第149話
信康達傭兵部隊の諸将が全員揃うと、ヘルムートは徐にに口を開く。
「よし、全員揃ったな。先ずは、この地図を見ろ」
ヘルムートはそう言って、地図を広げた。
広げられた地図は、フェネルを中心に周辺を描かれた防衛拠点群の地図だった。
「城郭都市フェネルから北部の城郭都市アグレブまでの距離に存在する村や開拓村は大小合わせて、全部で三十二程ある。因みに小さいとは言ったが、村の人口は最低でも百人以上居るからな。そして、その内の六つが襲撃を受けた」
ヘルムートは村があると思われる場所に×印を記した。
「総隊長、会議の時に比べて二つほど増えていますが?」
会議の時は四つほど×印が記されていたのに、今は二つほど追加されていた。
「先程、連絡が入った。昨日の内に二つほど村が襲われたそうだ」
「その襲われた村は?」
「・・・・・・村は老人と中年女性の遺体を残して、焼き払われていたそうだ。お前等が捕まえた捕虜の話だと、カロキヤ軍は村人達を連行するのに力を入れている。だから殺された村人以外は、一人残らずカロキヤ軍に連れて行かれたと見るべきだろう」
それを聞いて、諸将は無言になる。それから信康は不愉快そうに鼻を鳴らし、リカルドは怒りで拳を強く握りしめた。
「と言う訳で・・・これ以上被害者を出さない為にも、残りの村人達は出来るだけ早く避難させるぞ。良いな?」
『了解!!』
「吉、良い返事だ。で、今のうちに、誰が何処に行くか教えておく。先ずは、リカルドとライナ」
「「はっ!」」
「お前はフェネルを出て北東に向かって進む、第二騎士団の部隊と共に行け。ライナ、お前はリカルドの補佐だ」
「了解です」
「・・・分かりました」
「次にヒルダ。お前はプラダマンテ副団長補佐が率いる、第五騎士団の部隊に同行しろ」
「了解しましたっ!」
ヘルムートが指示を出すのを聞いていると、信康の視界の端に動く金髪が視線に入った。
他の諸将は気付いていないが、偶々信康の視界の端に入ったみたいだ。
そしてその金髪の良く見覚えがある人物も嫌な予感を覚える信康。
信康は頭を抱える直前に、ヘルムートに声を掛けられた。
「次に、ノブヤス」
「あ、ああ」
「ちゃんと聞いているか? 会議が始まる前にも一度言ったが、お前には第四騎士団と第五騎士団の部隊と一緒に行動して貰うからな」
「了解」
「ああ、因みに第四騎士団からは天馬十二騎二人と兵が五百騎。第五騎士団からは副団長が率いる部隊五百騎、お前の小隊も含めて約一千二百だ。比較的大きな村だから、この規模になる。気合を入れて行けよ」
「・・・・・・了解」
信康はそれを聞いて、溜息を吐いた。
「やぁやぁ、お待たせしたね」
そう大きな声をあげるのは誰であろう、第五騎士団のオストルであった。
先程の金髪は、オストルの長髪だっだ。
「・・・・・・総隊長」
「おう、どうした?」
「確認ですけど、第五騎士団の副団長って今回一人しか参戦していませんよね?」
「そうだぞ。最初に言ったがもう一人は副団長補佐で、ヒルダが同行する事になっている」
「ですよね・・・はぁ」
「何だ? 嫌なのか?」
ヘルムートは信康の態度を見て、首を傾げた。
「ええ~? こんなに可愛い僕と一緒に仕事が出来るんだから喜ぶべきなのに、その態度は無いんじゃない?」
オストルは頬を膨らませて怒り出す。
その姿を見ていると、美少女にしか見えない。
「オストル。お前は男なのに、可愛いって言われて喜ぶのか?」
「うんっ! すっごく嬉しいよ~」
信康の質問を聞いて、肯定しながら笑い出すオストル。
こいつと一緒に行動するのかと思うと、頭が痛くなる心配になる信康。
そう思って居ると、二人の女性の声が聞こえてきた。
「此処ですわね」
「はい。間違いありませんね」
誰だと思って声が聞こえた方に首を向けると、其処に居たのはゲルグスと見慣れない女性だった。
性格に言えばゲルグスと同じ鎧と徽章を着ているので、恐らくだが天馬十二騎の一人だろう。
「ゲルグスと其処に居るのは?」
「ああ、ノブヤス。こちらは」
ゲルグスが水を向けると、その女性は前に出た。
信康達に綺麗な一礼をする。それを見て信康達も、敬礼して答礼を返した。
「お初にお目に掛かります。私は第四騎士団団長直轄部隊である天馬十二騎の一人。アルテミス・カラデイヴェールと申します」
そう自己紹介したアルテミスを、信康達はジッと見た。
煌めき光るハニーブロンドのロングヘア。
吸い込まれそうな位に綺麗な翡翠の瞳。
虫も殺さぬ様な麗しい美貌。
ただ身長は普通の女性よりも長身で、信康より僅かに低い位だ。
(これが『剛腕』の異名を持つ奴なのか?)
信康は内心で、首を傾げた。
身体が大柄である事を除けば、どう見ても何処かの貴族令嬢にしか見えないからだ。尤も、見た目で判断するのは愚者のする事と、直ぐにその疑問を自らの手で斬り捨てた。