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信康放浪記  作者: 雪国竜
第二章

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第205話

 シイの調教をしてから数日後。




 信康はシキブの体内で、食事をしていた。


「んぐ、美味しいッス。意外にシキブは料理が上手だし」


 オルディアはシキブが作った焼いた肉を食べて、そう高評価していた。


「へぇ。料理をさせれば右に出る奴が居ない、料理上手のお前が其処まで言うなんてな。シキブの料理の腕前は凄いとは思っていたが、そんなに凄かったか」


 信康も食事をしながら、シキブの腕を感心していた。


「そうなんですか?」


 シギュンは不思議そうに聞いた。


 信康は首肯して、シギュンに答えた。


「こいつの料理の腕前は凄いぞ。俺はオルデと一時同じ傭兵団に所属していた頃からの付き合いなんだが・・・オルデはその傭兵団の料理頭(シェフ)を担当していたんだ。傭兵というより一国の宮廷料理人に召し抱えられてもおかしくない、と言うか当然と言っても過言ではないだけの腕前を持っているからな」


「そ、そうなんですか?」


「ああ。数年前、その傭兵団に所属していた頃の話なんだが、仕事である国に俺達は雇われていたんだ。その国の王族も貴族も、大層な美食家でな。そいつらが手放しで、絶賛する程の腕前なんだよ。専属料理人にならないかって、しつこい位勧誘されてたよなぁ」


「そんなに・・・それと美食家の王族に貴族ですか。其処は何処の国なんですか?」


「あそこは確か・・・何だったかな? オーンハア・ガトリア二重王国だったか?」


「其処、何処だし? 初めて聞く国名だし。多分ノブッチが言っているのは、オースハン・トリアガ二重王国だし」


「おお、そうだ。其処だその国」


「確か東欧にある中堅国で、外交で大きくなった国と聞いています」


「そうだ。そういったお国柄か、舌が肥えた国民性特徴的だったな」


「そうッス。戦争をするにしても、兵士よりも料理人の数が同じくらいだったッス」


 信康とオルディアは同意とばかりに頷く。


「料理人が兵士と同数ですか。料理人はどうやって役に立つのですか?」


「確か料理人が料理して、それで兵士達が士気が上がるって感じだったな」


「そうッス。でも、あれが面倒だったッス」


「あれとは?」


「四年に一回の頻度で家の料理人の腕を競うと言う事で、料理勝負をするんッスよ。あ~し達は丁度、その料理勝負が開催されていた時に居たんだし」


「はぁ、まぁそういうお国柄ですから」


「其処は問題じゃないんッス。問題なのは勝負に負けたら、レシピを一つ渡すか料理人の人生を失うかのどちらかを選ばされるんッス」


「料理人の人生?」


「腕を潰されるか、ぶった切られるんッス」


「えっ!?」


「ああ、そうだったな。実際、その料理勝負に負けて片腕を切られた料理人が居たな」


 信康はその勝負を見て思い出したのか、嫌そうな顔をしていた。


「あれは問題しかないッス。そんな事をしたら、貴族に召し抱えられる料理人が居なくなるんだし」


「その点は同意するがお前、その勝負に一回も負けなかっただろう? 確か当時は『お蔭でレシピが沢山手に入ったッス。嬉しいんだしっ』とか言っていただろう」


「それを言うんだったら、ノブッチは毎回あ~しの勝負で大金を賭けて、かなり儲けたとか言っていたんだし」


「別に良いだろう。勝てる勝負に乗らない馬鹿が、この世の何処に居る? それに便乗していた奴等は、俺だけでは無かったぞ」


「開き直るんじゃないッス。それを言うんだったら、そのレシピの恩恵を受けたのはノブッチだったんだし」


「まぁ、そうだな。お前のレシピが増えたお陰で、その傭兵団での献立の種類が増したからな」


 信康とオルディアとの楽しい会話を聞いて、シギュンは居心地悪そうな顔をしていた。自分は部外者に等しいので、話の輪に入れない事を寂しく思ったのだ。


 それに気付いた信康は手を伸ばして、シギュンの胸を揉む。


「はぁんっ!? い、いきなり、なにを」


「いや、手が寂しかったから」


「意味が分かりませんっ」


 シギュンは顔を赤らめているが、怒っている感じはなかった。


 どちらかと言うと、構ってくれて嬉しそうな顔であった。


「悪かったよ。所で、そっちのお前はどうだ?」


 信康は自分と対面の所に、座っている人物に声を掛ける。


 その人物は勿論、三つ星(トゥリー・スヴェズダ)のシイだ。


 シイはまだ食べている最中だったみたいだが、信康に声を掛けられたので手を止める。


「ふん」


 散々信康とオルディアに嬲られても、未だに気を強く持っているのは感心出来る精神力だ。


 しかしシイは信康から逃げる事も、危害を加える事も出来なくなった。


 何故ならばシイの体内には、シキブの分身が入っているからだ。


 日常生活は支障はないのだが、信康が命じたりシキブが問題ありと判断された場合、体内のシキブの分身が暴れる。


 それは勘弁だと思い、シイは信康の言う事に従う事にした。


「あたしを好き勝手にしたんだから、ちゃんと責任を取って貰うからねっ!」


「責任?・・・成程。要は、お前等三人の面倒を見ろという事か?」


「そうよっ!!」


「だから要求通り、妻妾にしてちゃんと面倒を見る・・・・・・・・・と言っているだろう?」


「だから違うっ! そう言う意味じゃないわよっ!?」


「じゃあ、どういう意味だよ?」


 信康は疲れた様な声を出す。


「あんた、傭兵部隊の副隊長なのよね? あたし達をエルドラズにぶち込んだ奴等の情報程度だったら、手に入れる事なんか不可能じゃないでしょうっ?」


「ああ、成程。つまり復讐したいから、そいつ等の情報を手に入れてくれと?」


「そうよ」


「因みにそいつ等は、どう言う奴等なんだ?」


「四人組の女よ。確か銃士部隊とか言っていたわよ」


「銃士部隊?」


「それって、近衛兵団に所属している銃士部隊の事だと思います」


「そう、それよ。その四人組の女達よ」


「四人組。ああ、だとしたら、四銃士ですね」


「「四銃士?」」


「銃士部隊の中でも特に優れた四人の銃士を称えて、そう呼んでいるそうです」


「四人組・・・ああ。あいつ等か」


 信康は話を聞いて、どんな奴等か思い出した。


 というよりも、信康の中で銃士と言えば、あの四人しか思いつかなかっただけだ。


「何よ? そいつ等の顔を知っているの? だったら話が早いわ。そいつ等が何処に居るか知ってる?」


「・・・其処までは」


「私も」


 信康とシギュンは首を横に振る。


「っち。じゃあエルドラズを出たら、地道に探すしかないわね」


「其処で提案だ。お前等は傭兵部隊に、それも俺の小隊に入らないか?」


「傭兵部隊に? 何で?」


「銃士部隊も軍部だからな。所属は違っても同じ軍部の傭兵部隊だったら、情報が手に入り易いだろう。それにもう暗殺稼業は無理なのだから、その有り余った力を戦場で活かせればまた直ぐに名前も上がる様になるさ」


「・・・・・・それもそうね。其処の所は、二人と相談しながらで良いかしら?」


「おお、良いぞ。所でその二人は、どんな奴等なんだ?」


 信康は残りの三つ星(トゥリー・スヴェズダ)の事を聞いた。


 シギュンから名前などは聞いていたが、どんな性格かは知らないので、信康は訊ねる。


「アテナとクリスの事?」


「ああ、そうだ」


 シイの口からで出たアテナとクリスという名前が出た。


 この二人が三つ星トゥリー・スヴェズダの二人だ。


 シイの口から出たのは愛称で、本当の名前は違う。


 アテナと呼ばれた方の本名は、アナテイ・ブジザキイン。


 クリスと呼ばれた方の本名は、クリスナ―ア・アレクセーエフ。


 これが二人の正式な名前だ。


「アテナはクールに見えて、直ぐに激昂し易い激情家ね。クリスは逆に冷静な性格よ」


「ふむ」


 信康はそう聞いて、この二人を嵌める策を考える。


 少し考えて、良い案が浮かんだとばかりに手を叩く。


「よし、これでいこう」


「何かするの?」


「喜べ。久しぶりにお前等、三人が顔を合わせられるぞ」


「どんな方法を使う心算よ?」


「まぁ、見ていろ」


 信康はそう言って、食事を続けた。


 シイは不安な気持ちだったが、今の自分では二人に伝える手段すら持っていないので、どうにもならないと思いだす。


(せめて、酷い目に遭いません様に)


 そう祈るしかないシイであった。

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