表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信康放浪記  作者: 雪国竜
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

251/412

第246話

 信康がエルドラズ島大監獄乗っ取り計画の決行日を判断してから、二十日後。


 Bフロア。


 其処では何故か受刑者達の機嫌が、明暗にくっきりと分かれていた。何故なら開放される受刑者は機嫌が良く、開放されない受刑者がそれを羨んでいるからだ。


「久しぶりに、外の空気が吸えるぜ」


「良いなぁ。俺も外に出てぇよ」


「何寝言言ってやがる。手前は俺達と違って五日前に、出して貰えたばっかりだろうがよ」


「全くだ。けど羨ましいってのは、俺も同意するぜ」


 ある雑居房の受刑者達は談笑しながら、自分達の雑居房の扉が開くのを待っている。尤も、待っているのは開放して貰える受刑者だけだったが。


「そう言えばよ。あのCフロアを抜け出したっつう例の東洋人だけど、未だに髪の毛一本すら看守の奴等は見つけられてねぇそうだぞ」


「ああ。あの猛毒獅子(マンティコア)をぶっ殺した餓鬼の事だろ?」


「そうそう。そいつだ。看守連中はあっちこっち忙しそうに探し回ってるらしいし、魔性粘液(スライム)とか死霊(ゴースト)の目を掻い潜って良く見つからねえもんだな」


 受刑者達の話題は、現在脱走して行方知れずになっている信康の事だった。


 当初は箝口令が引かれた事で、信康脱走事件は刑務官の間にしか知られていなかった。


 しかし口に戸は建てられないの故事を表す様に刑務官達の会話を盗み聞きした受刑者が、開放されたのを利用して信康脱走の事件を受刑者の間の拡散してしまったのである。


 オリガ達が事態を把握して口封じに出ようと思った頃には、既にエルドラズ島大監獄内の受刑者で一人もこの信康脱走事件について知らない受刑者は居なかった。


 受刑者達に自分達の失態を知られてしまったオリガ達は、大層怒り狂った事実は最早言うまでも無い。


 そうやって受刑者達が信康脱走事件について話していると、刑務官が雑居房の扉の前に立ち鍵を開ける。


「おい。開放される奴だけ、出ても良いぞ」


「へ~い」


「やっとだ。じゃあ、あばよ」


「おう。精々楽しんで来いよ」


 受刑者達は好き勝手に言いながら、雑居房から退室する受刑者と残留する受刑者に別れた。


 他の雑居房からも、次々に開放される受刑者が退室して行く。


 受刑者達が先導役の刑務官達に連れられて、次々と屋内闘技場に向かうのを残っている刑務官達が見送りながら話す。


「係長。これで今日の午前の部に開放する受刑者は、全員出し終わりました」


「よろしい。後は屋内闘技場コロシアムの出入口を監視する、増員を送るとしましょう」


「ええ。それとこれから来る水竜兵団の補給艦の物資を運ぶ人員も確保する必要がありますね」


「そうね。でもその振り分けは、所長や副所長達が指示を出してくれるわよ。私達は屋内闘技場(コロシアム)に迎えと言われたんだから、その指示に従っておくだけで良いの」


「ですね」


「じゃあ、行きましょうか」


「はい」


 雑談をしていた二人の刑務官も其処で雑談を打ち切ると、屋内闘技場に向かった受刑者達の後を追い始めた。



 エルドラズ島大監獄乗っ取り計画の決行日の夜。


 信康達はEフロアにある、広場に集結していた。


 信康達はこれから行う事に、今か今かと待ち望んでいる顔をしていた。


 尤も信康達全員がそう言う訳では無く、セミラーミデクリスとフィリアは平然としていた。


「いよいよ待ち望んだ計画の実行だが、師匠」


「良かろう。暫し待て」


 ディアサハが宙に、指に書き込んで行く。


 信康からしたら相変わらず解読不能な文字だが、魔法に精通しているセミラーミデクリスとラキアハは感嘆していた。


「・・・ルーン文字か。こうして目の当たりにするのは、久しぶりじゃな」


「そうですね。現代ではほぼ失伝してしまった、幻と言われている魔法ですから何時見ても驚きです」


「うむ。我も学ぶ機会が得られなんだ所為で、唯一会得出来ておらぬ魔法じゃ」


 二人の話を聞いている信康はルーン魔法が凄い事は理解しているのだが、其処まで凄いと同様に感嘆出来ないのは魔法に関してまだ其処まで精通していないからだと言える所為だろう。


 やがて宙に浮かんでいたルーン文字が、信康とディアサハを除くセミラーミデクリス達の周りを囲むみたいに回転し始めた。


 回転し始めるルーン文字は、やがて光を放ち始める。


 その光は、直ぐに止んで消滅した。


「調子の方はどうだ?」


 セミラーミデクリス達に信康は、調子に関して問い掛けた。


 するとセミラーミデクリス達は、身体を動かして調子を確認している。


「うむ。これでエルドラズに入る前と同じく、魔法を思い切り行使出来るな」


「私も同じです。ディクリス様」


 セミラーミデクリスの一言に、フィリアも同意とばかりに頷いた。


「良し。これでこのエルドラズの乗っ取りが、出来るってもんだぜ。師匠、ありがとうよ」


「構わぬ。礼を言われる程の事でも無いわ」


 信康の感謝を受けて、ディアサハは何でも無いと思ったみたいにそう言った。


「ノブヤス。もう準備出来たんだから、さっさと行きましょうよ」


 クラウディアはDフロアに移動したいのか、ディアサハと話を続ける信康を急かした。


「ちょっと待て」


 すると其処へ、ある人物が待ったを掛けた。


「どうした? スルド」


「思ったんだけどよぉ・・・あたし達は良いとして、カガミはどうするんだ? このでけぇ図体じゃ、移動するのも手一杯だろう?」


 スルドは親指で、カガミを指し示す。


 カガミはかなりの巨躯の持ち主であり、このEフロア内を移動させるだけで一苦労だ。


 そしてそれはエルドラズ島大監獄内での、カガミの移動の遅さを懸念するものでもあった。そんなカガミを連れて行くのかと、スルドは信康に訊ねている。


 セミラーミデクリス達もカガミをどうするのか気になっているのか、信康の返事を待っていた。


「ふふふ。大丈夫だ、問題無い。それに関してはちゃんと、対策は考えているぜ。なぁ、カガミ」


 信康がそう問い掛けると、カガミは魔法詠唱を始めた。


 するとカガミの巨躯が、徐々に大きさを変えて行く。


 尻尾の所が小さくなって行き、最終的には人の足に変化した。


 そして翼と身長が徐々に小さくなって行き、翼は完全に見えなくなった。


 最終的に出来上がったのは、全裸姿をした人間の長身美女になっていた。


「こりゃあ、変化の魔法か?」


「そうだ」


 信康はカガミを連れて行く事にした時に、やはりスルドと同様にこの巨躯では連れて行くのは難しいと思っていた。


 カガミの扱いに困っていたディアサハが身体を変化させれば良いだけだろうと言って来たので、信康はそれもそうかと納得してカガミに変化魔法を試させた。


 時間は掛かったが、結果通りになった。


「と言う訳でカガミを連れて行く事は、これで問題は無くなったぜ。他に何かあるか?」


 信康がそう問い掛けると、セミラーミデクリス達は無いと言わんばかりに頷く。その間にディアサハはカガミの為に、囚人服を用意してくれたのでそれにカガミは苦労しつつも着替え終えていた。


「じゃあ、行動開始と行くか」


 信康は歩き出すと、セミラーミデクリス達もその後に続いた。


「あっ」


「どうした?」


 Dフロアを目指して歩き始めたと言うのに、変な声を上げた信康にスルドが訊ねる。


「ちょっと用事を思い出したから、先に行っていてくれ。直ぐに合流する」


「おう。だったら先に行って待っているぜ」


 スルドが承諾すると、セミラーミデクリス達は信康を置いて先に進んで行った。


 信康はそれを見送ると、信康は広場に戻る。


 広場には、ディアサハが一人いた。


「まだ、何か用か? 馬鹿弟子よ」


「一つ聞き忘れていたんだが、師匠はやっぱり手を貸してくれないのか?」


「前に言った筈だぞ。儂が手を貸す事でも無かろう、とな」


「まぁそうなんだけどさ」


 信康は改めてディアサハがエルドラズ島大監獄乗っ取り計画に不参加である事を理解して、僅かばかりに残念そうな声を漏らした。


「まぁ良いか。俺達が無事にエルドラズを乗っ取って戻って来るのを楽しみしていてくれよ」


「ふっ。ならばこの大監獄の制圧を無事に成功させた暁には、儂からお前に褒美として良い物をやろう」


「おっ。良いのかっ?」


「構わぬ。ただし何をやるかは、生きて帰ってきた時の楽しみじゃ」


「おう。楽しみが一つ増えたぜ。じゃあ、行って来るよ。師匠」


 信康はそう言って走り出した。


 ディアサハは信康の背中を見えなくなるまで、黙って見送り続けた。




 セミラーミデクリス達と合流した信康は、看守に遭遇する事無く、Dフロアにある独居房の前まで到着出来た。


「今の所は、特に問題無いな」


「ですね」


「ノブヤス。この独房(へや)には誰が居るのよ?」


「ああ。前に紹介した、オルディアって奴だ」


「ああ、思い出した。あいつね」


「ああ、そうだ。と言う訳で、シキブ」


 信康がそう言うと、影からシキブが出て来て壁に入る。


 信康がシキブに声を掛けると、シキブは信康の影から現れた。


「相変わらず便利な奴だな。この不定形の魔性粘液ショゴスは」


「俺もそう思っているよ」


 信康はフィリアの称賛に相槌を打ちながら、オルディアの独居房に入室した。


「オルデ。居るか」


「うい~ッス。ノブッチ、お久~」


 独居房に居るオルディアが、入室して来た信康を歓迎して手を振った。


 信康は真っ直ぐオルディアに向かって歩いて行くと、その振っていた手を軽く叩いてハイタッチした。


「よう、元気そうだな」


「まぁね」


 オルディアは直ぐに、信康の背後に居るセミラーミデクリス達を見る。


「前に会った時も思ってたけど、やっぱり別嬪揃いッス。流石はノブッチなんだしっ」


「・・・・・・誉め言葉として受け取らせて貰おう。お前は頼んだ事は、してくれたんだろうな?」


「言われた通りに、遅効性の睡眠薬を混ぜた食事を用意したッス・・・でも一つ問題があるんだし。あの薬、思っていたよりも効くのが遅そうッス。看守達はまだ薬で眠っていないと思うから、楽観的になって油断しないで欲しいんだし」


「そうか。そりゃ仕方ないな・・・まぁ良いか。気にしても今更だ。仕方が無い・・・シキブ」


 信康は傍に居る、シキブに声を掛ける。


「Dフロアに居るクリス達の独房へやを全部解放して、Bフロアに向かえ」


 シキブは了承したとばかりに頷き、直ぐに行動した。


「シキブまでBフロアに行く必要などあったか?」


 フィリアの問い掛けに、信康ではなくカガミが答えた。


「私ガ産ンダ魔物達ガ、シキブノ体内なかニ居ル。ダカラ、ソレデ行クノヨ」


「成程」


 カガミの説明を聞いて、セミラーミデクリス達は納得した。


「これで分かったな。じゃあ改めてDフロアの奴等と合流したら、Cフロアに向かうぞ」


 信康の言葉に、セミラーミデクリス達は頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ