第239話
数時間後。
信康の瞼が、唐突に震え出した。
そして瞼を開けると信康は自分の胸の中で眠っている、ディアサハを見て目を疑った。
「師匠?・・・・・・何時の間に、俺の胸の中に移動していたんだ?」
思わぬ状況を前にして、少し動揺する信康。
「・・・・・まぁ良いか。こうして身体を預けてくれるのは、信頼してくれてる証だろうし・・・何より、悪くない」
信康は考えるのを止めて、ディアサハを起こさない様に身体に腕を回して優しく抱き締めた。
それから暫くディアサハの美髪を撫でたりして過ごしたが、ディアサハは起きる様子は無かった。
そうしている内に飽きたのか信康はディアサハを移動させて身体を壁に凭れさせると、ゆっくりと身体を起こして背筋を伸ばした。
「さて、良く寝たし。ちょっとあいつ等と話をするか」
独居房を出る前に信康はシキブに頼んで、セミラーミデクリス達の独居房の扉を全て開けさせた。
ドアノブが開いた順から、独居房からセミラーミデクリス達が出て来る。
「一体、何だ? いきなり扉が開き出してよ」
スルドが周りを見ながら独居房を出て直ぐ近くにある広い場所で、其処に居るセミラーミデクリス達に訊ねる。
「さぁ、わたくしにはさっぱりです」
そう言いながら、何となく自分が独居房を出て来れた理由を察するラキアハ。
「まぁ、ノブヤスが企みを実行に移すんでしょうね」
クラウディアは自分の予想を話し出した。
「ほぅ? 本当に行動するとはな、我も予想しなかったぞ」
しかしそう言った言葉とは裏腹に、その顔には予想通りの展開になった事に喜ぶ顔をしているセミラーミデクリス。
「・・・・・・」
フィリアは腕を組み、一言も発しない。
「主、起キテ来タ」
カガミが言葉を発した。
それを聞いて、皆驚いた。
「おおおっ、すげぇ。こいつの声、初めて聞いたぜ」
「この高位蛇美女、喋れたの?」
「我も初めて聞いたぞ」
「・・・・・・大方、誰かが言葉でも教えたのだろう」
「そうですね。その用な酔狂な事をする方と言えば」
フィリアとラキアハの言葉を聞いて、残りの三人はの頭に一人の男性の顔が浮かんだ。
「よぅ、お前等。おはよう」
「おはようございます。ノブヤス様。って、あら」
「ふん」
「・・・・・・」
ラキアハは驚き、セミラーミデクリスは鼻を鳴らし、フィリアは呆れた様子で溜め息を吐いた。
「ねぇ、何時の間にこの高位蛇美女に言葉を教えたの・・・」
「てめえ! どうやって、こいつに言う事を聞かせるようにしやがっ、た・・・・・・」
クラウディアは言葉を区切り、スルドは目を疑った。
「・・・・・・・・」
カガミは信康の下の方に目を向けた。
「どうした? お前等」
信康は皆の反応がおかしい事に気付き訊ねた。
「・・・・・・あんたね」
「あん?」
クラウディアは顔を赤くさせて、身体を震わせる。
「おい手前っ、そんな趣味があるのか?」
「はぁ? すまんが、言っている意味が分からん」
「「全裸であたし達らの前に来るなっ!」」
二人は、信康を見ながら叫んだ。
「・・・・・おおっ」
信康は言われて、自分が全裸だという事に気付いた。
そして慌てて、自分の独居房に戻った。




