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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章
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第150話

 挨拶も程々に信康は城郭都市フェネルから、オストルとアルテミスとゲルグスと共に出陣した。三部隊で構成され、その総数は一千百十五騎になる。


 信康が担当する部隊の内訳は、第一陣が第四騎士団の二個中隊五百騎。アルテミスとゲルグスの二人が、一個中隊二百五十騎ずつ率いている。第二陣はオストル率いる、第五騎士団二個中隊五百騎。第三陣を信康率いる、傭兵部隊第四小隊百十五騎だ。


 総大将は第五騎士団のオストルであり、第四騎士団のアルテミスとゲルグスが副将として補佐する。出発の際、信康が第四騎士団と傭兵部隊第四小隊で空から先行して村に到着する事を提案したが、ゲルグスがあっさり却下した。


 そして出発の際、ゲルグスが信康を見るなり指差して「ふっ。わたくしの活躍をその目で焼きつけておきなさい!」と言って来た。


 この場合だと、励ますべきかそれとも人に指差すのは失礼だと言うべきか、自分が手柄を上げる事はで無く全体を見て最善を考えろと注意するべきか悩む信康。


 そう悩んでいると、さっさと先に進むゲルグス。


 一緒に行軍するアルテミスは、信康に顔を向けて済まなそうに頭を下げた。


 そんなゲルグスを見てオストルは「君って意外にモテるね~」とか言ったので、信康はオストルの頭に手刀を叩き込んだ。


 それほど力を入れなかったので、オストルは痛がる様子は無かった。尤も前々日にプラダマンテの一撃と比較すれば、信康の手刀など微風程にも感じないだろうが。


 第四騎士団が飛行する事で直ぐにある程度離れたので、信康とオストルも直ぐに出陣させた。


 そうして行軍する事、一時間。


 未だに村は一向に見えないばかりか、人っ子一人見えない。


 そんな中で、信康達は道なりに進む。


 整備された道ではないので、デコボコしているが進むには問題無い道だ。空を飛べば早いのにと言う部下である小隊員達の愚痴が背後から聞こえるが、信康は聞かない事にした。


「しかし、村がある様に見えないな」


「そうだね~雲一つ無い晴天だから周囲の警戒を怠る事は無いけど、こんだけ陽気だと眠たくなって来るよ」


 隣に居るオストルは、そう言って欠伸を掻く。


 信康も口には出さないが、オストルに同意していた。


 オストルは馬に揺られながらも、コクリコクリと船を漕いでいた。


 信康はそんなオストルを横目に、少し先に居る第四騎士団を見る。


 辛うじて肉眼で、視認出来る距離に居る。


 偶に騎兵分隊から何名か一組にさせて、周囲を偵察させていた。空から確認するので、何か発見すれば文字通り飛んで連絡して来る手筈になっている。


 それでも村はまだ、発見出来ていない。


 地図があるからと言っても、その地図も正確無比の測量をして作られた訳では無い。道によっては、地図と全く違う所もあった。これが民間での製作ならまだしも、プヨ王国軍が製作したならもっと正確に作れと信康は愚痴を零したくなった。


 故郷である大和皇国ならば、寸分の狂いも無い正確な地図しか無かった。地図の正確さは、戦争の勝敗に直結するからだ。間違い一つで斬首も有り得た程、大いに厳しかった。そう思っていると、今まで行った国々の中でもマシな方かと思い直し気を取り直すしか無かった。


 何処まで到着するのにまだ掛かるのだろうかと、行軍している信康達の頭にそんな考えがよぎった時。先行している第四騎士団から、一騎離れて信康達の下に降下して来る。


 何か見つけたみたいだと思い信康は、半分眠り掛けているオストルの肩を揺らし起こした。


「ほえ?」


「眠たいのは分かるが、伝令が来たからしゃんとしろ」


「ああ、うん。分かった」


 オストルは頬を軽く叩き、眠気を完全に覚ました。


 そして手を上げて、部隊の足を止めた。


 少し待っていると、信康達の前に天馬(ペガサス)に乗った騎士が降り立った。


「伝令です。ここから東に後二キロ行った先に、目的地の村を発見しました! 我々第四騎士団が先行しますので、後続の御二方はあまり急がず来る様にと、ゲルグス様からの御言葉ですっ!」


「了解した。では、その村に向かうと伝えてくれ」


 信康がそう言うと、伝令に来た騎士は一礼してその場を後にした。


「よし、俺達も向かうぞ」


「OK」


 オストルの返事を聞いて、信康は行軍を再開させた。



 信康達が村に到着する頃には、村人達が避難の準備をしている所だった。


 足が悪い者や子供などは荷車に乗せて、大人達は持てる限りの荷物を持って支度を整えて行く。


 そんな中でゲルグスとアルテミスの二人はせわしなく動き回り、避難の手伝いをしていた。


「避難状況は?」


「七割程、完了しました。残り三割ですが、言う程時間も掛からずに完了するかと思います」


「この村から最寄りの城塞や要塞と言うと、何処になります?」


「そうですね。半日歩けばクレンソ要塞に、二日歩いた所にラタゴン要塞がありますね。この二つの要塞は言ってみれば兄弟要塞で、片方が襲撃を受ければもう片方が救援して連携を行う形になっています」


「ふむ。・・・・・・・貴女は何処が良いと思いますか? アルテミス」


「普通に考えたらクレンソ要塞でしょうが・・・あの要塞は山城なので、荷車や体力の少ない女性には辛いでしょう。其処をカロキヤ軍の飛行兵にでも襲撃されれば、目も当てられません。逆に二日歩きますがラタゴン要塞の道のりは、平坦な道が続くだけです。老人や女性にも歩くのに其処まで問題はありませんし、視野も確保出来るので敵軍の襲撃にも直ぐに対応が可能かと」


「ならば考えるまでもありませんわね。わたくし達が向かうのは、ラタゴン要塞で決まりですわ」


「分かりました。全隊にそう伝えて来ます」


 その場をアルテミスはゲルグスに一礼してその場を離れたので、信康は話し掛けた。


「よう。言われた通りにそんなに急いでこなかったが、大丈夫だったみたいだな? 心配はただの杞憂で終わったか」


「あら? 心配して下さいましたの? でしたら問題はありませんでしたわ。寧ろ、わたくし達の後に続いて来たら、村人達が恐慌状態(パニック)になっていたかも知れませんからね」


「村人達が恐慌状態(パニック)に? ふむ、理由は?」


「別に難しい事でもありません。敵が迫っているので避難をしてくれと言っている最中に、砂煙が上がれば敵が来たと勘違いする人もいるかもしれません。村人達が恐慌状態(パニック)になれば、それを収拾させるのに時間を浪費してしまいます。それでは避難が進みませんからね」


「・・・・・・実に気配り上手な事だ。やはりお前は、人が良い性格をしているな。勘違いするなよ。これでも褒めているんだぜ?」


「ふっ、ふん。でしたらありがたく、受けておきましょう。そもそも末席とは言え、伊達に天馬十二騎の一席を務めておりませんから」


 ゲルグスは腰に手を当てて、胸を張って言う。


 強かな所もあるが、やはり扱い易い奴だとと思う信康。


 そう思っていると、袖を引っ張られた。


 振り返るとオストルが居た。


 そして信康の耳元に顔を近づける。


「ねぇ、この娘って意外と扱い易い娘なの? 何時か悪い男に騙されそうだね」


「ぷっ。止めろ止めろ。そう言う事は、思ってても言うんじゃない」


 あまり話した事がないオストルでさえそう思われるとはと、そう思い思わず吹き出して静かにさせる信康。


 笑うのを我慢していると、急報が飛んで来た。


「敵襲っ! 敵襲っ!?」


 外を警戒していた第四騎士団の団員が大声を上げて、ゲルグスの前まで来た。その凶報を聞いて、村内は騒然となる。


「敵が来ましたか・・・総数は?」


「敵はおよそ五百です! 歩兵が三百、騎兵が二百騎っ! 歩兵部隊が先行しており、騎兵部隊が後に続いております!」


「村を襲うにしたら、かなり多く感じますが・・・この村は比較的大きいので、それだけの規模で襲撃して来てもおかしくはありませんわね」


「そうだな。しかし村を襲うにせよ、奇襲ならば速さが命だ。なのに足が遅い歩兵部隊を先行させるなど、違和感が禁じ得ないな」


プヨ王国軍(わたくし達)が居るとは知らずに、村人達を逃がさない為に歩兵部隊を先行させているのでは無いかしら? 数からいえば、村人達の数の方が多いですもの」


「まぁ俺達が考えても、答えは出ないな。さて、副団長殿。此処は如何致す?」


 信康はオストルに話を向ける。この部隊の指揮官を担っているのだから、話を振るのは当然の話だ。


「う~ん。そうだね・・・・・・此処はカロキヤの狙いをはっきりさせたいから、村を防備しつつ敵の出方を見るのが良いと思うな」


 流石は第五騎士団副団長を任されているだけはあると、信康はオストルの判断を見て称賛した。カロキヤ公国軍が村に略奪に来ただけか、はたまた別な狙いがあるか分からない以上は村人を守りつつ柔軟に対処する臨機応変に対応が可能な防衛策を出した。


「今の所、それが妥当ですわね。アルテミスには、そのまま村の避難活動を任せましょう」


「そうだな。状況が状況だから、一部隊だけ避難準備を任せるか」


「残りの僕達は防衛だね」


「そうだ。出るぞ」


「分かったよ。じゃあ、僕は部隊に指示を出して来るねっ!」


 オストルはその場を離れた。


 信康もゲルグスの目を見て頷いて、自分の第四小隊の持ち場に戻った。


 ゲルグスも自分の部隊を集め、アルテミスにはそのまま避難の手伝いをする様に指示を出した。


 アルテミスは何時でも戦闘準備に移行出来る様に警戒しつつ、引き続き村人達の避難活動を手伝った。

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