第165話
砦攻略の為に、目的地の砦付近の森に潜伏する信康達第四騎士団と傭兵部隊。
その森は大きな木々が多く密集しているので、簡単には見つからない潜伏するには格好の場所であった。
其処で信康達とフェリビア達は、作戦会議を行っていた。
「何だよ。このまま攻めねぇのかよ。面倒臭ぇから、暗くなる前にちゃっちゃと終わらせちまおうぜ?」
作戦会議に参加したシェリルズは暴れられない事が不満なのか、面白くなさそうな様子で愚痴を溢していた。
その愚痴が聞こえたのか、ヘルムートは視線だけで人が殺せそうな程に睨みつけた。
「この馬鹿娘がっ!? 砦に攻め込むにしても、その手順の確認を事前にやっておく必要があるだろうがっ!!」
「わ、悪かったよ。父ちゃん」
ヘルムートに叱られ、シェリルズは頭を下げて謝った。
「ぷっ、普段は粗暴で自分本位な乱暴者の貴女も、お父様には頭が上がらないのですね」
ゲルグズが失笑すると、シェリルズは睨みつけて来た。
「何だと!? このお高くとまったポンコツ女!!」
「だ、誰がポンコツですか!? この野蛮人!!」
「お前しか居ないだろうがっ!? この似非インテリっ!?」
「言いましたわねっ!?」
「やるかぁっ!?」
シェリルズとゲルグスが、火花が散りそうな程に睨み合っていた。そんな調子の二人を見て、ヘルムートは更に青筋を浮かべてシェリルズを睨み付けた。
因みにリカルド達は初めて見るヘルムートの愛娘であるシェリルズを見て、ヒソヒソ話をして色々言っていた。
「お~い。話をしても良いか?」
ヘルムートの怒りが爆発する前に信康がそう声を掛けると、ルビィアが二人に近付き頭に拳骨を落した。
二人は痛みで頭を抱え、蹲りだした。
「済まない。こうして集められたという事は、砦の攻略の手順の確認で良いのか?」
「ああ、そうだ」
「でもよ。これから奇襲の準備をしたら、本当に夜になるぜ。夜襲となると、連携が取り辛くねぇか? 総隊長の嬢ちゃんが言ったみたいに、まだ明るい内に終わらせねぇか?」
「確かに、バーンの言う通りだな。このまま砦を攻めるなら、そうだろう」
「あん? 意味が分からねえぜ」
「シェリルズさん。話を聞きましょう」
まだ頭が痛いのか、手で抑えつつ言い寄るシェリルズを宥めるトパズ。
「ノブヤス。どういう意味だ?」
「今、話すから待て」
信康は落ちている小枝を拾って、地面で四角を描く。
「これが砦だと思ってくれ」
信康がそう言うと全員、地面に描かれた図を見た。
「先ずは俺達傭兵部隊が、砦の最も防御が硬い所を攻める」
「普通、其処は弱い所じゃないのか?」
「普通はそう思うだろう。しかし敵が一番自信を持つ箇所を敢えて攻撃する事で、敵の油断が誘える。そして傭兵部隊に注目が向くだろうからその隙を見計らって、第四騎士団が上空から総攻撃を仕掛けて貰いたい。ただ派手な攻撃をして砦が攻撃されている事がバレるのは避けたいし、砦内の戦利品もなるべく確保したいと思っている。なので攻撃する時は、破壊力は控えてくれると助かる」
「注文の多い話だが、まぁ良い。つまりは二段構えの作戦という事か」
「確かに、あの砦は元々監視所でした。其処をカロキヤ軍が改築したものです。なので、まだ万全な守りとは言い難いでしょう」
「更にそんな急造の砦だったら、防空設備が整っているとは思わねえからな」
信康が立てた作戦の全容を聞いて、全員の反応は良かった。
フェリビアとライナの二人を除けば。二人は何とも言わないのを見て、信康は訊ねた。
「二人はどう思う?」
「・・・・・・作戦自体は問題はありませんが・・・」
「この作戦を行う時間は、何時頃なの?」
「やはり夜襲ですか? それとも多勢である事を活かして、朝頃に攻撃しますか?」
「ああ、作戦決行の時間だが・・・」
信康は空を指差した。
「朝は朝でも、明朝だ」
『明朝?』
信康の言葉を聞いて、全員が首を傾げる。
「朝駆けで砦を攻撃すれば連携が取り易いだろうし、敵も気が緩んでいるだろう」
「では、朝に攻撃するという事ですね?」
「朝と言っても、日の出と共に攻撃を開始したい。だから露営で申し訳無いが全員、さっさと休んで砦の攻略に備えておいてくれ」
「分かりました。では傭兵部隊が攻撃したら、第四騎士団も間をおいて、砦を攻めます」
「よろしくお願いする」
そして何時頃攻めるかどうかを話し合い、フェリビアが自分達の部隊が居る所に戻った。