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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章
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第173話

 信康達は潜伏場所の選定を終えてから、マジョルコムを連れてプヨ王国軍の本陣まで転移門(ゲート)を使って帰還した。その際にマジョルコムは転移門(ゲート)の魔法に驚いていたというのは、最早言うまでも無かった。


 それから夕食を取った後に、信康はヘルムートから大天幕を借りて第四小隊の小隊員を全員集まる様に命じた。


 更に其処にはルノワとカラネロリー、そしてマジョルコムの姿もあった。


 第四小隊の小隊員達が大天幕に集結する間に、信康はある事実に気付いた。


(マジョルコムの奴、カラリーを見てドキドキしているな。反応からして、女に慣れていないんだろうな。それと年上好きと見た。初々しい奴だ)


 マジョルコムがカラネロリーに見惚れていたので、その反応に心中ではニヤニヤしながら面白そうに見て退屈凌ぎをしていた。


そうしている間に、第四小隊の小隊員達が大天幕に集結した。


「ノブヤス小隊長。第四小隊百十五名。全員揃いました」


 第四小隊副隊長を任されたケンプファが代表して、信康に挨拶をした。ケンプファに釣られて、トッドとトモエも信康に頭を下げて挨拶をした。


「良く集まってくれたな、お前等。まさかとは思うが総大将が許してくれた一杯の酒で、酔ってたりしないよな?」


「ノブヤス小隊長。あんな安酒で酔う様な奴は、第四小隊うちには一人も居ませんぜ。それより何で俺等が呼ばれたんです? それと、そいつは?」


 トッドが代表して信康の軽口に軽口で応えた後、マジョルコムに関して尋ねた。この場では信康を除いてルノワしかマジョルコムの事を知らないのだから、聞いて当然の質問であった。


「後で説明する。その前に一つずつ説明する」


 信康は第四小隊の小隊員達に、現状とこれからの予定の説明を始めた。


「先ずプヨ軍だが明日、カロキヤ軍と決着を決する事となった」


信康がそう言った瞬間、第四小隊の小隊員達からおおっと驚きの漏れた。


「よっしゃああっ! 遂にこの日が来たぜぇっ!!」


「返り討ちにしてやんよっ!」


「大暴れして、手柄を上げまくってやるっ!」


 それから歓喜と共に、第四小隊の小隊員達から意気込みが聞こえた。


「静かになさい」


 更に騒ぎが大きくなりそうな所で、ルノワが第四小隊の小隊員達を一喝した。


 するとピタッと、第四小隊の小隊員達は静まり返る。


 ルノワの恐ろしさを、第四小隊の小隊員達は身に染みて理解していた。


 なのでルノワを怒らせる様な、そんな愚行は犯したりはしない。


「盛り上がっている所、すまんが・・・第四小隊おれたちは別の任務が下された。攻め込むのは、ダナン要塞だ」


『なっ!?』


 信康が任務を発表すると、第四小隊の小隊員達は騒然とした。信康はそのざわめきを遮って、更に説明を続ける。


「良いかっ!? 任務の内容は、大雑把に説明するとこうなる。カロキヤ軍がダナン要塞から出陣した後、俺達は砦攻略の時と同様に転移門ゲートで近くまで移動。其処から魔馬人形ゴーレムホースで上空から直接攻め込んで、要塞を奪還制圧するっ!」


 信康がダナン要塞攻略の任務に行う作戦の全容を説明を始めたら、第四小隊の小隊員達は真剣な表情で信康の話に傾聴していた。


「カロキヤ軍はプヨ軍に総攻撃する為に兵を回さないといけないから、要塞の守備に兵を置く余裕は無い。精々、五百か六百程度と予想出来る。まぁ多く配置した場合は一千は居ると見積らないといけないが・・・その程度の人数を相手に、臆する奴は居るかっ?」


 信康が挑発的な言動で第四小隊の小隊員達を鼓舞すると、信康に応えるみたいに第四小隊の小隊員達は獰猛な笑みを浮かべた。第四小隊の小隊員達の士気を見て、信康は安心して笑みを浮かべる。


「次にだ。こいつを紹介する。名はマジョルコム。マジョルコム・ソプレミングだ」


 信康がマジョルコムを紹介すると、マジョルコムが第四小隊の小隊員達の前に一歩踏み出した。


「ノ、ノブヤス小隊長の御紹介に預かりました。マジョルコム・ソプレミングですっ!」


 マジョルコムは緊張した面持ちで、第四小隊の小隊員達に自己紹介をした。


 容貌の整った美少年が挨拶をするので、第四小隊の小隊員達の一部から可愛いと黄色い声援が漏れた。それも男女共に。


「コホン・・・こいつはダナン要塞の守備隊、唯一の生き残りでな。要塞内に関して知り尽くしているから、マジョルコムの意見を参考に攻略作戦を説明する」


 信康がそう言ってマジョルコムの経歴を説明すると、第四小隊の小隊員達は真剣な表情に戻って傾聴する姿勢に戻った。


「さて、マジョルコム。早速だが、ダナン要塞内の地図を簡潔に描いてくれ」


「わ、分かりましたっ!」


 信康に言われてマジョルコムはテーブルに用意された大きな紙に、ダナン要塞の地図を描き始めた。


「ほぅ!」


 信康はマジョルコムが地図を描くのを見て、直ぐにある事に気付いた。


 マジョルコムが描く速さと地図の正確さである。まるで見本を見て描いている様な、そう表現出来る素早さであった。


「お前、意外と器用だな?」


「え? あははっ・・・そうですね。よく言われます。と言っても、僕は器用貧乏だと思ってますけど・・・」


 信康の指摘にマジョルコムは照れながらそう返答しつつも、ダナン要塞の地図を描く手を止めなかった。それから間も無く、マジョルコムによるダナン要塞の地図は完成した。


「ふむ、見事だ・・・マジョルコム。聞きたいんだが、大人数を押し込む建物はあるか?」


「ありがとうございます。えっと・・・大人数ですか?」


 何故信康がその様な質問をするのか分からず、マジョルコムは信康に聞き返した。第四小隊の小隊員達も、何故信康がそう聞いたのか理解出来ていなかった。


「ノブヤス小隊長。そんな建物を把握してどうするんです?」


「今から説明してやる。カロキヤ軍は乱取りで、多数の村人を拉致しているだろう? そんな虜囚となった村人達を、纏めて監禁出来そうな建物を特定したい」


 信康の説明を聞いて、漸く全員が信康の意図を理解した。更には、信康が抱いている懸念も理解していた。


「察してくれたと思うが、もしカロキヤ軍が村人達を人質にしたら、要塞の制圧に時間が掛かるし隙も突かれる。と言うか、村人達から死傷者を出したくない。だから要塞に攻め込んだら、真っ先に村人達を最優先で奪還したいんだよ」


 信康は村人を人質に取られた際の懸念を改めて説明してから、再びマジョルコムに顔を向けた。


「マジョルコム。推測で構わんから、そんな建物は無いか? こちらは人数が限られているから、制圧する建物を絞りたい」


「・・・・・・」


 信康の話を聞いて、マジョルコムは真剣な表情で思案を始めた。


「・・・僕でしたら、この建物に村人達を収容すると思いますっ!」


 暫くの沈黙の後に、マジョルコムは信康に伝えた。その建物はダナン城塞の中でも、中央に位置していた。


「そうか。この建物の用途は何だ?」


「はい。要塞の兵士が使う屋内訓練場です。大きいのでそれなりの人数が入りますし、何より要塞の中央に位置してますから、何か起きても四方から駆け付ける事も可能です」


 マジョルコムの説明を受けて、信康も思案を始めた。


(言っている事は尤もだし、俺もそうするだろう。この屋内訓練場とやらで、間違いないな)


 信康は頷いてから、第四小隊の小隊員達に話を始めた。


「良し。この建物に村人達が囚われていると考えて、第四小隊(おれたち)は行動する。ダナン要塞に上空から攻め込んだら、真っ先にこの建物を制圧して村人達を救出するぞ」


 信康が作戦を第四小隊の小隊員達に伝えると、第四小隊の小隊員達は首肯して承諾した。


「ただ、村人達が居ない可能性も考えて事前に手を打っておきたい。マジョルコム。他の候補地も教えてくれ」


「了解しましたっ!」


 それから信康はマジョルコムに拉致された村人達が居そうな建物を幾つか聞いてから、全員で第四小隊の小隊員達全員で作戦の打ち合わせを行った。


 そしてダナン要塞攻略作戦の最終結論が決定してから、信康は軍議を解散させて休む様に第四小隊の小隊員達に命じた。

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