第209話
数時間後。
信康が目覚めると、自分が弾力がある物の上で寝ている事に気付いた。
軽く手で押してみると、弾力がありながら柔らかい台の感触を楽しんでいた。
「おい。遊んでないで、そろそろこっちを見ろ」
そう声を掛けてられて、信康は押すのを止めて、声がした方を向く。
其処にはクリスナーア達が居た。
「ああ、悪いな。で、調子はどうだ?」
「私は大丈夫だけど」
アテナイは何処も異常はないと答えてから、隣にいるクリスナーアを見る。
「ふん。中々に嫌な性格をしているな。お前は」
しかめっ面をするクリスナーア。
負けて犯されたのだ。顔を顰めても仕方がないだろう。
「そうだな。良く言われるよ。しかし、お前がそれを言うのか? クリスナーアよ」
信康は肩を竦めて肯定しつつも、暗にクリスナーアに過去の所業や言動を省みろと言った。するとクリスナーアは、露骨に顔を反らした。
「ふん。お前に言われなくても分かっている。それよりもだ」
「何だ?」
「お前は随分と私達、超人種の事に詳しいな?」
「ああ、それか」
「知り合いと言うのだったら分かるけど、私達は貴方の事は知らないわ。だったら、どうして知っているのか疑問なのよね」
「負けた以上、お前に手は貸してやる。だかその条件に、私達の事を知っている理由を教えろ」
クリスナーア達は、信康が自分達の能力を知っている事に驚いているみたいだ。
自分達の能力を知っているのは、自分達を作り出した研究者か戦った者か殺した者しかいない。
しかし、そのどれかに信康は入らない。
では、どうして自分達の事を知っているのかと不思議の様であった。
「簡単な話だ。お前等を創り出した研究者と、俺は知り合いなんだよ」
「研究者ですって!?」
「馬鹿なっ!? あの計画の関係者は全員『鉄腕の死神』が研究資料と共に、研究所ごと抹殺した筈だっ!!」
「その『鉄腕の死神』から聞いたんだよ。お前等なら知っているだろう」
信康が口にした事実に、クリスナーアとアテナイは驚愕せざるを得なかった。
「お前は本当に、ミハエル・テュールと知り合いなのか?」
「ああ、そうだ」
信康はそう答えたのを聞いて、アテナイ達は顔を見合わせる。
ミハエル・テュール。
アテナイ達が生み出された計画で最初期に生み出された超人種でもあり、その計画の研究者の一人でもあった。
鋼鉄の魔法人形と融合して作られた存在で、能力名は鋼化機神と言う能力だ。
身体を鋼鉄化出来る上に、身体を大きくする事も出来た。
「尤も、ミハイルあの人はもう死んでしまったがな」
「・・・・・・そうだったの」
「そうか・・・」
クリスナーア達は閉眼して、ミハイルに黙祷した。
自分達がこうして自由に生きれるのも、すべてミハエルのお蔭なのでその死を悼んでしたみたいだ。
「・・・良い人だったよ。今から三年以上前の話になるが、俺が傭兵として駆け出しの新人だった頃の話だ。当時の俺は色々と問題を起こしていて、傭兵仲間に恨まれていて、ある時に殺されそうになったんだ。辛うじて生きていたが、瀕死の状態だった所に、ミハエル師匠が通りかかってな。殺すには惜しいからとそのまま拾われて、師匠が創設した傭兵団に所属していたんだよ。俺にとって命の恩人であると同時に、傭兵としての生き方ノウハウを教えてくれた父親同然の家族みたいな人なんだ」
信康は昨日の事みたいに、ミハイルと過ごした日々を思い出す。
傭兵としての心構え。そして破ってはいけない掟などを教えてくれた。
「・・・・・・そうか」
「それで、どうして亡くなったの? 戦死かしら?」
「いや、寿命かな。少なくとも、病気では無かったな。最期は俺と娘と団員達に、看取られて安らかに死んだよ。『戦場の血泥に濡れず家族に看取られて床で静かに死ねるなんて、傭兵には贅沢過ぎる最期だ』なんて笑いながら逝ったのが、せめてもの救いだと思う」
「そう・・・出来れば生きている内に、もう一度会ってお礼の一言でも言いたかったわ」
「お前にそう言われて、ミハエル師匠もあの世で喜んでいるだろうぜ・・・折角だから、俺が知ってる師匠の話もしてやるよ。シキブ、シイを呼んで来い」
信康はシイも呼んでから、ミハエルの事で思い出話を始めた。




