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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章
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第142話

 プヨ歴V二十六年八月十八日。


 必要最低限の家具以外は何にも無い、狭い兵舎の個室だったがぐっすり眠れた信康。


 誰に起こされる事も無く、目が覚めた。


「くう~・・・・・・良く寝た」


 信康は肩をやら首やらを動かし、寝台から降りた。


 そして直ぐに魔鎧を着用する。


 腰に愛刀である鬼鎧の魔剣オーガアーマーズ・ソードを差すと、扉がノックされた。


 誰だと思い、信康は扉を開けた。


 すると其処に居たのは、ティファとルノワとコニゼリアの三人だった。


「「「おはよう(ございます)」」」


「おはよう。どうした? 三人共」


 信康は三人に訊ねた。


「あんたって、起こさないと何時までも寝ているイメージがあるから」


「それで起こしに来ました」


「です」


 ティファがそう言うと、ルノワもコニゼリアも同意した。


 それを聞いて信康は怒るべきか悲しむべきか悩んだが、取り敢えず今は腹が減ったので、食堂に行って朝食を食べる事にした。


「まぁ、良い。それよりも早く朝食を食べに行くぞ」


「了解」


 信康が通れる様にティファは道を開けてくれたので、信康は歩き出した。


 その後を、ティファ達が付いて行った。


 食堂に着くと、大勢の人間で食堂がごった返していた。信康が聞いた話によると、兵卒から尉官級の下級将校までが同じ食堂を利用しているそうだ。なのでこれだけの大人数で食堂が賑わっているのである。


 そして噂によると佐官級以上高級将校からは別の食堂で、更に別の献立が用意されておりとても豪勢なのだと言う噂である。尤も、信康にとって関係無い話ならばどうでも良いと無関心であったが。


 食堂がごった返しているので、信康達は二手に別れる事にした。コニゼリアとティファが席を取り、信康とルノワは食事を取る事になった。


「じゃあ、席取りは任せた」


「了解」


 ティファ達と別れた信康達は、カウンターに並ぶ。


 そうして並んでいると、ヘルムートが信康達の下へやって来た。


「おお、丁度良い所に居たな」


「総隊長? おはようございます。佐官の総隊長が此処に居るなんて、何かありましたか?」


「ティファにも先刻(さっき)言ったが、朝食を食べ終わったら軍議があるからお前も参加しろ」


「軍議?」


「ああ、これからの作戦行動に関しての軍議だ」


「了解しました」


「じゃあ、後でな」


 余程忙しいのか、朝の挨拶もせずにヘルムートは何処かに行った。


「御忙しいみたいですね」


「まぁ、傭兵部隊の指揮官だからな。仕方が無いのだろう」


 信康はその後姿を見送りながらそう思った。


(あっ、会議室って何処にあるか聞いておくか忘れていたな。まぁ、テイファと一緒に歩きながら探すか)


 信康はそう考えていると、列が進んだ。


 そして自分達がカウンターまで来ると、其処で二人分欲しいと頼んだ。プレートを二枚貰い其処に朝食を持った皿が乗せられた。


 黒パン、ベーコン三枚、牛乳、更に根菜の汁物という献立だった。


 牛乳以外は、長期保存出来る食料ばかりだ。既に長期戦に備えた準備が始まっていた。


 信康達は文句を言う事なく、ティファ達が席取りした所に行き朝食を食べた。


「んぐんぐ・・・味は悪く無いが、味云々以前に顎を使う食事だな」


「ですね」


「これを毎日食べ続けたら、顎が相当発達しそうだな」


「ノブヤスさんに同意しますけど、これだけ食べれるのも贅沢だと思いますね。前に私が行った戦場でしたら、朝も昼も夜も三食全てポテトだけでしたよ」


 コニゼリアの言葉を聞いて、信康達は首を動かした。


「ポテトか。まぁあれはどんな痩せた大地でも実る、万能野菜だからな。ブリテン王国だと、主食になってる位だったぞ」


「あれって意外と腹持ち良いけど、正直三食続けてはちょっと」


「味を変えるなら、行けると思いますよ。でも、戦場ですから」


「はい。茹でただけの物を大量に・・・まぁ塩と飲み物は好きなだけ、使っても良かったんですけど・・・私は耐え兼ねて狩りで動物や魔物を狩って食べてましたよ」


 三食全てが茹でたポテトだけなど、流石に飽きるからコニゼリアがそうするのも無理も無い話だと思う信康達。


 そしてちょっとした話をしながら、朝食を食べた。


 食べ終わると、信康とティファは会議室に向かった。


 ティファはヘルムートが自分の所に来た時に会議室の場所を聞いておいたので、誰にも道を聞く事なく信康達は会議室に着いた。


 会議室に入ると、既に傭兵部隊の諸将が殆ど居た。


 居ないのは、リカルドとバーンだった。


「リカルドとバーンは?」


 信康が訊ねると、ヒルダレイアはグラスを傾ける仕草をした。


「酒飲んで寝坊したみたい」


「珍しいな。バーンは分かるが、リカルドまで寝坊なんて」


 リカルドは真面目な奴と思っていたので、ちょっと驚く信康。


「どうもね。昨日の事がまだ納得していなかったみたいで・・・バーンが持って来た酒を飲んで憂さ晴らしをして、それで寝坊よ。はぁ~全く、本当に馬鹿なんだから」


 ヒルダレイアは、重い溜め息を吐いた。


「それだけ、この前の件が胸の中でくすぶっているんだろうな」


 困ったものだという顔をするロイド。


 カインも似た様な顔をして頷く。


「まぁその青臭い甘ちゃん振りが、リカルドらしいと言えばリカルドらしいけどね」


 ライナがそう言うと、全員が納得した様に頷く。


 話していると、会議室の扉が開いた。


 誰か来たと思っていると、信康が見知った顔が入ってきた。


「おっはよ~」


 扉を開けるなり大きな声で挨拶するのは、第五騎士団副団長のオストルだった。


 知り合いという事で、信康は挨拶した。


「おはようございます、オストル副団長閣下。今日もお元気な様子で何よりです」


 一応これから会議をするので、ちゃんと畏まった方が良いと思って敬語で話す信康。


 オストルは信康にそんな反応をされて、頬を膨らませた。


「むぅ、そんな畏まった態度なんか取らなくても良いからさ。もっとフレンドリーに行こうよ。フレンドリーに」


 出来るか、信康以外はそう思った。


「はいはい。分かった分かった。これで良いだろう? オストル」


「うんうん。ノブヤスは素直だねぇ~君達も僕の事はオストルって言って良いからねっ」


 オストルは信康の肩を叩きながら、ヒルダレイア達に顔を向けてそう言った。


「えっ、でも」


「気にしない。気にしない。今は仲間なんだから、構わないよ」


 そう言われても、こっちは構うという顔をするヒルダレイア達。そもそもその様な態度を取って後に咎められたら、とんだとばっちりを受けてしまう。ヒルダレイア達としては、どうしてもその様な状況は避けたかった。


 しかしオストルの機嫌も損ねたくは無いので、ヒルダレイア達はどうしたら良いかなと思っているとオストルと一緒に会議室に入って来た女性がオストルの頭を叩いた。


「この馬鹿。人を困らせるなと、何時も言っているだろうが」


「何も叩く事ないじゃないか~プラダ姉」


「お前の場合、叩かないと分からないからしているんだ」


「う~分かったよ」


 オストルは頭を抑えながら、信康に手を振って別れた。


 プラダマンテは信康達に一礼して、オストルの後に付いて行く。


「おいおい、何時の間にあの副団長と親しくなったんだ?」


 ロイドは信康に訊ねた。


「昨日の行軍で話をしていたら、何時の間にか親しくなった」


「はぁ~お前のコミュニケーション能力は凄いな。今度で良いから、俺を紹介してくれよ」


 ロイドがそう言うのを聞いて、信康は不思議そうな顔をする。


 そして数歩下がってロイドと距離を取ってから、恐る恐ると言った様子で言う。


「ロイドって、そっちもいける両性愛者(バイセクシャル)だったのか?」


「はぁっ!? ノブヤス、藪から棒に何を言っているんだ?」


 ロイドは信康が言っている意味が分からず、首を傾げる。それはヒルダレイア達も同様であった。


「違うのか?」


「いや、言っている意味が分からん。それから念の為に言っておくが、俺は健全な異性愛者(ヘテロセクシャル)だ。断じてその様な趣味は持ち合わせていないっ!!」


 何宣言だと内心思いつつも、信康はロイドのその反応を見て漸く安堵した。


 信康は溜息を吐きながら、ロイドに距離を詰める。


 それからオストルが居る方向へ親指で指し示しながら、ある事実を告げた。


オストル(あいつ)は、男だぞ」


「!!??!?!?!?」


 ロイドは驚きのあまり、言葉にならない叫びをあげる。それはロイド程では無いにせよ、ヒルダレイア達にとっても驚愕の事実だった。


オストル(あいつ)と話してみて分かったが、喉仏があった。それに性別の事を訊いてみたら、男だと答えたぞ」


「ま、まま、本当(マジ)でっ!?」


「こんな事で嘘なんぞ吐いてどうする?」


 信康がそう言うので、ロイドは首を動かしてもう一度オストルを見た。


 仕草といい、顔立ちといい何処どう見ても女性にしか見えない。


 ロイドはそう思っていると、会議室の扉が開いた。


 そして、入って来たのはヘルムートだった。


「おう、お前等、もう来ていたか、感心・・・・・リカルドとバーンはどうした?」


「寝坊です」


「・・・・・あいつ等は」


 困ったものだと頭を叩くヘルムート。


「そ、そうたいちょう」


「どうした? ロイド」


「その、あそこにおられるオストル副団長って」


「うん? オストル副団長がどうかしたのか?」


「・・・・・・女性ですよね?」


 ロイドは合っててくれという顔をする。


「いや、あんな見た目だが歴とした男性だぞ」


 しかし運命は、ロイドの思い通りにはならなかった。


 ヘルムートの言葉を聞いて、ロイドは膝から崩れ落ちた。


「・・・・・・本当(マジ)かよ。思いっきりストライクゾーンど真ん中だと思っていたのに、男だったなんて・・・・・・・」


 ロイドはブツブツ言いながら項垂れた。


「どうした?」


「今は触れないであげて下さい」


 カインが切実に、そうヘルムートに言う。


 信康達は何とも言えない顔をする中、ヘルムートだけは首を傾げていた。

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