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信康放浪記  作者: 雪国竜
第二章

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第263話

 大食堂で食事を終えた信康は、クラウディア達と別れる。


 どうして別れるのか直ぐに理由が分かったクラウディアは、信康を一睨みしてそのまま何処かに行った。


(もう十分相手をしてやっているんだがな・・・いや、愛されてると思えば悪い気はしないのだが)


 信康はクラウディアの嫉妬深さに苦笑した後、Dフロアに戻った信康はフィリアに声を掛けた。


「よう、先刻(さっき)振りだな。暫くの間、俺が交代で見てるから休んだらどうだ?」


 信康がそう言いだしたので、フィリアは吹き出した。


「くはははっ。不死者(アンデッド)の私に休めとは、面白い事を言うな。貴方は」


「そうか? うーん。確かに休めは少々語弊があったかもな・・・言い方を変えるわ。気分転換も兼ねて、散歩とかでもして来たらどうだ? 幾ら疲れないと言っても、ずっと同じ場所で居たら気分も滅入るし退屈だろう?」


「尤もらしい事を・・・居られたくないと言うなら、正直にそう言えば良い。貴方の希望通り席を外してやるから、何時戻れば良いのだ?」


「じゃあ、三時間後に戻って来てくれ」


「了解した」


 フィリアは立ち上がって盾鎧の魔剣シルドメイル・ブレードを鞘に納刀してから、Dフロアから去って行った。


 フィリアの背中を見送った信康は、虚空の指環(ヴォイド・リング)から影分身(ドッペルゲンガー)の魔法の巻物を取り出した。


「今度はもう少し人数を増やしてみようか」


 信康はそう言うと、影分身(ドッペルゲンガー)の魔法の巻物を発動させた。


 すると先刻と同様に、信康の身体を煙が覆った。


 その煙で視界が塞がれたが、直ぐに晴れた。


 煙が晴れた先には、信康の分身が三人も出現していた。


「「「「・・・うん、此処までは順調だな」」」」


 自分と同じ声が、同じ瞬間に聞こえて来る。


(ほほう。先刻さっきはしなかったから気付かなかったが、俺が意識した時だけ分身体と五感も同調しているな。ラグンの奴、俺の想像以上に良い仕事しているじゃねえか)


 信康は心中で、ラグンを称賛した。


「良ぉし。では早速、行動開始だ」


「「「おうっ」」」


「お前はアルマ。お前はイルヴ。お前はミレイの所に行け。俺はオリガの所に行く」


「「「了解」」」


 分身の返事を聞いていると、視界の端に黒く粘性のある物がやって来た。


「来たか。シキブ」


 信康の声に答えるみたいに、身体を伸ばして手を挙げるかの如く動かすシキブ。


「じゃあ、任せたぞ」


 信康がそう言うと、シキブは自分を形成している身体の一部を切り離した。


 切り離された身体の一部は徐々に大きくなり、シキブと同じ形となった。


 これは魔性粘液(スライム)が持つ、能力の一つである分裂だ。


 魔性粘液(スライム)の始祖とまで言われる、不定形の魔性粘液(ショゴス)であれば出来て当然の話である。この能力は何度も信康の役に立っており、シキブも重宝していた。


 そして分裂したシキブ達は、それぞれアルマ、イルヴ、ミレイの独居房の壁に取り付いた。


 それを見て分身体の信康達は、それぞれの独居房に向かう。


「さて、俺も行くか」


 信康も自身の分身体に遅れて、オリガの独居房へと向かった。




 シキブが信康の為に、独居房の扉を開ける。


 信康は扉が開いたのを見て、オリガが居る独居房に入室した。


 独居房の主であるオリガは、信康を見るなり睨み付けた。


「ふん。人の忠告を聞かず、こうして来るとはな。命知らずな奴め」


「まぁ、否定はしないよ。そうでもなきゃ、エルドラズを乗っ取ろうなんて考えないさ」


 信康はそれだけ言って、肩を竦める。


「私を犯しに来たのだろう。ならばさっさと飛び掛かって来たらどうだ?」


 オリガは寝台に腰掛けながら、信康を挑発した。


 その平然としている姿に、信康は違和感を感じた。


(何かを狙っているのか?)


 そう思ったが魔法を使えない様に、オリガは魔法道具の手錠を着用させられている。


 魔法は使えない、そんな状況でオリガにどの様な手段を取れるのか。


(考えていたって、何も分からんよな。だったら誘われてやるか)


 信康はそう心中で思うと、オリガに接近する事にした。


「馬鹿めっ」


 オリガは口角を上げる。そして、手錠が外れた。


「おおっ!? 良く外せたなっ」


 きちんと嵌めた筈の手錠が、外れている事実に驚く信康。


火炎球(ファイヤー・ボール)


 オリガは詠唱破棄して、魔法を信康に向かって放った。


 しかしその魔法は、信康に当たる事は無かった。


 何故なら信康に当たる前に、シキブが盾になったからだ。


 魔法を喰らったシキブだが、何処も変な所は無かった。


「っち。不定形の魔性粘液(ショゴス)か。用心深いのだな。貴様」


「そうじゃないと、あっさり死ぬ世界で生きて来たもんでね」


 信康はそう言って指をパチンとならした。


「ああああああああああぁぁぁぁっっ!!??!」


 オリガは身体を震わせ、悲鳴を上げながら下腹部を抑えた。


「わ、わたしに、な、なにをした?」


「俺の固有魔法の刻印を、お前の身体に刻んだだけだよ」


 信康はオリガの下腹部を指差しながら言う。


 実はオリガ達が気を失っているのを良い事に、信康は赤き炎の棘(レッドフラム・ソーン)を密かにオリガ達の下腹部に刻印していた。


「お前がどうやってその手錠を外したかは後で訊くとして、これから御話しと行こうか?」


 そう言った信康はオリガに近付いた。

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