサハには、オリガに手紙の件は依頼してある。
エルドラズ島大監獄では死刑が執行されるか否かは、オリガの采配一つだ。信康が一言頼めば、信康に惚れ込んでいるオリガが拒否する事は有り得ない。
「最後に関係者の人数の多さを考えると・・・口車を合わせられるかとお前は不安に思うだろうが、それも俺に任せておけ。心配するな。全部上手く行く」
信康は自信を持ってそう言いながら、胸に拳を当てた。それを見てジャンヌは信康に訊ねる。その両眼には怪訝な色が宿っていた。
「何であんたが其処まで・・・見返りに何が欲しいんだい?」
「ほう。質問を質問で返して悪いが、どうしてそう思う?」
「あんたが御人好しだなんて、誰が見ても思わないさ。分け前の金も全部、あたしに譲るって言うしさ。聞くのは当然だろう?」
ジャンヌはそう理由を告げると、咄嗟に身を固めた。信康からどの様な無理難題を言われるのかと、心配している様だった。
「そうだな、俺も無償で此処までしない。俺が欲しいのは・・・商会との伝手にお前と取引した連中の情報、そして・・・」
信康は椅子から立ち上がると、ジャンヌに近付いて毛布越しにジャンヌの超乳を揉んだ。
「あっ・・・」
「お前を好きにする権利だ。それだけあれば良い」
「あんっ・・・本当だね・・・・・・だったら好きにしな・・・でもあたしはともかく、皆に酷い事はしないで・・・」
「良いだろう、取引成立だ」
信康は笑みを浮かべて、ジャンヌを押し倒した。
「ああっ!?」
「優しくするから、俺に身を委ねろ」
「う、うん・・・」
ジャンヌは息が掛かる程に近くから信康の顔を見て、頬を赤く染めながら答えた。すると信康は顔を横に少し逸らして、シキブに伝えた。
「シキブ。今から直ぐに、隠蔽工作を始めろ。海の貴族って海賊は、女一人居ない男所帯の海賊って事にするんだ。だから女が居た形跡は、絶対に残すな。拠点跡があった事をプヨ海軍に見せんならんから、なるべく壊すのは無しだ。特にあの魔法道具みたいな牢屋は、絶対に鍵と一緒に残せ」
「畏まりました」
シキブは、そう言うと姿を消した。




