第155話
ルビィア達に着いていく信康。部屋を出て、かなり歩いた。
此処まで進むと流石に、一体何処へ案内する気なのかと気になる信康。
そう思っていると、ある扉の前に着いた。
「此処は?」
「入れば分かる。そのまま付いて来い」
ルビィアがそう言うと、扉に手を掛けた。
キィィっと音を立てて、扉は開いた。
扉を開けた先は、何処かの食堂の様だ。規模は佐官級以上の士官専用食堂の方が遥かに上だが、豪華さでは圧倒的にこの食堂の方が上だった。
天井から吊り下げられたシャンデリア。
明かりは魔石を使っている所為か、微かに青白い。
最大で二十人は座る事が出来る長テーブル。
その長テーブルには、真っ白なクロスが掛けられている。クロスの上には、燭台も置かれていた。どちらも高級品である事が、一目瞭然で分かる代物だ。
更に長テーブルには、十人分の銀色のカトラリーがあった。
「来ましたか」
長テーブルの一番奥上座にあたる、席に座っている女性が声を出す。
誰だ? と思い信康はその女性の顔見る。
「むっ・・・・・・」
信康は女性の顔を見て、言葉を失う。
緑色の瞳。
編み込みの金髪。
女神の化身の如き美貌。
その美貌の前には、如何なる詩人でも一言こう言うだろう。ただ「美しい」と。
これまで数えるのも馬鹿らしい程に大勢の多種多様な美女や美少女と出会って来たが、間違い無く五本の指に入る美貌の持ち主だった。
思わず見惚れていた信康を他所に、平然と歩き出すルビィア。
「団長。ノブヤスをお連れ致しました」
「ご苦労様です。ルビィア。貴女も席に座りなさい」
「はっ」
そう言って、ルビィアは席に座る。席順は決まっているのか、上座に座っている者から少し離れた所に座る。
(な・・・にっ!?・・・・今の声って確か・・・)
「まさか・・・いや、やっぱり・・・」
ルビィアが団長と口にして言った事に、更に驚く信康。
第四騎士団において、団長と言える身分の者は一人しかいないからだ。
そして上座に座っている女性の正体に気付いた信康は、慌てて気を付けをして姿勢を正した。
「こっ、こほん・・・失礼を承知でお訊ねしますが、フェリビア団長ですか?」
「はい。そうです」
すんなりと自分の身分を明かすフェリビア。
信康は目を見開いた。
「何を驚いていますの? 貴方とて、団長に一度お会いしているでしょう?」
ゲルグスが何を言っているのかと、そう言わんばかりにキョトンとした表情を浮かべて信康にそう言った。
「確かに会っているが、それでも兜越しで素顔なぞ見れなかったわっ!?・・・と、失礼。お綺麗だとは噂で聞いていたが、想像を遥かに超えていたので驚きました」
「あら、随分とお上手なのですね」
フェルビアはそう言って、クスッと笑った。その仕草にすら、信康はドキッとした。
「・・・所で、自分は何用で呼ばれたのでしょうか?」
何故フェリビアに呼ばれたのか分からない信康は、率直に理由を訊ねた。
「別に大した理由はありません。ゲルグス達を救ってくれたお礼も兼ねて、一緒にお食事でも如何かと思いお呼びした次第です」
「はぁ?」
「だ、団長っ! そんな事でこの者を呼んだのですかっ!?」
ゲルグスはフェリビアの返答内容を聞いて、動揺した様子で大きな声を上げる。
その声を聞く所だとゲルグスには、何故信康を呼ぶのか知らされていなかった様だ。信康は呼ばれた理由をゲルグスもルビィアと同様に、最初から知っていて敢えて知らない振りをしていたのかと信康は当初思っていた。
それが本当に知らなかったと知って、信康は逆に驚いていた。一方でそんな事を言うゲルグスに、フェリビアは目を向ける。
「ゲルグス。命を助けられたのであれば、お礼をするのは人のとして当然の事です。それをしないのは騎士として、人としても問題ですよ。貴女はきちんと、ノブヤスに感謝を伝えたのですか?」
聞き分けのない子供を言い聞かせる様に、優しく言い含めるフェリビア。
そう言われて、ゲルグスは俯く。
「という訳ですので、どうでしょうか?」
そう訊かれた信康。
此処まで来たのだから、もはや答えは自明の理だ。
「・・・・・・では、ご相伴に与らせて頂きます。一応言っておくと、自分は食事作法が苦手なので、期待はしないで頂きたい」
「なぁ!? あ、貴方っ! 団長がこうして誘ったのですから、少しは食事作法を学んでおくべきでしょうにっ!?」
「お前は何を言っているんだ? 無茶を言うなよ。ゲルグスが言う無学で無教養で粗野な粗忽者の傭兵と言う奴は、自分の命を掛け金にして戦場で命張って金を稼いでいるんだぞ? そんな食事作法なんて優雅な作法など、覚える暇とかあると思うか?」
「むぐっ・・・あ、貴方は只の傭兵では無いのですから、こういう畏まった場に呼ばれるかもしれないと考えて学びなさいなっ!?」
「だから無茶を言うなって。俺は其処まで自惚れ屋では無いぞ」
信康は無茶な要求ばかりするゲルグスに対して、呆れながら肩を竦めて溜息を吐いた。
「だああああ、もうっ!? 先程からああ言えばこう言うんですからっ! 全く、これだから傭兵はっ!!」
ゲルグスは信康との口論に勝てず、悔しそうに地団太を踏む。
「ふっふふ、別に構いませんよ。御礼を兼ねているですから」
「団長!! その様な優しい言葉を掛けたら、余計に図に乗りますわよっ!?」
「うむ。同感です。ゲルグスにははっきりと仰った方がよろしいかと」
「誰がわたくしの事ですかっ! あ・な・たの事ですわよっ!?」
「あれっ? そうだったかなぁ? 全然気が付かなかったわ」
「ああ~、もうっ」
信康に揶揄われてゲルグスは叫ぶが、信康は楽しそうにクスクスと笑っていた。
そんなゲルグスを見て、フェリビアは声を掛ける。
「そう叫んでないで、貴女も座りなさい。ゲルグス」
「~~~っ・・・御意。分かりましたわ」
自分の上官であるフェリビアにそう言われて、ゲルグスは不満を抑え込んで椅子に座る。
席は下座に一番近い席だ。
「ノブヤス。貴方もお座りになったら、如何です?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
信康は下座に座る。その席の右斜めにはゲルグスが居た。
こうして席を見るとまだ座れる様だが、カトラリーが置かれている所を見ると、まだ誰かしら来る様だ。
「他の天馬十二騎の者達の席ですわ」
信康が空いている席を見ているのに気付いたゲルグスが、そっと教えた。
「ああ、だから、こういう席順なのか」
信康は理解した。
ゲルグスは席次は第十二席。ルビィアの席次は第五席。
なので、ルビィアはフェリビアから少し離れた所に座り、ゲルグスは信康の近くに座るのだろうと分かった。
「じゃあ、他の空いている席には」
「ええ。今回の戦争に参加している、天馬十二騎の席ですわ」
「ふむ・・・・・今回の参加者八名居る、と解釈しても良いのか? 第四騎士団はシンラギとの国境警備にも、人数を割かないといけないだろうからな」
空いている席は、全部で六席あった。
信康が言う様に十二天騎、勢揃い出来ていないのだろうとそう思った。
「その通りですわ。現在、我が騎士団の駐屯地に残っている天馬十二騎は四人。今回の戦では団長が連れて来た天馬十二騎は、わたくしも含めて八人ですもの」
「そうか。するとアルテミス、イゾルデ、ゲルグス、ルビィアの四人だから、後の四人は誰だ?」
「それは」
ゲルグスが言葉を続けようとしたら、扉が開いた。