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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章
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第162話

 グレゴートから作戦実行の認可を貰った信康達傭兵部隊は、即座に行動を開始した。


 麾下の第四小隊の出陣準備をルノワ達に任せて、信康は第四騎士団の元に行く。


 第四騎士団の陣に向かう信康。           


 陣の入り口に着くと、一人の団員が歩いていたので尋ねる事にした。相手の階級が自分より上か下か分からないので、取り敢えず無難に敬語で話し掛ける。


「失礼、ちょっとよろしいか?」 


「貴方は確か・・・何用でしょうか?」


 団員が敬礼して来たので、信康も答礼してからゲルグスについて尋ねてみた。


「ゲルグス様でしたら、ご自身の天幕(テント)で休んでおられると思います」


「そうか。出来れば会って話したい事があるのですが・・・」


「分かりました。ゲルグス様に確認をしてみましょう」


 団員は信康を見て、ゲルグスに確認を取りに行くと進んで言ってくれた。そんな好意的な団員の態度に、信康は思わず面食らう。


「良いのか? 予約(アポ)も取っていない、一介の傭兵からの唐突な頼みなんだが?」

 信康はそう告げると、団員は苦笑した後に敬礼をした。


「大丈夫です。お任せを・・・お気付きでないかもしれませんが、私もゲルグス様と共に貴方に救われた一人なのです。この程度でしたら、お安い御用ですよ」


「ああっ、そうだったのか。別に気にしなくても良いんだが、助かる。頼むわ」


「はっ。暫くお待ち下さい」


 団員はそう言うと、ゲルグスがいるであろう天幕に向かって走り出した。


 信康は何する事無く、待つ。


 衛兵が持ち場を離れて、数十分ほど経った。その間にも信康に救われた団員達が何人か通り掛かったので、信康に礼を述べた。


「あら、本当に貴方でしたか」 


 そうしている間に、ゲルグスが軍服姿で団員と共に現れた。その団員はゲルグスが信康と会うのを確認すると、一礼してからその場を離れた。


「よぉ」 


「わたくしに用との事ですが、何の用です?」


「ちょっとした相談があるんだ」


「相談ですか」


 ゲルグスは不審な物を見る目で、信康を見る。


「お前に名誉挽回の機会を持って来たんだが」


「詳しく話を聞きましょうか」


「立ち話も何だから、何処かゆっくり話が出来る所は無いか?」


「でしたら、わたくしの天幕(テント)に行きましょう」


「じゃあ、其処で」


 ゲルグスと一緒に、信康はゲルグスの天幕に向かった。



 ゲルグスの天幕の前に着いた信康。


 しかし、まだ天幕の中には入って居ない。


 信康が入ろうとしたら、ゲルグスが「ち、ちょっとお待ちなさい」と行って、先に天幕に入って行った。


 これは勝手に入ったら駄目だと、流石に分かる信康。故郷の大和皇国で同じ事をした際、しこたま叱られた経験があったからだ。流石に二の轍を踏む様な、浅はかな真似はしない。


 そして大方、散らかっている室内を見られたく無くて、大急ぎで掃除しているのだろうと推測するのは簡単だった。なので、呼び出されるまで待つ。


 天幕の前には沢山の団員達が通るので、最初にあった団員の時と同様、頻繁に声を掛けられては救出された時の礼を述べられていた。


 そうして団員達の相手をしている時に、漸くゲルグスから声を掛けられた。


「お、お待たせしました」


 天幕の幕を開けて、中に入る用に招くゲルグス。 


 信康は天幕の中に入った。 


 天幕の中に入ると、意外に綺麗に整っていた。それを見て掃除を頑張ったんだなと思う信康。尤も、決して声には出す様な愚かな真似はしない。


「お、お好きな所に座りなさって」 


 信康はゲルグスの言われた通りに、適当な所に座る。


 ゲルグスは信康と対面になる様に座る。


「それで、相談と言うの何ですの?」


「俺も急いでいるから、雑談抜きで単刀直入に本題に入らせてもらう」


 信康はジッと見る。


 その視線の強さに頬を赤らめるゲルグス。


「ん? どうかしたか?」


「な、何でもありませんわっ」


「そうか。じゃあ、話すぞ。これから俺達傭兵部隊は、ダナン要塞の南側にある砦を攻略する」


「何・・・ですって!?」 


 驚くゲルグス。


 カロキヤ公国軍の本陣近くにある砦を、攻略すると言うのだ。しかも大部隊を動員してではなく、少数の傭兵部隊だけで攻略しようとしている。これを聞けば、誰でも驚くだろう。 


「これは総大将から、きちんと認可された作戦だ。それにこのまま長期化すると、こっちはジリ貧になって戦争が泥沼化する。このまま敵を兵糧攻めにしてやれば、そのうち勝てるかもしれないが・・・その作戦だと犠牲も大きい。それはお前も、重々承知だろう?」


「確かに、そうですわね」


「と言う訳で現状をこちらに好転させて、下がってしまった士気を回復させる為にも・・・傭兵部隊(おれたち)は砦を攻撃する」 


「手始めに、砦を先に片付けるのですね?」


「そうだ。砦を攻略したら、敵の動揺を誘える。その間に伏兵部隊も片付けたら、安全に野晒しにされている味方の遺体の回収も可能になる」


 信康の主張に部分的に同意しつつ、頭の隅では傭兵部隊だけでは重荷ではと思うゲルグス。


「其処でゲルグス、お前にしか頼めない相談がある」


「わたくし、だけに?」


傭兵部隊(おれたち)の砦攻略が上手く行く様に、俺の小隊と一緒に上空から敵を攻撃する別動隊をして欲しい」


「何故、わたくしが貴方と別動隊などを・・・成程。上空から砦を攻撃して注目を集めている内に、地上から傭兵部隊(貴方がた)が攻撃して砦を制圧・・・といった具合かしら?」


「逆に傭兵部隊を囮役の助攻をさせて、俺とお前が主攻になる可能性もあるが・・・概ねその通りだ。流石は第四騎士団で、十二天騎の一席に選ばれているだけの事はある。頭の回転が早いな」


 信康がそう言ってゲルグスを称賛すると、ゲルグスは照れた様子で両頬を紅潮させた。


「べ、別に大した事ではありませんわっ。戦術を少しでも齧った者ならば、誰にでも考えられる事ですっ」


 ゲルグスはそう言って、照れた様に顔を反らした。信康はゲルグスの反応を見て少し茶化したい気持ちが沸き上がったが、時間が無いので止めておく事にした。


「別に謙遜する必要は無いと思うが、まぁ良い。囮役になる可能性もあるが、上空の方が砦の守将を探し易いだろう。そいつの首級(くび)は、お前が取ったら良い。これは譲ると言う意味ではなく、飽くまで提案だ。言う訳訳で、手を貸してくれないか?」


「ふむ・・・良いですわ。その話に乗りましょう。ただし参戦するのは、わたくしの部隊だけです。それで構いませんわね?」


「十分だよ。助かる。お前とお前の部隊が来てくれれば、百人・・・いや千人力だ」


 信康は嬉しそうに微笑む。


 その笑顔を見て、顔を赤らめるゲルグス。


「ゲルグス? どうかしたのか?」


「な、何でもありませんわっ」


 プイッと顔を背けるゲルグス。


「そうか。じゃあ、後は任せたぞ」


「お任せなさい」


 ゲルグスが胸を叩いたのを見て、信康は安心して天幕を出る。


「・・・うん?」


 天幕を出た信康は何者かの気配を感じた。しかし周囲を見ても誰も、信康を見ている者は居なかった。そう考えた瞬間、信康は反射的に愛刀の鬼鎧の魔剣オーガアーマーズ・ソードを抜刀して天幕の方に切っ先を向けた。


「其処に居るのは誰だ⁉ 出て来い」


 信康がそう言うと、その場はシンと静寂が訪れた。しかし十も数えない内に、天幕の影からヌルっと人影が現れた。


「あら残念。バレてしまったわね」


 天幕の影からは信康が言う様に、イゾルデがその姿を現したのだった。


「お前は確か・・・イゾルデ・フォン・シトラジストだったけ?」


「ええ、そうよ。一度しか名乗ってないけど、よく覚えていたわね」


「美人の名前は憶えておいて、損はないんでな」


 信康は笑いながら鬼鎧の魔剣オーガアーマーズ・ソードを収め、イゾルデを見た。

「それで、何か用か?」


「ふふふ。同僚が逢引きをしているみたいだから、どんな事をするのか気になって」


「嘘を吐け」


 信康はそう言いつつも、考えていた。


(多分、話を訊かれたか? ・・・・・・どうしたものか?)


 信康としては密かに手を貸して貰おうと思って話を持ち掛けたので、聞かれるという事を考えていなかった。


(適当な事を言って誤魔化すか? いや、聞かれた以上はどんな誤魔化しも無駄だな・・・説得して、イゾルデ(こいつ)にも協力して貰うか?)


 信康はそう考えていると、イゾルデは懐に手を入れると小さく輝いている石を取り出した。


 その石を何だろうと、思いながら石を見詰めていると。


『話はこちらでも伺いました。ノブヤス。貴方の提案は少々、越権行為だと判断します』


 石から聞こえた声を聞いて信康は思わず目を剥いた。


「なっ!? フェリビア・・・団長っ!?」


「ふふふ。この魔石は多少の壁や障害物越しでも、聞こえる人の話を聞く事は出来る優れ物なのよ。その代わりに聞き取れる距離には制限があるから、伝令兵替わりにはならないのだけれどね」


「・・・・・・参った」


 信康は降参とばかりに両手を挙げた。


 もう好きにしろという事を示していた。


『御安心なさい。私は別段、貴方を処罰しようという心算はありません。ただ、その話を興味深いと思っています。詳しく聞かせて頂きたいと思いますので・・・イゾルデ、ノブヤスを私の天幕(テント)まで案内を』


「承知しました。団長」


 イゾルデの答えを訊くと、魔石の輝きは消えた。そしてイゾルデは信康に向き合うと、何かを信康に向かって下から上に投げた。信康は右手で落ちて来た何かを受け取ると、それは一本の矢だった。


「それ、貴方に返しておくわ。団長の所まで案内するから、付いて来なさい・・・分かっていると思うけど、貴方に拒否権なんて無いわよ?」


「・・・そんな事は、お前に言われんでも分かっている。今更逃げようとは思わん。大人しく付いて行くさ。案内の方は頼んだ」


 イゾルデが手で付いて来る様にポーズを取ると、信康は矢を片手にそのままイゾルデに付いて行った。

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