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信康放浪記  作者: 雪国竜
第二章
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第191話

 エルドラズ島大監獄のイルヴが先頭に立って信康達、受刑者をエルドラズ島大監獄に案内する。


 煽情的な格好をしている刑務官に、受刑者達の何人かは舌で唇を舐めたり前かがみで歩いたりしていた。


「おい、こんなの見せられたら我慢出来ねえよなっ!?」


「ああ。ただでさえ、こっちは溜まっているんだ。あんな格好をしている女が居るんだ。我慢出来る訳がねえっ」


「ああ、ああ、そうだ、なっ!」


 するとイルヴの直ぐ後ろにいる受刑者達の理性が耐え切れず、欲望のままにイルヴに襲い掛かった。


 己の性欲を満たさんと、イルヴに受刑者達の魔の手が伸びる。


 このままではイルヴは受刑者の思うがままにされるかと、そう思われる距離にまで受刑者はイルヴに近付いた。


魔法障壁(バリア)


 イルヴがそう言うと透明な壁みたいな物体が、刑務官と受刑者達との間に出来た。


「いてっ」


 イルヴへと伸びた受刑者の手は、透明な壁に阻まれた。その時に、壁にぶつかった衝撃で指を痛めた。


「こいつ、魔法使い(ウィザード)!?」


「くそっ!」


 受刑者達はイルヴの正体を知って、自分の浅はかさに憤る。


 そんな受刑者達を見ながら、イルヴは手を伸ばす。


「ふふふっ。毎度毎度の事だけど、これはもうお約束みたいなものですね。イルヴ補佐官」


 刑務官の一人がはそう言って笑っている間に、イルヴは相槌とばかりにフッと笑ってから手を翳して魔法陣を発動させた。


 その魔法陣が刑務官に襲い掛かろうとした、受刑者達の足元にも現れた。


「な、何だぁっ!?」


 受刑者達は叫ぶと、魔法陣から鎖が出てきた。


 その鎖が受刑者達に絡み付いた。


 そしてその鎖から、強力な電撃が発生した。


『ぎゃああああああああっ!?』


 鎖が絡み付かれた受刑者達は、徐に悲鳴を上げた。


 電撃により生まれる雷光が、他の受刑者達の目を晦ます。尤も、信康だけは咄嗟に閉眼してそれを避けていたが。


 このままでは受刑者達が、黒焦げになるだろうと思われた。


 その直前で、刑務官が魔法陣の発動を止めた。


「初日から殺しはするなと、私達は所長から言われているからな。今の所は、これくらいで許してやるとしよう」


 イルヴがそう言うと鎖の電撃が止まり、鎖が魔法陣に戻って行き最後には魔法陣が消えた。


 電撃を喰らった受刑者達は服の所々を焦げていて、白目を剥きながら気を失っていた。


 自分達を支えるモノが無くなったので、そのまま重力に負けて床に倒れる。


 倒れた受刑者の一人を足で踏みつけながら、イルヴは受刑者達に言い聞かせる様に叫ぶ。


「今見た通り、その手枷は貴様等を何時でも殺す事が出来る。このエルドラズの職員は皆、魔法使いだっ! 例外は無いっ! 刑務官(我々)に歯向かう者。刑務官(我々)に襲い掛かる者。無用な騒動を起こす者。脱獄を考える者は例外無く全て、今のこいつ等の様になると思えっ!」


 イルヴが言い終えて踏ん付けている受刑者から足を退けると、そのままイルヴは倒れている受刑者達を蹴り付ける。


「何時まで寝ている。さっさと起きろっ!?」


 イルヴは続けて受刑者達の腹やら背中を蹴り付けるが、受刑者達は気を失っているのでどれだけ蹴りつけても起きる様子は無い。


 蹴り疲れたのかそれとも飽きたのか、イルヴは受刑者達を蹴るのを止めて魔法を発動させた。


「水よ」


 イルヴはそれだけ詠唱すると魔法陣から水が出てきて、気を失っている受刑者達の顔に掛かる。


「っつ!? げへっ、げっへ・・・・・・」


 気管に水が入ったのか、むせ返りながらも身体を起こす受刑者達。


「よし、起きたな。では、行くぞ」


 イルヴは受刑者達が気を取り戻したのを確認したら、そのまま前へと進んで行った。


 それを見て受刑者達も、その後に付いて行く。


 気を失った受刑者達も悪態を吐きながらも、先に進んだ受刑者達の最後尾に付いて行く。


 信康は歩きながら、この手枷を見た。手枷をしている意味が分かり、感嘆の溜め息を吐いた。


(拘束があまりに緩いのでまさかとは思ったが、やはりこの手枷は魔法道具(マジックアイテム)で、こういう仕掛けを施していたとはな。実に効率的だが、加虐的とも言える・・・しかしこれで一つだけ、分かった事がある。この監獄に居る看守は、全員魔法使い(ウィザード)か。いや杖とか腕輪とか指環をしている奴等も居るから、魔術師(マジシャン)も混じってんな。そうでなければ、こんな手枷は使えないだろうし)


 刑務官と受刑者達の短いやり取りを見ただけで、其処までの情報を得た信康。


 信康達が歩き続けると、やがて大きな扉が姿を現した。


「少し待て」


 イルヴがそう言うと刑務官の一人が、その扉の傍にあるレバーの様な物を下ろした。


 すると扉が音を立てて、ゆっくりと上がって行く。


 扉が完全に上がりきった先には、下へと続く階段があった。


「貴様等が入る雑居房は、地下一階だ。我々は、Bフロアと呼んでいる」


「Bフロア?・・・するとあれか。Aから複数のフロアに分かれている訳か」


 オウム返しみたいに繰り返した信康は、イルヴの一言で其処まで分析しながら独白を口にした。


 その声を聞いたのか、イルヴが肩越しに振り返る。


「ほう? 頭が回る奴が居るみたいだな。その通りだ。エルドラズは全部で、四つの階に分かれている。一つは物資搬入、受刑者護送と言った事をする地上部分である一階。我々は此処を、Aフロアと呼んでいる。

 次に放り込まれる受刑者共が、罪の軽重に関わらず最初に放り込まれる地下一階だ。貴様等の刑期が明けるまで暮らす所、それがBフロアだ。

 次は刑務官(我々)に反抗的な受刑者が放り込まれる地下二階。此処に入った者が生きて出るのは、はっきり言って難しいだろう。此処の階だと、尋問とは名ばかりの拷問が許されるのだからな。この地下二階はCフロアと呼ばれている。精々、放り込まれない様にしろ。

 最後に地下三階。此処は死刑囚又は敵国の間者などが放り込まれる所だ。明日をも知れぬ者だけが入れる所だ。だからと言って、貴様等も例外という訳ではない。矯正監(ボス)の心次第で何時でも、此処にぶち込まれるかもしれないと思っておけ。因みに此処は、Dフロアと呼ばれている」


 イルヴは信康にエルドラズ島大監獄の構造を、簡単にだが教えてくれた。


 それを知って、信康は思う。


(俺達が入るのは、地下一階か。俺は諜報員(スパイ)容疑で収監されたのだから、問答無用でDフロアにぶちこまれてもおかしく無さそうだが・・・此処は良かったと、幸運に思うべきか? このBフロアは地上に一番近いから、脱獄を警戒して警備は厚いと考えた方が良いかな)


 現時点では脱獄する気はない信康だが、状況によっては脱獄も視野に入れて行動しないと駄目だとも腹部を撫でながら考えているのであった。


 ルノワ達が自身の無罪を証明してくれる前に処刑されては意味が無いので、脱獄する心算は無くとも算段は立てておくのは当然と言えた。


 そしてイルヴを先頭にして、信康達は地下一階のBフロアへと進み始めた。

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