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信康放浪記  作者: 雪国竜
第二章

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第213話

(さて・・・この人は、どうするのかしらね?)


 マリーアは自分が言い出した要望に応えようと思案する、信康を静かに見詰めていた。


 自分が出した問いにどう答えるのか、楽しんでいるみたいに見える。


 顔だけ見たらそうであろうが、それは演技だった。そもそもマリーアの心中では、信康が出す結論は決まっていた。内心ではどうせ信康も今日まで同様の試しを行った男性達と、同様の結論を出すだろうと思っていたのだ。


 一室で男性が二人きりの美女を満足(・・)させる、となるとある事を連想しがちになる。


 それは性交だ。


 事実としてこの試しに答えた男性達は全員、マリーアの身体を求めた。


 その度にマリーアは落胆して、自身が持つ魔眼で魅了した。そして自分には一切逆らえない様にして、利用出来るだけ利用してから口封じに始末していた。


 最初こそ自分が予想する答えとは異なる答えを出してくれる事を、マリーアは男性に期待していた。しかし誰もそうとはならず、マリーアは何時からか落胆すらしなくなった。


(このノブヤスという人が何時もの答えを出したら、何時もの手で(・・・・・)操れば良いわ)


 マリーアは脳内で、そう結論づけた。


「・・・・・・よし」


 信康は頷いた。


 それを見て、マリーアは自分の問いに答えが出来たと見る。


「どう? 答えは出た?」


「ああ、出たぞ」


 信康はそう言うので、マリーアは寝台に腰掛ける。


 これはマリーアからの何時でも性交が出来るぞ、という意思表示だ。尤も、ただの見せ掛けに過ぎないのだが。


 今日まで試して来た男性達と同様に、信康が襲い掛かって着たらマリーアは得意の魔法で言う事を聞かせる心算だ。


「隣に座らせて貰うぞ?」


 信康はそう尋ねると、マリーアは頷いた。


 許可を得た信康はマリーアの隣に座り、マリーアの目を見る。


「お前って、魔女族ウィッチなんだよな?」


「ええ、そうよ」


「俺の知り合いにも魔女族ウィッチは居るが、やはり不老長寿なんだな。フランクス王国の謀略に関与しているなら、見た目通りの年齢では無いだろう?」


「そうよ。十七歳から先は数えてないわ」


「やはり長生きだな。他に知り合いの魔女族ウィッチは居るか?」


「居ると言えば、まぁ居るわね」


「そうか。因みにマリーは、どう言う系統の魔女族(ウィッチ)なんだ?」


「あたしは神殿娼婦の血筋だから、特に系統と言えるものは無いわね。魔法そのものは、全般得意よ」


「神殿娼婦? またあまり聞かない単語を、久しぶりに聞いたな」


 信康は神殿娼婦の単語を聞いて、懐かしそうな顔をした。


「クスクス。物知りなのね。大昔の神殿には、売春をすること自体が神聖な儀式と考えられた時代があったわ。子作りの面だけ見れば、確かに神聖かもね。簡単に言えば、神殿でセックスを行う為の娼婦よ。尤もその娼婦は、魔法を使う事が出来る者だけにしかなれないのだけどね」


「話だけ聞いていると、やはり歩き巫女と似た様な者だよな」


「何よ? そのアルキミコって?」


「神殿娼婦みたいに身体を売って、託宣やら祈祷したりする巫女・・・って言われたら分かり辛いか。簡単に言えば、精霊術師(シャーマン)だ」


「へぇ。ノブヤスさんの故郷には、そんな人達が居るのね」


「まぁな」


 厳密に言えば違うが、似た様な同業者だと思う事にした信康。


「系統らしい系統は無いと言っているが、お前の魔法は瞳術系統なのか?」


「そうね。最初に言った様に魔法は殆ど全般を教わっているけど、一番得意なのは瞳術よ」


「どんな術なんだ?」


「そうね。あまり教えたくないのだけど、特別に教えてあげるわ。あたしが一番使っているのは魅了(チャーム)よ」


魅了(チャーム)? その魔法って、別に瞳術で使う魔法じゃないよな?」


「ええ、その認識で間違っていないわ。ただ普通の魅了(チャーム)よりも、かなり強力なのよ。単純に普通の魅了(チャーム)の、上位互換と考えてくれたら良いわ。余程の魔法抵抗力が無かったら、直ぐに掛かって相手をあたしの操り人形に変えられて便利なのよ」


「成程な。それは凄いな」


 異名が知れ渡るだけの功績を上げられた絡繰は、マリーアの魔眼かと思う信康。


 魔眼を見せただけで、生物であれば何でも魅了出来る洗脳魔法。


 信康は素直に、凄いとしか言えない。


「だとしたら、今は俺に使っているのか? と言うか、言って良かったのか?」


「別に良いわよ。それはそうと、どう思う?」


 マリーアは答えず、はぐらかすように言う。


「ふむ。だから、これが主張しているのか?」


 信康は自身の股間を見た。


 其処には、自分の逸物が天を突かんばかりに立っていた。


「さ、さぁ、どうかしら・・・・・・」


 マリーアは苦笑する。


 魅了(チャーム)を使っていないのに、逸物を立たせているのには驚きであった。


 因みにマリーアが瞳術を使うと、目の色が変わる。


 今は薄水色の瞳だが瞳術を使うと、琥珀色の瞳になる。


「冗談だ。俺の愚息は、良い女を見ると大きくなるんだ」


 信康は苦笑した。


 マリーアも釣られて笑う。


「他には、どんな術があるんだ?」


「う~ん。他にも色々とあるけど・・・機密事項よ♥」


「其処を何とか」


 信康は拝み倒した。


「う~ん。でもね」


 マリーアは困った顔をした。


 自分の商売道具なので、あまり知られては困る。だから信康に話すのを、マリーアは躊躇う。


「ふっ。冗談だ。言いたくない事を、無理して聞く事はしない。商売道具だものな。言いたくないのは当然だ」


「ふっふふ。分かってくれてありがとう。それと、ごめんなさいね」


「まぁ、良いさ。じゃあ、そろそろ答えないとな」


 信康は右手を、マリーアにゆっくりと伸ばした。


(・・・やっぱりこの男も、あたしの予想通りの行動を取るのね)


 マリーアは内心でそう思い、魅了チャームを発動させようとした。


 しかしそれは叶わず信康の右手がマリーアの頭に乗ると、優しく横に倒されて信康の膝の上にマリーアの頭が乗った。


 所謂、膝枕というものだ。


 普通は女性の膝に男性の頭が乗るものであるが、今回は逆であった。


「え、えっと・・・・・・何、これ?」


「膝枕と言う奴だ」


「それは知っているわ。でも、普通は女性の膝に男性の頭を乗せるのものでしょう?」


「普通はそうかもな。だが、今回は違う。でも別に良いんじゃないのか?」


「そ、そうかしら?」


「良いんだよ。難しく考えるな」


 信康はマリーアの頭を撫でる。


 エルドラズ島大監獄で生活しているとは思えない程、痛みも無くパサつきも無い美髪であった。オリガから整髪料など、きちんと取り寄せて整えているのだろうなと信康は思った。


 信康はその髪を撫でると言うよりも、髪を梳く様な動きでマリーアの美髪の感触を楽しむ。


「あら、意外に良いわね」


 意外にも気持ち良いので、驚くマリーア。


「俺の気分もあるが、手櫛で勘弁してくれ」


「別に良いわ。別に・・・・・・」


 マリーアは髪を梳かれて気持ち良いのか、そのままウトウトとし始めた。


「このまま少し、眠ったらどうだ?」


「でも」


「良いから、良いから。眠っている間に、悪戯はしない。安心して眠れ」


「・・・そう。じゃあ、お言葉に甘えて」


 そう言って、マリーアは眠りに就いた。


 信康は眠るマリーアを。ただ只管優しく頭を撫で続けた。

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