第224話
信康はセミラーミデクリス相手に油断して、痛んだ酒を飲んだ翌日。
酷い腹痛に襲われた信康であったが、ディアサハの治癒魔法で如何にか全快するに至った。
自分の不注意と言われたら其処までだが、信康も師匠であるディアサハにその事を散々言われた。全て事実なので言い返す事も出来ず、信康は黙って聞き入れるしか出来なかった。
今日もディアサハとの鍛錬を無事にやり遂げると、信康は食事を取ってから今日会いに行く予定のスルドが居る独居房に向かう事にした。
「さて、次はスルドとか言う女の独房に行くとするか」
信康はそう言うと、歩き出す。
少し歩くと、スルドの独居房の前に到着した。
信康は入る前に、独居房の扉をノックした。これも先日、セミラーミデクリスにノックしなかった事が注意されて改めたからだ。
Eフロアで収容されている受刑者達は他のフロアの受刑者達と違って、重い事情を背負っている事実を鑑みて信康も態度を改める事にしたのである。
しかし信康がノックをしても、スルドからは何の反応も無かった。信康は待つ事無くドアノブに手を回して、スルドの独居房へと入室する。スルドの独居房に入室すると室内には机と椅子、寝台以外は何も無いという殺風景な部屋であった。
(随分と殺風景だな。いや、監獄に投獄された受刑者の独房だと思えば、これ位が寧ろ相応なんだが・・・ラキアハとセミラーミデクリスの独房があまりに豪華だった所為で、感覚が狂ってるな)
信康は心中ではそう思いながら、スルドの独居房の室内を見回した。しかしどれだけ信康がこの独居房を見渡しても、独居房の主であるスルドの姿が見えない。
「あれ? 何処だ?」
信康は首を回して、スルドを見つけるべく周囲を見た。
しかし室内の何処にも、スルドは居なかった。
何処かに居るのかと思い、更に信康が独居房の中に入った瞬間。
「死ねえええや、こらあああああっ!?」
天井から甲高い声が、信康に聞こえて来た。
信康は天井を見ずに、身体を翻して避ける。信康が避けると、信康が居た場所に誰かが落ちて来た。
その降りて来たものを、信康は見る。
その者は火炎の如き赤髪を足まで延ばし、猫を連想させるツリ目。黄色の瞳をしている。
身長は、子供程度であった。
着ているのは信康が着ている囚人服では無く、上半身はへそ出しの赤いシャツを着て、下半身は白いスカートを穿いていた。
「ちぃ、外したかっ」
「いきなり攻撃とか、随分と血の気が多い奴だな」
信康がそう言って、その者を見る。
「お前がスルド・リリパットか?」
「ああ、そうだよ。てめえ、何もんだ?」
「このエルドラズにぶち込まれた受刑者だよ。ただし、冤罪だがな」
「そうかい。で、あたしに何か用かい?」
じりじりと動きながら、スルドは訊ねた。
「話は事前に聞いているみたいだから、単刀直入に言おう。俺に手を貸せ」
スルドの動きに合わせて、信康も動く。
「ああん? 手を貸せだぁ?」
「この大監獄を乗っ取りたいんだよ。だから手を貸せ」
「そうかい。あたしの手を借りたいなら、あたしを倒してみなっ! 弱ぇ奴に、従う気はねぇよ」
スルドはそう言って、信康に飛び掛かって来た。
信康はその動きを身体を反らして、スルドを避ける。
スルドは信康が避けるのも予想していたのか、直ぐに動きを止めて信康に殴りかかった。
「はああああっ」
「諄いっ。赤き炎の棘」
信康が赤き炎の棘を発動させると、赤い棘付きの触手がスルドの身体に絡みつき拘束した。
「な、何だ。こりゃあっ!?」
「魔法だよ」
「魔法だあ? こんな魔法見た事ねえぞっ!?」
「俺の固有魔法だから、当然だろう。そんな事よりもだ。どうだ。手を貸してくれるか?」
「はぁっ、誰が、手を貸すかよっ」
「そうか。じゃあ、仕方が無いな」
信康は人差し指を突き出した。
「何を」
「酔呪の光」
信康が酔呪の光発動させると、指先から黒い光が生まれ輝き出す。
その酔呪の光の黒い光を見たスルドは、目に光を無くし何処か遠くを見ていた。
信康はスルドの前で、手を動かす。スルドからは、何も反応が無かった。
「・・・・・・効いているよな? それにしてもどうして、セミラーミデクリスには効かなかったんだろうな?」
セミラーミデクリスに酔呪の光が効かなかった事を、信康は不思議に思う。
幾ら考えても、セミラーミデクリスには酔呪の光が効かなかったのか分からない様子だった。
「まぁ良い。今はスルドだな」
信康はスルドを見る。
少女と言える身体なので、肉付きも身長も足りない。
「小さい娘とするのは、久しぶりだが・・・まぁ良いか」
信康も大和皇国を出国してから、多種多様な種族の女性と関係を結んで来た。
それこそ出会いとその出会った人数が多過ぎて、逆に娼館には片手で数える程度の回数しか行っていない位だ。
関係を結んだ多種多様な亜人類の女性の中には、小人族も含まれている。
信康はスルドに手を伸ばした。




