第194話
オリガによって凄絶な虐殺劇を見せられた受刑者達は、刑務官達に連れられて地下一階のBフロアに戻った。
受刑者達が行く所は、エルドラズ島大監獄内にある大食堂であった。
本来ならば昼食を食べてから少し休憩を取った後に夕方まで刑務作業を行うのが、このエルドラズ島大監獄の受刑者の日常みたいなものだ。
エルドラズ島大監獄では、食事は毎日三食美味しい料理が出る。その上、風呂に入る事が出来る。
風呂にも入れる監獄また刑務所と言うのは、プヨ王国でもエルドラズ島大監獄以外に存在しない。良くてシャワーを三日に一度浴びれる位である。
何故、このエルドラズ島大監獄の受刑者だけはこの様な好待遇をするのかと言うと、それには明確な理由が二つあった。
一つは受刑者達の仕事の為だ。
規則正しい生活と食事をする事で刑務作業の速度が遅れる事も無くなり、清潔にする事で病気の蔓延などの防ぐ為だ。エルドラズ島大監獄は孤島である為、万が一病気が蔓延すれば対処が遅れてしまうので衛生面で通常より気を遣うのは当然であった。
もう一つは刑務官の為だ。寧ろこの二番の理由が大本命と言っても良いだろう。
エルドラズ島大監獄の刑務官は全員女性なので、男性に比べて食に対して繊細な所がある。以前行われた刑務官達による匿名のアンケートを取った結果、こうなった。
今日の献立を、信康は見る。
大麦入りのパン。
腸詰と豆のトマト煮。
茹でた野菜二種。
最後に水が入ったコップ一杯。
と言う献立だった。
皿に盛られた料理達は、美味しそうな匂いを湯気と共立っている。
しかし多くの受刑者達、特に最近エルドラズ島大監獄に入獄して来た受刑者達の大半は食事に手をつける事は無かった。
その受刑者達はコップの中に入っている水を飲んだら、料理を食べる事無く皿を下げる所に持って行く。
受刑者によっては、トマト煮を見ただけで吐き気を催している受刑者も居た。
受刑者達にとって数少ない貴重な娯楽も兼ねている昼食の前に、悪趣味極まりない死刑囚を含めた受刑者達を魔物に食われる所を見せられたのだ。
その際に地面に飛び散った赤い血と内臓が、このトマト煮と入っている腸詰を見て思い出してしまい、受刑者達に食べる事を躊躇していた。
しかし残り一部の受刑者達はこのエルドラズ島大監獄に入って慣れたのか、あんな凄惨な現場を見せられても何とも思わない顔で食事をしていた。流石にトマト煮を食べる際には、少し顔を顰めていた。
その食事をしている受刑者達の中には、信康も含まれていた。
「はむ。・・・・・・うん、美味いな」
信康は他の受刑者達よりも平然とした顔で、昼食を楽しく食べていた。
あの虐殺劇の様な凄絶な戦場など、何度も体験して見慣れている信康からしたら何とも思わない。
トマト煮を見ても手をつけても、味わうほどの余裕があった。
(しかし、この味。何処かで味わった様な気が?)
何処で味わったか覚えてないが、でも何処かで味わった味だと思う信康。
やがて料理を食べ終わると、皿を持って下げる所に置いた。
「ごちそうさん」
「どうも~ッス」
信康がお礼を言うと、厨房から返礼の言葉が来た。
その言葉を聞いて、首を傾げた。
信康は厨房を覗き込もうとしたが、後ろから受刑者達が皿を下げようとしていたので、邪魔になると思ってその場をずれた。
受刑者達が居なくなると、信康は今度こそ厨房を覗き込もうとした。
「食べ終わったら、さっさと食堂を出ろっ!」
大食堂の入り口で監視している刑務官に怒鳴られて、信康は渋々だが大食堂を出た。
食堂を出た信康は、食休みとして自分の雑居房に戻った。
本来であれば地上にある屋内闘技場で休めるのだが、虐殺劇があったので解放されていない。ならば運動場はと思ったが、先刻も其処で過ごしたので気分が乗らなかった。
屋内闘技場の方だが、今頃は魔性粘液が屋内闘技場の掃除をしているだろう。
信康が雑居房に戻ると既に食べ終わっていたのか、同室の受刑者達が自分の分の寝台で昼寝をしていた。
信康は同居人の受刑者達を起こさない様に、静かに自分の寝台に向かった。
寝台に腰掛けると、受刑者達は寝息を立てていた。
受刑者達は初日に信康に酒を御馳走して貰って以来、顔を合わせれば如何にか信康の機嫌を取って酒を貰おうと媚び諂っていた。何時の間にか、信康がこの雑居房のリーダー格になっていたのだ。
信康は多少うんざりしながらも、話が聞けるので邪険にせず受刑者達の相手をしていた。
尤も、信康の方から受刑者達にあまり話し掛けない様にしているのだが。
取り敢えず信康は身体を休めると言う意味も兼ねて、休息を取る事に集中する事にした。
翌日。
信康達は何故か、屋内闘技場に居た。
昨日に虐殺劇が行われた所だったので、受刑者達は全員が嫌そうな顔をしていた。
信康と同室の受刑者達だけではなく、他の雑居房の受刑者と終身懲役囚と死刑囚達も居た。
何故こんな所に居るのかと全員が、不思議に思っていた。
其処で、イルヴがやって来た。
イルヴの隣には、以前信康が会っているアルマも居た。
「おいおい。どうしてイルヴとアルマが、揃って此処に居るんだ?」
「さぁな」
受刑者達は二人の所長付き補佐官が何を告げるか、少し怯えながら待った。