第210話
信康が三つ星とミハイルに関する昔話に花を咲かせた翌日。
信康達はシキブの体内で、話し合っていた。
その面子は信康とオルディアにシギュン。そして三つ星のクリスナーア、シイ、アテナイの六人だ。余談だがあの思い出話には途中からオルディアも加わって、大いに盛り上がったのだった。
「三人で話し合ったのだが・・・ノブヤス。お前の話に乗ってやる」
「そうか。だったらよろしく頼むぞ。クリス」
これで順調にDフロアの受刑者を、味方に加えられたと言える。
信康は安堵の息を漏らした。
「これで益々、大監獄の乗っ取り計画の成功率が上がるってもんだぜ」
信康は嬉しいのか、掌を拳で叩く。
「良かったッスね。ノブッチ」
「ああ。と言っても、まだ計画は実行に移さないがな」
「その乗っ取り計画だが、乗っ取った後の事も考えてあるのだろうな?」
「・・・何?」
「お前はシギュン以外の看守共を全員捕まえた後、順番に屈服させて従わせる心算なのだろう?」
「言い方よ・・・まぁ、その予定だな」
「一応言っておくがその間、受刑者共はどうする心算だ? そのまま放置する訳にはいかんだろう。それに一看守だけでも、二百人以上居るんだぞ。 一朝一夕で終わる話でも無いし、外部からの連絡もきちんと遮断出来るのか? もしこの乗っ取り計画が外に漏れたら、国が軍を派遣して鎮圧に乗り出しかねんぞ」
「あっ」
クリスナーアの鋭い指摘を受けて、信康はハッとなった。
オリガ達を屈服させて従わせるとしても、クリスナーアが言う様に時間が掛かる。その間に受刑者達がエルドラズ島大監獄が機能停止している事に、気付く可能性がある事を考慮していなかった。
更に乗っ取りに手間取ってプヨ王国に連絡が行けば、信康は正式に犯罪者の仲間入りとなる。信康はまだその事実に、きちんと目を向けていなかった。
「その顔だと、考えていなかった様子に見えるが?」
「ぐっ・・・い、現在はお前等Dフロアの受刑者ともう一階層下のEフロアの受刑者を味方にしてから、綿密にエルドラズの乗っ取り計画を練ろうとしてたんだよ。最初に計画を練った所で何度も修正するもの面倒だし、所詮は狸の皮算用だからなっ」
信康の計画性の無さに呆れるクリスナーアの鋭い指摘を受けて、尤もらしい言い訳を並べて信康は計画を練らなかった事を抗弁した。
「ふん。そのタヌキなんたらと言うのが、良く分からんが・・・そう言う事にしておいてやる。では其処で私からの提案だが、先ず聞こう。ノブヤス、お前はDフロアに死霊呪術師が収容されている事を知っているか?」
「ん? あ、ああ。シギュンとラグンから、確かにそう聞いているぞ」
「今度は、そいつを誑したらどうだ? お前がオリガ達を説得している間、そいつに何時も通りに死霊を操らせて受刑者共が勝手な真似をしない様に監視させるんだ。何なら計画を実行する前でも、死霊を斥候代わりに使って情報収集させるのも手だぞ」
「おおっ! それは実に、素晴らしく良い手だなっ!」
信康はクリスナーアの提案を、名案とばかりに手を叩いて称賛した。信康の称賛を受けて、クリスナーアも満更でもない表情を浮かべた。
「そいつの独房だが、其処に居るシギュンに案内して貰えば良い。後は、お前の交渉力次第だがな」
「それを言われるとそうだな。なら俺達は、直ぐに行って来るとしよう」
「と言う訳で、さっさと行って来い」
クリスナーアに尻を蹴飛ばされる様にシキブの体内から出された信康達は、そのまま話にあがった例の死霊呪術師の下に向かった。
シキブの体内から出た信康達は、その死霊呪術師が居る独居房の前に着いた。
「此処がそうか?」
「はい。此処がビヨンナ・バークティの独居房です」
「名前と死霊呪術師と言うのは知っているが、そのビヨンナって奴はどんな奴なんだ?」
「そうですね」
シギュンはどう言えば良いのか、閉眼して考えていた。
「・・・・・・エキゾチックと言うのでしょうか? 肌と髪が黒いので、何処か妖しい魅力を持った女性ですね」
「肌と髪が黒い? となると黒人だな。南方大陸か、それともガリア連合の出身か?」
肌が黒い黒人種は、南方大陸とガリア連合王国に多い。信康もそう思って、シギュンにそう尋ねた。
「さぁ、其処までは・・・何処の出身かは、誰にも言っていないそうです。ですので、私も知りません」
「そうか」
自分の出身を明かさないとは、其処の所も妖しいと思われるのだろうと思う信康。
「後、このエルドラズを徘徊している全ての死霊を操っています。お陰で看守の負担は、大分軽減されてますね」
「それはまた、凄い魔力を持っているみたいだな」
信康は感心していた。
そうしていると、シギュンが壁に手を当てる。
すると、壁が上に上がって行く。
「どうぞ」
「ああ、行って来る。何時も通りすまんが、見張りは頼むぞ」
信康はシギュンに見張り役を任せて、ビヨンナの独居房に入室した。
「あら? 今日は看守ではなく受刑者が来るなんて、珍しい日もあったものね」
独居房に入室した信康を見るなり、ビヨンナと思われる美女がそう声を掛ける。
ウェーブがかったセミロングにした漆黒の長髪。褐色の肌。
切れ長の目元。鳶色の瞳。整った顔立ちの女性であった。
囚人服からでも分かる豊かな胸。くびれた腰。肉付きの良い尻。
そして身長の方は、平均的な身長か少しばかり上だと思われた。
「あんたがビヨンナ・バークティか?」
「そうよ。貴方、受刑者よね? 何か用かしら?」
「ああ、俺は信康と言うんだが、あんたに話があって来た」
「話?」
「そうだ。実はな」
信康はオルディアや三つ星の時と同様に、エルドラズ島大監獄を乗っ取りたいので手を貸してくれと頼んだ。
そして自分の協力者として、副所長のシギュン。それからこのDフロアにいるオルディアと三つ星のクリスナーア達三人も協力してくれる事も話した。
「ふ~ん。オルディアとあの三人が、貴方に協力する事にしたのね」
ビヨンナは感心した様に言う。
「あんたはエルドラズに居る、死霊を操っているんだろう? 先ず計画を実行する前に、死霊を使って情報収集をして貰いたい。そして計画後は俺がオリガ達を説得している間、受刑者達を監視して欲しいんだ」
ビヨンナに頭を下げて、頼み込む信康。
それを見て、ビヨンナは顎に手を当てて思案した。
「・・・・・・そうね。手伝ってあげても良いわよ」
「おお、本当か?」
「そうね。条件は、後日請求するという事で良いかしら?」
「出来ない事でなければ」
「クスクス。別にそんな大げさな事は頼まないわ。流石に、そろそろ、この牢獄に居る事にも飽きてきたから、外に出たいのよ」
「そのぐらいなら、まぁ叶えられるかな。条件付きだと思うが」
「別にそれでも良いわ。じゃあ、交渉成立ね。これからもよろしくね♥」
ビヨンナは手を伸ばしてきたので、信康も手を伸ばし握手した。




