第156話
「フェリビア様。皆様をお連れ致しました」
そう言って扉を開けて入って来たのは、一人の美女だった。頭にメイドが被る、白いヘッドドレスを被っていた。
更にその美女は、ドレスと鎧が一体となった服装を着用していた。
俗に言う、ドレスアーマーという物だろう。
信康はマジマジとその美女を見る。
額を完全に出し、薄緑色の前髪の一部を伸ばして前に垂らして後ろは短く結ぶ髪型。
緑色のドングリ眼。
整った顔立ち。
という感じの美女だった。
「ご苦労様。ケイ」
フェリビアは微笑みながら、ケイを労う。
(あれが『騎宰』っていう異名を持った天馬十二騎の一人で、第三席のケイ・フォン・エクラルトか)
信康そのケイが連れて来たという人物達を見た。
「やぁ、フェリ。何時もお招き頂き感謝するよ」
そう言うのも、女性だった。
第四騎士団の軍装に、身を包んでいた。
高身長で中性的な顔立ち。肩幅が広くスレンダーな体型だが、女性の象徴と言える物がちゃんとあった。貧乳と巨乳の間くらいの大きさだが、どちらかと言えば巨乳よりだ。
菫色の髪をセミショートにしていた。
顔だけパッと見では、男性に間違われても可笑しくなかった。
「おや? そちらに座っている人は、この前、襲撃された村であった傭兵じゃないか」
その女性はこの前の襲撃であった信康の事を覚えていたようだ。
信康の肌と髪色がこの地域では珍しいから、覚えていたのかもしれないが一度しか会ってないのによく覚えたと思う信康。
「おっと、失礼。私は第四騎士団団長直轄部隊天馬十二騎の一人で『湖光』のサフィルロット・フォン・バンベヴィックというんだ」
「ご丁寧な挨拶、痛み入る。傭兵部隊の副隊長の一人で、第四小隊小隊長の信康と申します」
サフィルロットは一礼したので、信康も席を立って答礼し頭を下げた。
「へぇ、様になっている答礼だね。こう言っては何だけど、とても傭兵とは思えないよ・・・所で、どうして君が此処に居るんだい?」
「部外者の自分が此処に居る理由ですが、そちらの団長からお誘い頂いたのですよ」
「へぇ、珍しいね。どういう風の吹き回しだい? フェリ」
サフィルロットは意外そうな顔をしていた。
「別に不思議ではありません。ゲルグス達を助けてくれたので、そのお礼ですよ。貴女も聞いているでしょう?」
「ああ、成程ね。ノブヤスだったかな? その件に関しては、私からも礼を言わせて貰うよ」
そう言って、サフィルロットはゲルグスの下に行き手を取った。
「ゲルグス。何処も怪我は無いかい?」
「い、いえ、ありませんわ」
「君の玉の様な肌が傷付くのは、私は耐え切れ無いからね。大丈夫かい?」
「は、はい」
ゲルグスはサフィルロットの押しの強さに、タジタジになっていた。
サフィルロットの行動を見て、フラムヴェル達の話を思い出す。
『そいつってあれだろう。天馬十二騎の中でも、有名な女たらしだろう?』
『それって、もしかして、女性なのに女性をたらしこむ事で有名な『百合の君』?』
フラムヴェル達の話を思い出した信康は、件の人物がこいつかと内心で思った。
「サフィル。いい加減になさい」
そう言って、サフィルロットの頭を叩いたのも美女だった。
オシャレなのか、眼鏡を掛けた美女だった。
騎士団の軍服に身を包み、頭にはベレー帽をかぶっていた。
青色の短髪をカチューシャ編みにしていた。眼鏡を掛けている。
切れ長で整った顔立ち。
身長はサフィルロットと比較したら、あまり高くない様に見えた。それでも平均女性と比較したら、僅かに高い方と言えた。
「痛いじゃないか。マリン」
サフィルロットは自分の頭を撫でながらも、あまり痛くなさそうな顔をする。
マリンと呼ばれた美女は、腰に手を当てて見上げる。
「貴女ね。うちの団員だけでは飽き足らず、女性を見るなり口説くのは止めなさいよっ。貴女が口説いた令嬢の親御や親族。婚約者から苦情が来ているのよ!」
「う~ん。どうも、綺麗な女性を見ると、身体と本能が勝手に動いてしまうんだよね~」
苦笑いしながら言うサフィルロット。信康はサフィルロットの言い分を聞いて、同意出来るが些か見境無しが過ぎないかと思った。
そんな態度を見て、マリンと呼ばれた美女は増々熱り立つ。
「あ、貴女ね~」
「その辺にしておきましょう。マリン」
そう言うのはアルテミスだ。
「アルテミス。こいつにはちゃんと言わないとっ」
「言っても、本人が改めないのでは無駄ですし、お客様の前ですよ」
「む、むぅぅぅぅ」
マリンと呼ばれた美女は何か言いたそうだったが、アルテミスにそう言われて唸りながら自分の席に座った。
そんなマリンと呼ばれた美女を見て、サフィルロットは肩を竦めながら、自分の席に座った。
「あの席って序列から見ると九席目だよな? となるとあの青髪の女は、『博識』のアクアマリン・フォン・パロミデスか?」
「その通りですわ。良く分かりましたわね?」
「マリンって名前が付く女は十二天騎には一人しか居ないし、お前が食堂で教えてくれた事を覚えていただけだよ・・・しかし第四騎士団の軍師を務める智将型タイプと言う割には、感情表現が豊かに見えるな」
信康はアクアマリンの態度を見て、素直にそう思った。
先程の態度を見ると、ゲルグスから聞いていた性格と違うのではと思った信康。
「本当は冷静で穏やかな性格なのですが・・・サフィルロット卿がおりますと、怒りぽっくなりますの」
「相性が悪いと言う奴か?」
「そんな感じですわ」
そう話していると、アルテミスが話に割り込んできた。
「御見苦しい所を見せて、申し訳ございません」
「いや、気にしなくて良いから」
「そうですか。それと改めて、ゲルグスを助けてくれてありがとうございます」
「別に感謝されたくてした訳でも無い。それに言うのなら」
信康はゲルグスを見た。
「ああ、確かにそうですね」
「・・・・・・そう言われたら、そうですわね」
「いや、別に良いぜ。フェリビア団長が、こうして食事に誘ってくれたのだから」
「そう言われると、わたくしが無礼者の様に聞こえるのですが?」
「気の所為気の所為」
信康は手を横に振る。
「そうですか」
「ふっふふ、相変わらずちょろいわね」
そう言って話に入って来たのは、イゾルデだった。
「何時の間に!?」
「むむっ。全然、気配を感じなかった・・・今回は俺の負けだな」
「もう、イゾルデ。気配を絶って人を脅かすのは止めなさいといつも言っているでしょう」
「ふっふふ、ごめんなさいね」
アルテミスが窘めるが、イゾルデは微笑んで誤魔化す。
「所で・・・ゲルグスを助ける際、敵兵を三千人程倒したとか聞いたけど、本当?」
「討ち取った敵などいちいち数えてないから、覚えてない」
「そうなの。それでも被害無しで三倍以上の敵を葬るなんて、誇っても良い位凄い事よ」
信康がそう言った理由は、剥ぎ取った軍装の数からそう計算しただけだ。その顔を見て察したのか、イゾルデもそれ以上訊かなかった。
「この場に居るのは、団長に呼ばれたの?」
「ああ、そうなります」
「それは凄いわね」
「そうなので?」
「ええ。この食事は戦いの前に豪華な料理を食べて、士気を上げる儀式みたいなものだから、普段は騎士団以外の人は呼ばないのよ。私が知る限り、騎士団外部の人間を招くなんて初めてじゃないかしら?」
「おいおい、本当マジかよ」
信康は目を見開いた。
そんな席に呼ばれて、信康は驚きを隠せなかった。
「場違いだと思って居たけど、本当に場違いだったな」
「大丈夫よ。団長も何かしらお考えがあって呼んだのでしょうから」
「考え?」
「流石に其処までは、私も分からないけどね」
その考えは分かるかと訊こうとしたら、イゾルデは先に答えた。そして、手を振って自分の席に座る。
「全くっ! ああやって、何かをはぐらかす言動は止めなさいと常々言っているのですが」
「いや、ああいう性格なんだろう。だから別に気にしなくても、良いんじゃないか?」
「そうですか。そう言われるのでしたら」
「ああ、気にしなくて良いから。それよりもだ」
信康は後ろを振り返る。
「其処に居るお方。名前は知らないが、何かか御用で?」
信康が後ろに振り返ると、其処には桃色の髪をセミショートにした、左目を隠した髪型が特徴の美女が居た。
右目は黄褐色の瞳をしていた。
着ているのは第四騎士団の軍装なのだが、他の者とは違いノースリーブだった。
身長は平均ぐらいだ。
身体の方は色々と育っていた。
胸は巨乳と言えるぐらい豊満で腰は細く、尻は存在を主張していた。
「何か御用で?」
「はい。私は天馬十二騎の一人で、第十席のトパズ・ディナダンと言います。過分ですが、『剛弓』の異名を頂いております」
「これはご丁寧に。自分は傭兵部隊副隊長の一人で、第四小隊小隊長の信康と申します。ゲルグス殿から、御身の御活躍は伺っております」
「活躍?・・・いえ。竜ドラゴンと言っても弱い方でしたし、唯の偶然ですから」
「ご謙遜を。それでも竜ドラゴンを仕留めた事実には、変わりは無いと思いますよ」
「ありがとうございます・・・それにしても傭兵ですか。この国、いえ地方では見慣れない髪と肌をしていますね」
「東洋から来ましたからね」
「東洋からですか。随分と遠いのですよね?」
「そうですな。この国からだと、かなり距離があるかと」
「あの、聞いても良いですか?」
「自分に答えられる事でしたら、何なりと」
「マフェーロ・ポロベルトが著した東洋旅行記では東洋に浮かぶ島国には、建物は全て黄金で出来ているというのは本当ですか?」
「・・・それは流石に嘘ですよ。金山は幾つもありますけどね」
「そうなんですか。ありがとうございます」
トパズは一礼して自分の席に座る。
「あれが件の『竜殺し』なのか?」
「ええ。普段はあまり喋らないのですが、珍しいですね」
「そうね。無口と言う訳では無いけど、あまり人と話さない娘なのよね」
アルミテミスは困ったものだという顔をする。
じゃあ何で俺に話し掛けて来たのだろうと不思議に思って居ると、再び扉が開いた。
「うっし、間に合ったな」
そう言って入って来た人物に、信康は驚いた。
今まで天馬十二騎はピシッと服装を着こなしていたが、この人物は制服を袖を通さないで羽織り、臍を出したチューブトップを着て、下は動き易いホットパンツを穿いていた。
胸が膨らんでいる所を見ると、女性の様だ。
全体的に引き締まった体型をしていた。その分、胸と尻も少々貧しかった。
くすんだ金髪を後ろで束ね、緑色の瞳をしていた。
整っている顔立ちは悪くないのだが、目が抜身の刃のようにギラついている。
なので、魅力が半減している。
「シェリルズ・ヘルムートっ! 何時も言っているでしょうっ!? その様な不真面目な格好は止めなさいとっ、貴女と言う人は何故改めようとしないのですかっ!?」
ゲルグスは席を立ち、シェリルズを指差しながら怒鳴る。
「うっせぇな。俺がどんな格好をしようが、別に良いだろう? お前に迷惑かけている訳じゃあねえんだからよっ」
「わたくし達の騎士団にはかなり迷惑が掛かっているんですわっ」
「そうなのか? まぁ、同じ釜の飯を食う仲なんだから、気にするなよ」
シェリルズは八重歯を見せながら笑う。
「それでも限度と言う物がありますわっ!」
「細かい事を気にするなよ。禿げるぜ?」
「禿げませんわよっ!?」
「ったく、口やかましい奴だな。・・・・・・あん? 誰だ。こいつ?」
視界に入った信康を、不審な物を見る目で見ているシェリルズ。
「初めまして。傭兵部隊に所属している信康と言います。お父上には世話になっております。シェリルズ嬢」
「ああ、じゃあ、お前は親父の部下なのか?」
「はい」
「ふぅん、そうなのか」
シェリルズは信康をジロジロと見る。
「・・・・・・所で、何でお前が此処に居るんだ?」
今更聞くかと思いつつ、信康は苦笑した。
「フェリビア団長に招待されて来たのよ」
「へぇ。団長が余所者を招待するなんて、珍しいな」
そう言って、シェリルズは自分の席に座る。
席は信康の左斜めの席。ゲルグスの正面だった。
ゲルグスは睨んでおり、シェリルズはゲルグスの視線など意に介さず座っている。
「この二人、相性が悪いんだな」
「そうなのです」
アルテミスは溜め息を吐いた。
「ああ、客人の前で失礼しました」
「いや。気にしなくて良いから」
「そうですか。全員揃ったみたいなので、私も席に行きますね」
「ああ」
「では、これで」
アルテミスは自分の席の所に行った。