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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章
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第175話

 信康麾下の第四小隊がダナン要塞の屋内訓練場を制圧して間も無く、ダナン要塞に配置されていた守備隊であるカロキヤ公国軍二個中隊三百が殺到して来た。


 対して上空から侵入して来た第四小隊は、僅か三分の一程度である中隊規模の部隊でしかない。


 数の利を全面に押し出して第四小隊を即座に殲滅しようとしたカロキヤ公国軍であったが、残念ながらそうはならなかった。


「何っ!?」


「だあぁっ! 何なんだよこいつらっ!?」


「槍が通らねぇぞ! 畜生っ!!」


 カロキヤ兵達は、困惑と焦燥を隠せない様子でいた。


 何故なら幾ら槍を突き出しても透明な壁に遮られたが如く、ガキンと大音を鳴らして第四小隊の小隊員達に槍が刺さらないからだ。


 その感触はまるで、岩石に向かって槍を突き立てているが如きものであった。


「本当にすげえな。この魔鎧っ!」


「関心してる場合かっ!? さっさと次の奴をぶっ殺せ!」


 喜んでいる小隊員に、他の小隊員が仕事をしろと促した。


 小隊員は了解とばかりに頷き、攻撃に加わった。


 信康麾下の第四小隊の攻撃により、カロキヤ公国軍は狼狽えだした。


「おらぁっ!!」


「喰らいやがれっ!」


 其処へ第四小隊の小隊員達が、お返しとばかりに各々の得物を突き出し斬り付けた。


『ぐあああっ!!?』


 槍が弾かれて姿勢を崩した隙を突かれたカロキヤ兵達は、第四小隊の攻撃を真面に受けて悲鳴を上げた。


 全員が盾を装備していたカロキヤ兵達だったが、防御が間に合う事は無くそのまま盾を手から離して地面に落とした。


 最前列にいたカロキヤ兵達は、血を流しながら地面に倒れてそのまま動かなくなった。


 自軍の劣勢を見たカロキヤ公国軍の指揮官が、苛立ちながら現況を変えるべくカロキヤ兵達に指令を出した。


「怯むなっ! 乱戦を一旦解いて敵から距離を取れっ!」


 指揮官の命令で、カロキヤ兵達は戦いを止めて第四小隊から距離を取った。


「盾を構えろっ! 突撃してぶちかましてやれっ!!」


『おおおっ!!!』


 カロキヤ兵達は上官の命令通り、盾を全面に出して突撃し始めた。


 カロキヤ公国軍の動きを見て、流石の第四小隊の小隊員達も衝撃に備えて身を構えた。しかしカロキヤ公国軍は第四小隊と激突する瞬間まで全速力で進んだものの、激突するまでには至らなかった。


「っ!? 止まれ止まれっ!? 総員っ! 盾で身を隠せぇっ!!」


 指揮官はある異変に気付いた様子で、慌てて突撃命令を取り消して装備している盾を真上に上げて身体を隠した。


 突然の命令の取り消しを受けて、カロキヤ兵達は困惑していた。


『!!?』


 しかし間も無くしてカロキヤ兵達の真上から、大量の矢が雨の如く降り注いだからだ。


 カロキヤ兵達の半数以上は直ぐに指揮官の命令に従ったので、矢が盾に刺さるか弾かれて助かった。


「ぎゃああぁぁっ!?」


「いっ! いてぇっ!?」


「うぐっ!?・・・っっ」


 しかし、命令に従うのが遅れた残り半数以下のカロキヤ兵達は、降り注ぐ矢の雨が直撃した。


 直下して来た矢によって、肩や背中に矢が刺さるカロキヤ兵達。


 中には頭に直撃した矢によって、即死したカロキヤ兵達が何人も出た。


「お、おのれっ!? 一体何処からこれだけ大量の矢を・・・っ!!」


 カ指揮官はプヨ王国軍の兵数に見合わない大量の矢を見て、困惑しながら呟いていた。


 そして眼前の惨状を見て悔しさや自身の不甲斐無さなどから、指揮官は血が滲む程に唇を噛んでいた。


 それから盾の構えを解いて立ち上がったのだが、感情のままに行動した事がこの指揮官に死を齎す結果となる。


「がぁっ!?・・・・・・っ」


 指揮官は蛙が潰れた様な声を上げた後、身体を痙攣させながら一歩後ろに下がってそのまま仰向けに倒れた。


 指揮官の額には、一本の矢が突き刺さっていた。


「ふ、副将っ!?」


「副将が殺られたっ!!?」


 カロキヤ兵達は、指揮官を失って動揺を隠せず浮足立っていた。


「良い腕をしているな。反応速度も悪くない。その長弓(ロングボウ)は、飾りでは無かったみたいだな」


 そう言って魔馬人形(ゴーレムホース)に騎乗したまま、信康は隣に視線を向けた。


 信康の視線の先には土で作られた二メートル程の高さがある、高台の上で長弓を構えるマジョルコムの姿があった。


 余談だがこの土の高台はマジョルコムの為に、信康が頼んでメルティーナに作らせた物である。


「ありがとうございます。良く言われますけど、これでも弓は人並みより出来る自信はあるんですよ。流石に名手って称えられている達人には敵いませんが・・・」


「そうやって謙遜する必要は無い。実に大したものだ」


 信康に称賛されたマジョルコムは、少し照れながらも言う程凄くは無いと謙遜していた。


「ノブヤス様。戻りました」


 すると、屋内訓練場の扉が開き、ルノワ達が信康の下へ戻って来た。ルノワは直ぐに、信康に向かって一礼した。


「御苦労だったな。首尾の方は?」


「はっ。屋内訓練場は完全に制圧。人質にされた村人達も、全員奪還に成功しました。室内には見張り役と思われる数人のカロキヤ兵が居ましたが・・・」


「其処は俺等で全員ぶっ殺しておいたから、安心して良いぜ!」


 ルノワが報告の途中で、ジーンが割り込んで報告の補足をした。


 ジーンに割り込まれたルノワは一時同居人だったジーンの性格を把握している所為か、呆れこそすれ怒る事は無かった。


「分かった。お前等も戦闘の方に・・・加わった所でもう終わりそうだな」


 信康はルノワ達に戦闘に参戦する様に命令を下そうとしたが、戦況を見てその命令を撤回した。


 当初はカロキヤ公国軍三百対プヨ王国軍百強で始まっていた城内戦も、今では数が逆転してしまっていた。


 指揮官を失ったカロキヤ公国軍は統制が取れておらず、第四小隊に望むがままに蹂躙されていた。


 このままならば信康はカロキヤ公国軍を殲滅出来ると思ったが、その考えを即座に否定する者が信康の隣りに居た。


「?・・・ノブヤス様。敵の新手が参りました」


「何? 確かか?」


「はい。しっかりとこの長耳(みみ)に。足音の数からして六、七百・・・少なくとも倍以上の兵力が迫って来ていると思われます」


 ルノワの報告を聞いて、信康は咄嗟に戦場の奥の正面側に視線を向けた。


 暫く見ていると、多数の人影らしきものが信康の視界に入って来た。


「確かにその様だな。第四小隊っ! 敗残兵狩りは一先ずお預けだっ! 前から新手の団体客がやって来るぞっ!!」


『!!』


 信康の茶化した表現を耳にして第四小隊の小隊員達はクスクス笑いながら、各々の持ち場に戻って方円陣を再構築した。


「ノブヤスさん。僕も参加させて貰っても良いですか?」


「何? もう参加しているだろう?」


 土で出来た高台に居たマジョルコムが信康に参戦許可を貰おうとするのを聞いて、信康は意味が分からず首を傾げていた。


 何故ならマジョルコムは既に参戦しており、先刻も指揮官を長弓で討ち取っているからだ。


「いえ。分かり易く言うと・・・今度は前線で戦わせて下さい」


 マジョルコムは土で出来た高台から飛び降りると、長弓と矢筒を置いて逆に立て掛けていた大剣(クレイモア)を手に取った。


「ノブヤスさんから貸与して頂いた予備の魔鎧もありますし、なるべく戦いたいんです。ダナン要塞の先輩達の弔い合戦も兼ねてますから」


 そう言ったマジョルコムの両眼には、憎悪や復讐心と言った暗い輝きは宿しては居なかった。どちらかと言うと、恩返しやけじめと言った種類の感情だろうと信康は思った。


 因みにマジョルコムが言っている予備の魔鎧とは、事前に信康がサンジェルマン姉妹に幾つか追加で頼んだ品物である。


 その魔鎧の中でも、一番サイズが小さい物をマジョルコムは着用していた。


「・・・良いだろう。おいっ! 道を開けてマジョルコムを最前列(一番前)に出してやれっ!!」


 信康の命令を受けて、第四小隊は道を開けてマジョルコムを最前列にまで移動させた。


(しかし・・・こんなボロ要塞に一千も守備兵を配置するとは思わなかった。俺には理解出来ん話だがブラスタグスにとって、其処までして守りたい程の価値はあるのか?)


 信康はブラスタグスが一千もの兵力をダナン要塞に配置した理由を考えたが、どれだけ考えても納得の行く答えは出なかった。

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