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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章
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第160話

 信康達傭兵部隊は先にダナン要塞へ救援に向かった、各騎士団を追い掛ける様に進む。


 長蛇陣で進む信康達の隊列は先陣が傭兵部隊、中陣を砲兵師団、後陣に神官戦士団という隊列だ。


 その傭兵部隊の丁度中間に位置するのが、信康率いる第四小隊だ。


 戦闘が何時始まるか分からない状況で、今の自分の小隊が居る所は武功が立て易い様で実は難しい微妙な位置に居た。


 しかし、信康は不満は無かった。


 この様な場所で遭遇する敵部隊など、精々が威力偵察に来た小隊だ。その数も百騎もあれば良い方である。


 そんな小物を倒しても、手柄としてはたかが知れていると思う信康。第一カロキヤ公国軍には自慢の飛行兵部隊が存在するのだから、攻撃が届かない位置から上空で偵察するに決まっている。


 どうせ何も起きないのならば、何処に配置されようと一緒である。信康はそう思っているので、特に不満は一切抱いていなかった。油断しているとも取れるが、信康の中ではカロキヤ公国軍は自分達を攻撃してこないと言う確信があった。


 信康はそう思いながら斬影を進ませていると、馬に乗った誰かが信康に横づける様に寄ってきた。


「ノブヤス中尉。此処だと武功が立て易い様で難しい、微妙な配置ですね」


 そう言うのは、パンツルックの軍服を着た女性だった。


 陽光にあたり輝く金髪。垂れた目元。青い瞳。


 綺麗な顔立ちにぷっくりとした唇。


 女性の象徴といえる物はボンっと存在感を主張して、腰は折れそうなくらいに細い。尻も胸と同じ位の存在感だった。


「まぁ、そうですな」


 信康もその通りなので同意した。信康は隣に横づけてきた女性を見る。


 この美女の名前はカラネロリー・フォン・フロレックスゴルドという女性だ。


 ロペール直属の部下の一人で、階級は中佐である。ロペールが特に目を掛けている部下の一人だと、信康はヘルムートから聞いている。そんな逸材が何故信康の第四小隊に居るのかというと、此度の戦いで配属された監察官だそうだ。


 隠す様子も無く露骨に監視しようするプヨ王国軍上層部に対して、傭兵部隊の諸将は嫌な顔はしなかった。軍内部の治安維持はともかく、戦功の裏付けをしてくれるので戦功を上げれば承認になってくれる大事な存在だからだ。


 信康自身も監察官の存在はありがたく思っており、自身の監視役である以上に戦功の証人となる人物で且つ上官ともなれば、流石に対応も丁寧になるというものだ。


 しかし暇なのは事実であり、退屈凌ぎも兼ねて少し雑談に興じる信康。


「ところで、カラネロリー中佐殿?」


「クスクス。長いので、カラリーと呼んで良いですよ」


「じゃあ、カラリー中佐殿。今回の戦いはどう見ます?」


 信康はこのカラネロリーと言う高級将校の知識と見識がどれくらいあるか、折角だから知ろうと思い聞いてみた。


 すると、カラネロリーは少しも逡巡もせずに答えた。


「このまま進めば、敵はダナン要塞を攻城したまま、我が軍の迎撃に向かいます。なので出来るだけ早く要塞の救援に向かうよりも、プヨ王国軍わたしたちに有利な状況に追い込む方が良いと思います」


「ほぅ」


 カラネロリーの言う通りこのままダナン要塞の救援に向かっても、ダナン要塞がまだもっているか分からない。


 であればダナン要塞の救援は諦めて、戦いに備え味方に有利な場所を確保する方が良い。


 それが分かっている時点で、及第点だと思う信康。


「であれば、貴女はどう対抗する?」


「要塞の近くに布陣して、敵が向かって来るのを待つですね。そうすれば、敵が取れる策は二つです」


「二つか」


「はい。撤退か野戦かのどちらかです」


「成程な。確かにそうだな」


 信康もそうした方がと内心考えていた。


 攻城で敵を疲れた所を狙い戦うという考えもあるが、タイミングを間違えると敵に対策を練られるかもしれない。それに落城した事で味方の士気が落ちる可能性があると思い、信康は頭の中でこの考えを消した。


「もし、敵が蟻傅(ぎふ)戦術で要塞を攻撃していたらどうされる?」


 信康はカラネロリーに訊ねた。


 しかし、訊ねたカラネロリーは首を傾げた。


「すいません。そのぎふせんじゅつ?・・・と言うのは、どんな戦術ですか?」


「こっちではそう言わないのか?・・・そうだな。簡単に言えば無理攻めの事ですよ」


「無理攻め。・・・・・・ああ、成程。攻城戦で蟻の如く張り付いて戦うから、その様な名称が付いているのですね。勉強になります」


「その通り」


 蟻傅戦術とは先程、カラネロリーが言った通りに数に任せた攻城戦術だ。


 この蟻傅戦術は、攻城戦術の中では一番拙劣で最低と言われている。


 数に任せて無理に攻めると言う事は、敵も味方の双方に多大な損害をもたらすだけではなく、城のかなりの損害を受ける。


 言うなれば、防具もなしで力任せに殴り合いをするようなものだ。


 なので攻城戦でこの戦術を取るのは、余程状況が切羽詰まっているか兵を失っても問題ない程の余裕がある時だけだ。


 今回の場合は前者に当たる。


「その蟻傅戦術でダナン要塞が落ちたとしても、要塞と敵兵は共に損耗する筈です。ですので、その場合は敵はダナン要塞に本陣をとして、外に軍を置いて我らを待ち構えるでしょう。その場合、睨み合いになりますわね」


「確かにな。因みにカラリー中佐殿の予測ではどう思う?」


「我らが戦場に着いた時は、要塞が保っている可能性は少ないでしょう。なので、先程の私が言った通りの状況になると思います」


「そうか」


 信康はここまで話をして、このカラネロリーは有能だと理解した。


 そしてそのカラネロリーがそういう所を考えても、プヨ王国軍が要塞の近くに着いた時には落城されている可能性は高いのだろうと思う信康。


(だとしたら、これから向かうダナン要塞はもう落ちたと諦めた方が良いだろうな。両軍の位置を推測するに、どう考えてもカロキヤ軍の方が早く到着する。)


 ダナン要塞陥落を前提に、対カロキヤ公国軍戦略を練った方が良いなと思う信康。


 その為にはもこれから向かうダナン要塞周辺の地形を、知らなければならないなと考えている信康。カラネロリーはこう言う。


「本軍と合流したら、ダナン要塞の近辺の地図を手配しますね」


 カラネロリーは信康の考えを、読んだかの如く信康に話す。


 信康は驚いたが、直ぐに笑顔を浮かべた。


「頼む」


「はい。分かりました」


 そう言って、カラネロリーは信康から離れた。


 信康は地図を見る前に、自分の中で色々と策を考えた。




 プヨ歴V二十六年八月二十六日。


 四日掛けてダナン要塞の近辺にプヨ王国軍が到達した時には、カラネロリーの予想通り既にダナン要塞は陥落していた。守将以下三個大隊三千に及ぶ、全て将兵は皆殺しにされた。


 更には兵士の躯の首を斬り落として胴体だけとなった状態で杭で串刺しにして、プヨ王国軍が布陣した場所から良く見える所に放置した。


 それを見せられたプヨ王国軍の士気は、大いに下がった。


 グレゴートはその放置された死体を奪還しようと、第一騎士団から奪還部隊を編成してその場所に突撃させた。しかし死体の周辺には大量の罠が仕掛けられており、更に待っていたかの様にカロキヤ公国軍の伏兵部隊が現れ、攻撃をして来た。


 その猛攻により、奪還部隊は全滅して第一騎士団は一個大隊一千を失った。そして戦死または捕虜になった第一騎士団の団員達は、ダナン要塞の将兵達と同じ末路を辿った。

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