第148話
「全く・・・どうしてわたくしが貴方みたいな人と、一緒に朝食を食べないといけないのやら・・・」
「此処しか席が無いからだと思うが?」
「んぐっ・・・じ、事実を一々口に出さなくてもよろしくてよ」
信康達は先に自分達が頼んだ朝食が来たので、ゲルグスを置いて一足先に食べ始める。
フラムヴェル達の食べている所を見て、ゲルグスは余計にお腹が空いた様でまた腹の虫が鳴き出した。
ゲルグスが遅れて注文したから、ゲルグスだけ朝食が届かないのは道理である。しかし周りが食べているのに自分だけ食べれないのはちょっと可哀そうだなと思い、信康は自分の料理を少し分けてやる事にした。
おかずを別皿に盛ってから、ゲルグスの前に置く。
「何ですの。これが?」
「口寂しいだろうから、良かったらどうぞ」
「ふん、誰が貴方みたいなっ・・・!」
きゅ~。
お腹から、可愛い空腹音が聞こえてきた。
「ぐ、ぐううううっ」
しかし、流石に言った手前手を出しずらそうにしているゲルグス。
(これじゃあ、余計に手を出さないな)
そう思った信康は、少し考えて良い事を思いついた。
「よし。じゃあ此処は一つ、取引と行きましょう」
「このわたくしと取引、ですって?」
「ええ。俺がこれから幾つか質問をするので、答えてくれる見返りにこれを食べれば良い。そうすれば、対等では?」
「ふん。別にそんな事をしなくても、わたくしの料理が来るまで待てば」
きゅ~。
また、お腹の虫が鳴った。
「別にそっちの第四騎士団の機密とかを教えろとか、そんな対価に見合わない事は訊かない。それに話せない質問は、普通に回答を拒否してくれれば良い。話せる事を話したら頼んだ物が来るまでの間、空腹凌ぎにはなるだろう」
そう言われて、ゲルグスは少し考えた。
「・・・・・・・話せる事なら、良いですわ」
「ああ、それで結構」
「では・・・・・・あっ!話をしたからと言って、後で「やっぱり、割りに合わない」とか言って、とんでもない事を要求とかしませんわよね!?」
「しつこい。そんなせこい真似はしない」
「そ、そうですか。では」
ゲルグスは貰ったおかずを食べだした。
信康も食べながら聞いてきた。
「では早速、聞きたいのだが」
「んっ・・・何ですの? それは敬語はもう良いですわ。アレウォールス教団の聖女様とタメ口なのに、わたくしに敬語で話していてはおかしいでしょうから」
「それって別に関係無いと思うが・・・では遠慮無く。先ず第一にお前の上官であるフェリビア団長って、無骨な兜を被っているよな。何か理由でもあるのか?」
「ふっふ~ん、其処が気になりますの? それはですね。戦場に立てば、何処に傷がつくか分かりません。だから団長の綺麗なお顔に傷が付かぬ様にに、あの兜を被っているのですわ」
「えっ? それだけ?」
あの実力ならそんな心配など、杞憂だと思う信康。それに魔法で治療を行えば、大抵の傷は残らないのだから。
「と、世間では思われているだけです。事実は全く異なります」
「ほぅ、違うのか」
「本当はあの兜は団長の力を、抑制している物なのですわ」
「抑制?」
「ええ。何せわたくし達の団長は我が国最強の騎士、または筆頭騎士と謳われるお方。そのあまりの力で周りの者まで傷つけない様にと、お力を抑制しているのですわ」
「ほぅ。つまり普段から力を抑えている、という事か?」
「そうですの。我らを思う慈悲深き心を持った御方を団長に持って、わたくしは嬉しいですわっ」
感極まったのか、目じりに涙を溜めるゲルグス。
「その尊敬する団長様に、自分の失態の尻拭いの為に頭下げさせるとか」
「しっ、聞こえるぞ」
アンヌエットはゲルグスに対して皮肉を言うと、フラムヴェルが慌ててアンヌエットを宥める。
「じゃあ、聞くまでも無いだろうが・・・ゲルグスは団長の顔を見た事があるのか?」
「当然ですわ。別に御隠しになっている訳でもありませんし・・・そのあまりの綺麗な顔は、玲瓏の如し。身体から溢れ出る神々しさは、まさに神話に登場する女神の如く美しく言葉では語り尽くせない程に、素晴らしい御方ですわっ」
何処か遠くを見るゲルグス。
信康はフェリビアの顔は見た事が無いので事実なのか、ゲルグスが誇張して言っているのかは判断のしようが無い。フェリビアの振舞いから、気品がある事は分かるのだが。
なのでフェリビアの素顔を見た事がある可能性がある、フラムヴェル達に視線を向ける。
話をしていた信康が顔を向けたので、直ぐにその意味が分かったフラムヴェル達は答えた。
「あれは、まぁ・・・こいつの言っている意味が分かるな」
「そうね。あまりに綺麗過ぎて、嫉妬すら出来なかったわ。何て言うか美術館とか博物館にある、彫刻を見てるみたいなんだもの」
二人はフェリビアの顔を見て、そう評した。
それを聞いた信康は、内心で何れフェリビアのはどれだけ美人なのか、素顔を見てみたいものだなと思った。
遠くに行っているゲルグスの前に給仕係が頼んだ朝食が置かれたが、ゲルグスはまだ帰ってこなかった。
「お~い。朝飯が来たぞ。そろそろ戻って来いっ」
信康がそう声を掛けると、ゲルグスは帰って来た。
「おっと、いけませんわね。つい、妄想に浸ってしまうとは」
「ほれ。料理が届いたのだから、食べたらどうだ?」
「そんな事、貴方に言われなくても分かっておりますわ」
ゲルグスはそう言って、料理に手を付けだす。
「次の質問だが・・・フェリビア団長直属の天馬十二騎とやらには、どんな奴が居るんだ?」
信康が知っているのは『奏弓』のイゾルデと『不抜』のルビィア。そして一緒に朝食を食べている
『烈火』のゲルグスの三人だ。
もう一人名前は知っているが、異名は知らないので聞いてみる事にしよう思う信康。
「あら、やはり殿方として女性の事は気になりますのね」
「それはそうだろう。綺麗な女が居たら知ろうとするのが、男の本能だ」
「ふん。下劣な欲望の間違いでは? まぁ良いでしょう。特別に、そう特別に教えて差し上げましょう」
ゲルグスは鼻を高くしながら喋りだす。
「先ずはわたくし達、天馬十二騎の席次を教えますわ」
「席次?」
「ええ、わたくし達にも序列がありますのよ」
「そうなのか。因みにお前は何番だ?」
「わたくし?・・・・・・わたくしは十二席ですわ」
「「「・・・・・・・・・・」」」
それを聞いた三人は内心、こいつ席次が低いなと思った。
微妙な空気が流れるが、ゲルグスは咳払いする。
「オホン。別に十二席と言っても、実力で序列が決まっているとかそうという訳ではありません。其処を勘違いせぬ様にっ・・・良いですわねっ!?」
「お、おう。誰もお前が弱いとは思っていないぞ」
ゲルグスの迫力に押され、頷きながらそう弁明して宥める信康。
「分かれば良いのです。それでは上から順に、説明致しますわ。天馬十二騎が第一席はサフィルロット・フォン・バンベヴィック卿。異名は『湖光』ですわ」
「ここう? 変わった異名だな。その異名の由来は何だ?」
「何でも御両親を早くに亡くし、湖に住んでいる精霊に育てられた由来があって付いた異名と聞きましたわ」
「精霊に育てられたか。凄い人生だ」
信康が知っている知識とこれまで出会った事がある精霊は力こそあるが、気紛れな性格の持ち主である自由人が多い。なので、人を育てる事をするのは珍しいと言えた。
余程、そのサフィルロットとやらが気に入られたのか、それともその精霊が稀有な性格なのかのどちらかだろう。
「性格は真面目で律儀な方で融通が利く、正に理想の騎士といえる御方なのですが・・・・・・その」
ゲルグスが口籠っていると、フラムヴェルが口を挟んだ。
「そいつって、あれだろう? 天馬十二騎の中でも、有名な女たらしだろう?」
「女たらし?・・・十二天騎って女しか居ないんじゃなかったか?」
トッドの話を思い出して、疑問に思う信康。
しかしその疑問は、直ぐに真偽が判明する。
「それってもしかして、女性なのに女をたらしこむ事で有名な『百合の君』?」
「何だ、その異名?」
「女を見たら見境無く口説き回って、その際に白百合を渡すからついた異名よ」
「ず、随分と気障な事をする様で・・・そいつって女性だよな?」
「そう訊いているけど、あたしは会った事無いし」
「あたしは会った事があるけど、見た目はあれだな。男装の麗人っていう言葉がピッタリな女だよ」
「「・・・・・・・」」
信康とゲルグスは言葉を詰まらせた。
「・・・まぁ何だ。そのサフィルロットとやらの説明はもう十分だから、次のを頼んで良いか?」
「え、ええ。そうですわね。次は第二席ラグゥエイン・フォン・ロビヌスオートニー卿です。異名は『灼熱』ですわ」
「灼熱か。だとしたら、炎を操るのか?」
「ええ。火炎系魔法に長けていますし、得物が火炎系の魔宝武具を持っている事も由来ですわね。性格は生真面目で、清廉潔白なお方ですわ。魔宝武具の名前は・・・」
「おっと、待て。魔宝武具となると、流石に軍事機密だろう。何れ機会があれば知る事も出来るだろうから、其処までお前の口から話さなくて良い。次の奴の紹介を頼む」
流石に魔宝武具の事を教えるのは、第四騎士団の機密に係わる。信康はゲルグスがつまらない事で処罰される可能性を懸念して止めると、次の奴の紹介をする様に頼んだ。
「分かりましたわ。お気遣いだけ、感謝しておきましょう。次は第三席ケイ・フォン・エクラルト卿です。異名は『騎宰』ですわ」
「きさい? 先程のサフィルロットと一緒でその異名は何かしら、そう言われる所以があるんだろう?」
「そうですわ。団長が騎士団長になった時に、騎士なのに自分専属の司厨長として選んだ事からついた異名だそうです」
「司厨長か。随分と信頼が厚いんだな」
身分が高い者になると、料理に毒が盛られる可能性がある。
なので料理人というのは、余程信用出来る者でなければ任される職業では無い。
「聞いた話だと、団長とは幼馴染だそうです」
「成程な、幼馴染か。信頼出来るのも、当然の話だな」
「そう訊いております。性格は気配りが上手ですが、誰であっても遠慮しない方です」
「つまりは、あれか。細かくて口が悪いと言う事か?」
「あれは口が悪いというよりも、表現が下手なのですわ」
「成程。お前みたいにか?」
「だ、だれが、口下手ですかっ!? 全く・・・これだから傭兵はっ」
「はいはい。分かったから次のを頼む」
「ん、んん。では、次に行きますわよ。次は第四席イゾルデ・フォン・シトラジストですわ。異名は『奏弓』ですわ」
「異名で弓が入っているという事だから、弓使いなのか?」
「ええ天馬十二騎には弓の名手は三人程おりますが、その中でイゾルデは一番の腕を持っていますわ」
それでイゾルデがあの距離になるまで接近されても気が付かなかったのかと、そう思う信康は思う。
狙撃手たる弓兵は敵に見つかっては話にならないのだから、気配を消すのが上手な理由が分かって納得していた。
「性格は優しげで穏やかであり、滅多な事で怒らない方ですが・・・一度怒るとかなり怖いです。天馬十二騎最恐と言っても、過言では無いかと」
「うーん。成程」
信康は一度しか会ってないが、何となくだが怒らせると怖いなと思った。
「あら? 会った事があるのですか?」
「あの村で一緒だったろう? その時に一度だけ、話す機会があってな」
「ああ」
「そうですか。では、次は第五席ルビィア・カダマクサールです。異名は『不抜』ですわ」
「ちょっと話したから分かるけど、あまり喋らないという感じがしたな」
「そうですわね。多分ですが天馬十二騎の中で一番、寡黙でしょうね。普段からあまり話さないので、あまり親しくはしていませんが・・・実直で頑固な所がありますわ」
「ほう、やっぱりか」
「次は第六席アルテミス・カラデイヴェールです。異名は『剛腕』になります」
「何か今まで聞いた異名に比べたら、異名の意味が直ぐに分かるな」
「そうですわね。まぁ異名通り天馬十二騎随一の怪力の持ち主ですわ」
「性格は?」
力持ちと言っているのだ。相当に気が強いのだろうなと、思う信康。
「性格はそうですね。天馬十二騎随一の人格者かつ、常識人で知られております」
「嘘だろ?」
「本当ですわよっ・・・本人もそう思われるのを気にしていますから、絶対にそう思わない様に」
ゲルグスがそう言っても、これまでの怪力を持つ女性を出会って来た経験から信じられない信康。
「ああ。あたしもそいつにあった事があるが、良い奴だぞ」
「そうなのか・・・分かった。気を付ける」
信康はフラムヴェルからそう聞いて、納得するしか無かった。
「次に行って良いかしら?」
「ああ、続きを頼む」
「次は第七席ルカ・フォン・ラズラネウス卿です。異名は『槍馬』ですわ」
「少し変わった異名だな。意味はまだ分かるが」
「まぁ獣人族の人馬族ですから、そんな異名を持ったのでしょう」
「人馬族か。成程な」
人馬族とは信康が言う様に、獣人族の一種である。上半身は人間で、下半身は馬の姿をした亜人類だ。
下半身が馬体であるお蔭か、かなり足が速い。
その速度から生まれる突破力は、絶大の一言だ。また普通の馬よりも膂力と体力があるので、駅馬車の馬の代わりに走っている人馬族も居る。人馬族が馬車を引けば一体二役で馬も御者も不要な存在になるので、非常に重宝されている。
「性格は真面目な方ですわ。それから異名に槍が付くだけあって、十二天騎随一の槍術師でもあります。はっきり言えば、フェリビア団長に次ぐ槍の使い手ですわね」
「ほぅ、そうか」
先程から名前が挙がっている十二天騎達は、サフィルロット以外は特に性格に問題が無いと思える人物達ばっかりだった。天馬十二騎の選ばれる基準は、実力よりも性格を主にしているのだろうかと信康は思った。
「次の第八席ヴァパラ・ユーウェイン。異名は『鷹の目』ですわ」
「その異名から察するに、目が良い様だな? となるとお前がさっき言っていた三人居る、弓の名手の一人か」
「ええ、御明察ですわ。弓の扱いを総合で見ると、確かにイゾルデ卿が一番です。しかしヴァパラは遠くに飛ばす・・・つまりは矢を飛ばす飛距離に関して言えば、イゾルデの一歩上を行きます」
「それは確かに目が良くないと、出来ない事だな。となると遠距離狙撃は、そのヴァパラが一番か?」
「そうなります。それと普段から注意深く、抜け目が無い性格をしておりますわ」
「うーん。それは狙撃力と関係しているか分からんが・・・そうなのだな」
「次は第九席アクアマリン・フォン・パロミデス卿です。異名は『博識』ですわ」
「異名からして、智将型か?」
「その通りです。我が騎士団の軍師、総参謀をしております」
「軍師か。そりゃ、頭が良くないと出来ないな」
「冷静沈着で、穏やかな性格の持ち主ですわ。お洒落に眼鏡を掛けております」
「眼鏡? あれって結構高価な道具だよな? となると視力が悪いのか?」
信康かしたら眼鏡とは高価な道具なので、金持ちが道楽で掛けている物というイメージがある。しかしその反面、視界を良好にする為に掛ける人も居る事も分かっている。アクアマリンの性格からして、眼鏡を掛けている理由は視力が悪いのかと考えた。
「視力が悪いのかは知らないのですが・・・そう言えば、偶に片眼鏡を掛けておりますわね」
「ものくる?」
何だそれ、という顔をする信康。
「片目に掛ける眼鏡ですわ」
「ほう、そんな物があるのか」
見た事が無いので、どんな形をしているか分からない。しかし片目に掛ける眼鏡がモノクルと言うのが分かれば、それで良いと思う信康。
「次は第十席トパズ・ディナダン卿ですわ。異名は『剛弓』ですわ」
「その異名は、直ぐに分かるな。何だ? 矢を射って、大岩でも砕いたか?」
「いえ、もっと凄い物を射抜きましたわ」
「ほう? 何を?」
「竜ですわ」
「・・・それは・・・凄いな」
「ええ。たった一矢の矢を放って、竜を撃ち落としたのですから」
「その口振りだと、実際に目撃したのか?」
「その通りです。わたくしもこの目で見ましたから」
「竜の鱗は魔物の中でも硬い方だろうに、良く射抜いたな」
「だから別の異名で、『竜殺し』の異名を持っていますわ」
「凄過ぎだろう」
「そんな偉業を成し遂げた本人ですが、至って物静かで冷静な方なのですよ」
「ふむ。それを妄りに誇らない辺り、謙虚とも言えるな」
「全くです。次に行きますわよ・・・・・・次は第十一席シェリルズ・ヘルムートです。異名は『獰俊』ですわっ」
「どうしゅん? その異名の由来を教えてくれるか?」
「獣みたいに獰猛で、尚且つ足が速いから付いた異名ですわよっ」
「何か、狂戦士みたいな奴だな」
ヘルムートの話だと、何にでも反抗しているみたいな事言っていたなと思い出す信康。
「性格は大雑把で、何でもかんでも暴力で解決しようとする野蛮人ですわっ」
どうやら、ゲルグスはシェリルズとは、相性が悪い様だ。今までの天馬十二騎の紹介と比べて、明らかに不機嫌になっている。
紹介しているだけなのに、それだけ不機嫌になるのだから相当な犬猿の仲だと思う信康。
「で、最後がお前と」
「ええ、その通りです。わたくしの紹介はしなくても、分かるでしょう?」
ゲルグスは自身の豊満な胸を張って言う。それを見て、信康はある事を思い付いた。
「いや、分からない事が一つだけあるな」
「あら? 何かしら?」
「お前の実家の爵位と、スリーサイズ」
「わたくしの実家は由緒ある伯爵家で、スリーサイズは上から・・・って、何を言わせますのよっ!?」
信康の質問に馬鹿正直に答えようとしたが、質問の内容を理解すると顔を真っ赤に染めて両腕で自身の豊満な胸を隠した。
そんなゲルグスを見て、信康はクスクスと楽しそうに笑う。一方でセクハラ紛いの質問をする信康に、フラムヴェルとアンヌエットが半眼視して睨み付けた。フラムヴェルも同じ質問をされているので、目力が強かった。
「すまんすまん。まぁお前も魅力的な女だから、遂な」
「全く・・・あの時があるからって、わたくしを馬鹿にして・・・」
「馬鹿にしちゃいないって。あの時の事はもう誰も気にしていないし、お前が気にする必要も無いから・・・それでも何か思う所があるなら、戦場で活躍して汚名返上すれば良いだけだろう? お前の実力なら、造作も無い筈だ。違うか? 『烈火』殿?」
信康がそうフォローすると、直ぐに立ち直るゲルグス。
「そ、その通りですわ。見ていなさい。わたくしの活躍をっ! 見事に汚名返上してあげますわ!」
ゲルグスはそう言って時計を見ると、慌てた様子で食事を掻き込む様にに食べる。そして食べ終わると、「ではわたくしは出陣準備が有りますので、失礼致しますわ。それなりに楽しい一時でした。ありがとうございました」と言って優雅に一礼してから、席を立って食堂を出て行った。
「・・・・・・・何というか、やはり面白い奴だったな」
信康は料理と一緒に頼んだカフェを優雅に飲みながら、ゲルグスをそう評した。
「私はどちらかと言うと、ゲルグスを思う様に操るあんたの方が恐ろしいわよ」
「あたしもそう思うぜ」
フラムヴェルとアンヌエットは、信康を見ながらそう言う。
「そうか?」
信康は言っている意味が分からず首を傾げたが、フラムヴェル達は頷いた。
「それよりも、あたし達も早く食べ終えようぜ。出陣が遅れる」
「おっと、そうだった」
「そうね。早く食べましょうか」
信康達もゲルグスを見倣って、急いで食事を再開した。
朝食を食べ終えた信康達は、食堂の前で別れた。
その際にフラムヴェルが「これで借りは返したからなっ」と言って、逃げる様にその場を後にした。
アンヌエットは肩を竦めて、フラムヴェルの後を追った。
そして信康は自分が所属する、傭兵部隊が集結する場所に向かう。
其処に着くと既に、傭兵部隊の大半が集まっていた。
信康は急いで、ヘルムートの下に行く。
「総隊長、申し訳ない。遅くなりました」
「おう、来たか。まだ出撃時間じゃあないから、まぁ大丈夫だ」
「そうか。ところで、まだ小隊長で来てないのは?」
「ええっと、確か・・・ティファとカインとリカルドだな」
「その三人が来れば、出撃するんですか?」
「そうだ。だが傭兵部隊だけでは、兵力が少ない。だから他の軍団の部隊と一緒に行動して、村に向かって貰うぞ」
「了解」
「ああ、ノブヤス。お前の隊は第四と第五騎士団の部隊と、一緒に行動して貰うからな」
「了解した」
そう言った信康だが、背筋に何故か言葉では表現出来ない悪寒が走った。
意味が分からず、首を傾げる信康。
その意味を考えるのは後にして、まだ遅れているリカルド達が来るまで待つ事にした信康。