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信康放浪記  作者: 雪国竜
第二章

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第258話

 Aフロアの娯楽施設で繰り広げられた、クリスナーア達とミレイ達の戦闘が終了した頃。




 信康達とオルガとの戦いの方はと言うと、此処もクリスナーア達と同様に膠着状態に陥っていた。


火炎爆弾(ファイヤー・ボム)


「しぃっ!!」


 オリガが放つ魔法を、信康は愛刀である鬼鎧の魔剣オーガアーマーズ・ソードで切り払う。オリガの魔法を切り払いながら、信康はオリガへの接近を試みる。


転移(テレポート)


 しかし信康の鬼鎧の魔剣オーガアーマーズ・ソードの刀身がオリガに届く直前まで迫っても、オリガは転移(テレポート)の魔法を使って離脱し信康から距離を取った。こうして信康とオリガの二人がイタチごっこを繰り返している最中で、フィリアの方も戦況は良く無かった。


竜牙兵召喚サモン・ドラゴントゥースウォーリアー・・・存在進化(バージョン・アップ)闇の竜牙騎士ダーク・ドラゴントゥースナイツ


 フィリアがオリガの闇の竜牙騎士ダーク・ドラゴントゥースナイツを倒しても、オリガが素早く新たな闇の竜牙騎士ダーク・ドラゴントゥースナイツを補充してしまう。


「くっ! 面倒なっ・・・不死の騎士団召喚サモン・イモータルリタナイツ


 するとフィリアもオリガに負けじと、自身の黒騎士達を再度召喚して倒された黒騎士の人数分を補充する。信康達の戦闘は、完全に一進一退を繰り返していた。


(不味いな。オリガの魔力量が、此処まで多いとは完全に誤算だった・・・開き直れば俺が敗けてもフィリアが勝ってくれれば良いだけの話だが、それだと俺の気が済まんからなぁ・・・それと師匠の反応も怖いし)


 信康はもし自分がオリガに敗北して倒れたら、ディアサハの反応の恐ろしさを想像して思わず身震いする。


 其処で信康は自分自身が・・・・・オリガに勝利する為には、どうすれば良いのかオリガの魔法を切り払いながら思案する。



 ―――はぁ、我が弟子よ。何を苦戦しておるのだ?



 信康の頭の中に直接、ある声が聞こえて来た。その声の主は、師匠であるディアサハだった。


(この声は、師匠か?)


 何故この瞬間にディアサハが信康に声を掛けて来るのか不思議に思いながら、脳裏から聞こえるディアサハの声に耳を傾ける信康。



 ―――魔法使いとの戦い方を思い出せ。如何に無詠唱や詠唱破棄して魔法を放とうと、魔法を放つ瞬間は刹那であろうと隙がある。それは技を放つ為に構えるのと同じ事だ。



 ディアサハの助言を聞いて、ハッとする信康。


(成程・・・確かに師匠の言う通りだ。詠唱破棄していようが、魔法を放つ為には魔力を溜めないと出来ない。どうしても出来るその隙を、確実に狙えと言う事か)


 そう分かった信康は、心中でディアサハに感謝してからオリガの動作を注視した。


 オリガが魔法を放ち続ける瞬間を観察すると、ディアサハの助言通りやはり一瞬だけ魔力を溜める瞬間が必ずあった。


 しかしその隙も本当に刹那の間なので、信康は行動する瞬間を見極めなければ魔法を切り払えず直撃を受ける危険性があった。


(だがこれで、この戦いに光明が生まれた。師匠、感謝するぜ)


 信康はオリガとの戦いに勝算が出来た事に、思わず笑みを浮かべてディアサハに感謝した。


「どうした? 何か面白い事でもあったか?」


 信康の笑みの意図を知らないオルガは、自分の質問に答えない事を承知で信康に訊ねてみる。


 尤も、その間もオルガは信康に魔法を放つ手を緩めない。


 そしてフィリアの足止め役をしている、闇の竜牙騎士ダーク・ドラゴントゥースナイツの増援も忘れず送り続けている。


「・・・ふっ。先刻(さっき)の笑みは、勝利を諦めたと言う意味か? 私に近付かずして、どうする心算だ?」


 するとオルガは信康との戦いに、変化が起きている事実に気付いた。


 何故なら信康はオルガに接近するのを諦めて、オリガの魔法を切り払う事にのみ専念しその場を動かなくなったからだ。


「いいや、その予想は外れだぞ。それも大外れだ」


「ならば何だと言うのだ。動かずして、貴様に勝機は無いぞっ」


「安心しろ。お前を倒す算段は、既に完成しているからな」


「ほほう。面白い。やれるものなら、やってみろっ!」


 信康の挑発とも勝利宣言とも解釈出来る発言を聞いて、オリガは火炎の雷弾(ファイア・ボルト)の魔法を自分の周囲に浮かべた。


 その魔法を放った瞬間に、事態は動いた。


 信康は懐から、ある物を出したからだ。


煙幕(スモーク)!」


 魔法の巻物から煙が発生して、信康を隠した。


「ふん、魔法の巻物(スクロール)か。よもや、ラグンから奪ったか? だが、小賢しいわっ」


 オリガは信康が居たまたは移動すると思われる場所を予想して、自分の周囲に展開していた火炎の雷弾(ファイア・ボルト)を放った。


 火炎の雷弾(ファイア・ボルト)が通過した場所のみ、煙幕が弾けて景色が晴れる。


 少し晴れた所に、煙に隠れた人影が見えた。


「良く見えんな。吹けよ。風。――――旋風(ウィンド)


 オリガは人影が本物かどうか確認する為に、旋風(ウィンド)の魔法を唱える。


 それにより、煙が晴れて行った。


 しかしまだ辛うじて残っている煙の中から、人影がオリガに向かって来た。


 その人影はオリガに向かって、勢い良く接近して行く。


「無駄だっ! 火炎の雷弾(ファイア・ボルト)!!」


 オリガは自分に向かって来る人影に向かって、得意の火炎の雷弾(ファイア・ボルト)の魔法を放った。火炎の雷弾(ファイア・ボルト)の魔法は人影に直撃して、その人影を瞬時に炎と雷で包み込んだ。


「ふん。残念だったな、東洋人」


「ノブヤスッ!?」


 勝利したと思い余裕の笑みを浮かべるオルガ。


 対照的に闇の竜牙騎士ダーク・ドラゴントゥースナイツと戦っているフィリアは、信康が倒されたと思い焦燥する。


「これで後は、貴女だけだな。将軍」


「残念だったな。俺は此処に居るぞっ!」


「「何!?」」


 オリガとフィリアは声が聞こえた方に、顔を向けた。二人が顔を向けた先は、天井だった。


 信康は鬼鎧の魔剣オーガアーマーズ・ソードを天井に突き刺して、天井にぶら下がっていた。そして振り子の原理で鬼鎧の魔剣オーガアーマーズ・ソードを抜くと同時にオリガに上方から接近を試みる。


「っちぃっ!? ならば先刻さっきの人影は何だったのだっ!?」


 オリガは悪態を吐きながら、自分を袈裟斬りしようと構える信康を迎え撃つ。


「そうか、分かったぞ。影分身(ドッペルゲンガー)で分身を囮にして、貴様は天井に避難していたのかっ。私の虚を突いた事は、誉めてやろうっ! だが甘いわっ!!」


 オリガは腰に差している鉄鞭を抜いた、信康の一撃を防いだ。


「ふむ。防がれたか」


「残念だったな。さて、これで仕舞いだ」


 オリガは鉄鞭を持っていない手を、信康に突き出した。


 しかし信康はそれを見ても、ただ笑みを浮かべるだけだった。


「確かに仕舞いだな。足元を見てみろ、オリガ」


「何だと?」


 信康に言われた通りに、オリガは自分の足元を見た。


 其処には何故か、黒い魔性粘液(スライム)が居た。


魔性粘液(スライム)、だと? 何故此処に?・・・いや、この色の魔性粘液(スライム)は、まさか・・・」


「そのまさかよ。シキブは不定形の魔性粘液(ショゴス)なのだから」


「何っ!? それにこの声は?!」


 オリガは声がした方を見る。


絶対魅了(ギアス・チャーム)


 マリーアの瞳が一瞬だけ、妖しく輝いた。


「しまっ」


 オリガはその妖しい輝きを、直に見てしまった。


 それによりオリガの目に光が無くなり、床に膝を付いた。


 オリガの意識が途絶えた所為か、召喚していた闇の竜牙騎士ダーク・ドラゴントゥースナイツも消滅して姿を消した。


「これで良し。もう大丈夫よ」


「そうか。この状態で、魅了(チャーム)は解けないのか?」


「大丈夫よ。その気になればあたしが解除するまで、ずっとこのままだもの」


 マリーアの説明を聞いて、信康は安堵の息を吐いた。


「これでオリガを捕まえた。任務完了だな」


 信康はそう言うと、安堵の溜息を吐いた。


「これからどうしましょうか? ちょっと休んで行く?」


「そうだな・・・」


 マリーアの提案を聞いて、信康は思案を始めた。マリーアが言う様に、このまま休憩しても構わない。室外から戦闘音は無く、ミレイ達もなだれ込んで来る気配が無い。なのでクリスナーア達も無事に、勝利していると簡単に推測出来た。


「ノブヤス。ならば屋内闘技場(コロシアム)の方を見に行って来てはどうだ?」


「屋内闘技場コロシアム?・・・ああ、そう言えばそうだな」


 フィリアに言われ、信康は思い出した。


 屋内闘技場には現在、ラキアハが一人で屋内闘技場に居るイルヴ達の相手をしていた筈だった。


 シキブの分身を通してシキブも何も報告して来ないので、大丈夫だと勝手に思っている信康。しかし気になるのは確かなので、屋内闘技場に行って様子を見に行く事にした。


「あたしも気になっていたから、付いて行っても良いかしら?」


「別に良いぞ」


 マリーアも同行したいと言うので、信康は許可を出した。


 それからフィリアに向かって、改めて信康は話し掛ける。


「それじゃフィリア。俺はマリーとシキブを連れて、屋内闘技場(コロシアム)の方に行ってみるわ」


「そうか。では私はクリスナーア達と合流して、娯楽施設に残るとしよう。他の連中も貴方に同行したいと言うかもしれないから、一応聞いておくと良いかもしれない」


「それもそうだな。じゃあ、この部屋から出るとしようか」


「了解」


 信康達は一斉に、部屋から退室した。

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