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信康放浪記  作者: 雪国竜
第二章

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第237話

 ディアサハ達から離れた信康は、ある独居房の前に居た。


 ドアノブを回す前に、信康は扉をノックした。


『~~~~~~』


 声の様な音が、信康の耳に聞こえて来た。


 信康はドアノブを回して、扉を開けた。


 すると信康の身体に、蛇の尻尾が絡み付いて来た。


「ちょ、待ったああああぁぁぁぁぁぁっっ!?」


 信康はその蛇の尻尾を持った者を落ち着かせようとしたが、健闘虚しくそのまま引っ張られた。


 引っ張られていた信康であったが、途中で尻尾が離れた。


 引っ張られた勢いのままで尻尾が離れたので、その勢いのままで飛んで行く信康。


 やがて信康は柔らかい感触を感じて、頭から着地した。


「~~~」


 信康を引っ張った者と思われる者は、信康の後頭部に手を回して愛おしそうにギュッと抱き締める。


「・・・・・・少し力を緩めろ。カガミ」


 信康の頭に当たっていた柔らかい物とは、カガミの豊満な胸であった。信康は顔を起こして、カガミの顔を見ながら告げる。


 信康を独居房の室内まで引っ張ったのは、カガミであったのだ。


 信康がカガミの下に来たのは理由があった。


「ほれ、手を離せ。前に言った様に、言葉を教えてやるよ」


「~~~」


 カガミは微笑み、信康から手を離した。


 自分の頭からカガミの手が離れたので、信康は身体を向き直した。


 信康はカガミの尻尾に、背中を預ける体勢になった。


「良いか。これからお前に、大陸共通語を教える。先ずはアルファベットだ。それで、これがAだ。他にはB、C、Dとある。これを書いて行くと文字に」


 信康は欠けた石で床を削り、文字を書く。


 そうしている途中で、自分の横に自分が書いた文字を見ている者が居た。


 カガミは信康の後ろから、覗き込む様に見ているので違う。


 では誰なのかと言うと、答えは簡単であった。


 覗き込んでいた者の正体は、シキブだった。


 これは魔性粘液(スライム)型の魔物全般に言える事だが、不定形の魔性粘液(ショゴス)のシキブには目と言える部分は無い。しかし目と思われる部分で、床に書かれた信康の字を見ていた。


「・・・・・・そう言えば、お前に文字を教えた事は無いな」


 信康はシキブに出会ってから、文字を教えてない事を思い出した。


「よし。ついでだ。お前にも教えてやるよ」


 信康はシキブにも、カガミと同様に文字を教える事とした。



 数分後。



 信康は二体に、文字を教え終えた。


 それで早速とばかりに、二体に文字を書く練習させていた。


「「・・・・・・・・・・・・」」


 二人は欠けた石で、床に信康に教えて貰った文字を書いていた。


 信康は何も言わず、されど感嘆しながら二体の練習を見ていた。


(カガミとシキブの学習能力が、俺の想像以上に高い。想定外も良い所だが、これで文字の読み書きは出来る様になった)


 信康はシキブとカガミの学習能力の高さに、感嘆していた。


 当初の予定では、大陸共通語の基礎であるアルファベットが覚えられたら良いなと思っていた。しかし二体は水を吸収する砂の如く、凄まじい速さで次々と大陸共通語の単語や文法を習得して行ったのである。


(つまり俺は筆談と言う形でなら、カガミにもシキブにも紙に書いて指示を出せる様になった訳だ。思わぬ収穫だな。此処はシキブを伝令役に使って、上の階層に居るオルデ達に計画を実行する事を教えに行かせるか)


 二体が練習をする姿を見ている様で、別の事を考えていた。物思いにふけていた所為か、シキブが近づいて来るのに気が付いていない信康。シキブは信康の身体を押すと、漸く反応した。


「っと・・・どうかしたのか。シキブ?」


「・・・・・・」


 シキブは身体の一部を伸ばし、欠けた石で床に何かを書いている。


 信康はその様子を見ていた。


 そして書き終わり、シキブが良く見える様に自分の身体を動かした。


「何々? 何て書いたんだ?」


 そう言いながら、信康はシキブが書いた先を覗き込んだ。


 すると床に書かれていた文字は綺麗な文字で、とても先程文字を教えて貰ったばかりの者とは思えない達筆な文字であった。


 そして信康は床に刻まれた、文字の内容を見て驚いた。


 床に書かれていたのは、『御主人様(マスター)の故郷の文字を教えて下さい』と書かれていた。


 此処で言う御主人様とは、信康の事だろう。


 どうやらシキブは信康の髪色と肌の色が他の者達と違うので、故郷は別にあると理解した様だ。


 信康は改めて、シキブの知能が高い事にも驚いた。


 そして褒める様に、シキブの身体を撫でた。


「はっはは。やはりお前は、賢いんだな。もしシキブが女性だったら、可愛がってやるんだけどな」


 信康は笑顔でそう言う。


「・・・・・・」


 その言葉が聞こえたのか、カガミが二股に分かれた舌を口から出しながら不機嫌そうな顔をする。


 信康はカガミを見て、手招きをした。


 手招きされたカガミは信康の寄る。


「妬くなよ」


 信康はカガミの頬を撫でる。


 それだけの事なのに、カガミは途端に機嫌が良くなった。


「お前にも、俺の故郷の文字を教えてやるよ」


 信康がそう言って、床に文字を刻む。


「良いか。先ず俺が教えるのは、大和語のひらがなだ。これが、あだ。次がい、う、え、おと続いて、次は・・・・・・」


 信康は床に大和皇国の大和語を、文字にして書きながらシキブとカガミ教えて始めた。




 信康は昼食を挟みつつも大和皇国の大和語を教え終えると、シキブに扉を開けて貰い独居房を退室した。


 出る際に独居房から出ない様に尻尾を巻き付けたが、信康は離す様に宥めた。



 時間は掛かったが、カガミが漸く大人しくなったので、信康は独居房から退室する事が出来た。


 流石に疲れていた信康。


 しかし無慈悲な呼び掛けが、信康の脳裏に入って来る。


『おい。馬鹿弟子。そろそろ鍛練を再開するぞ』


 ディアサハの声が、直接信康の脳裏に響いた。


「・・・・・・嘘、な訳ねぇよなぁ」


 疲れ果てた状態であの激しい鍛練をするとは、まさに鬼といえる所業であった。


(正直に言うと、逃げ出したいな。いや、出来る訳が無いんだが・・・)


『言うまでも無いが、もし逃げ出したら当たるまで槍を投げるぞ』


 信康が咄嗟に浮かんだ考えを先読みしたのか、ディアサハが言う。


 逃げ道を塞がれた信康は仕方無しに、そのままディアサハが居ると思われる場所に向かうのだった。

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