表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章
14/397

第12話

 信康達が王都アンシの北門に到着すると、丁度第一陣である第三騎士団騎士団長が出てきた所であった。


「貴卿が此度の副将の一人を任された、第三騎士団団長のフォルテス・フォル・ヒルハイム卿であられますね」


 ヘルムートはビシっと、フォルテスに敬礼して話し掛けた。後ろに居た信康達も、ヘルムートに倣ってフォルテスに敬礼した。


 騎士団の団員は、入団資格として騎士位が必須である。


 そして騎士位を持った上で各騎士団が定期的に開催する、入団試験に合格しなければならない。


 更に騎士団長や副団長に就任するには、最低でも男爵以上の爵位が必要となる。


 因みに軍団では爵位は必要資格では無いが、入団試験が存在するのは共通している。


 軍団長や副団長に就任するにも爵位は不要となっているが、基本的に爵位持ちの軍人が就任する傾向にあり、無官位の軍人が就任する例は必然的に少ない。


 騎士団長にまで就任出来る傑物は武功で爵位を得られているものだが、フォルテスに限ってはヒルハイム侯爵家の支援により、子爵位を得た上で第三騎士団団長の地位に就任していた。


 手段はどうあれフォルテスは正式な上官である以上、信康達はフォルテスに対して失礼の無い様に自分達の態度を注意しながら、ヘルムートが代表してフォルテスに話し掛けた。


「うむ。そうだ。この私こそが陛下より此度のプヨ軍総大将の右腕たる副将を任された、誉ある第三騎士団騎士団長のフォルテス・フォル・ヒルハイムだ。お前達は何者・・・って、貴様は以前の東洋人っ!?」


 閲兵式で恰好付けながら、行進して御機嫌だったフォルテスは、信康と再会して一瞬で機嫌が悪くなった。


 ヘルムートは信康とフォルテスの関係を思い出して、失敗したと言わんばかりの表情を浮かべた。リカルドも、ハラハラしながら様子を見守る。信康だけは、楽しそうな笑みを浮かべていた。


「東洋人の貴様が居ると言う事は・・・貴様らはあの薄汚い傭兵部隊の者共だな。この高貴な私に、貴様ら如き下賤の者共が一体何用なのだ?」


「い~えっ。ただフォルテス騎士団長閣下の御勇姿をこの両眼に焼き付けたくて、お見送りも兼ねてヘルムート総隊長及びリカルド副隊長と此処に立っておりました。閣下の御武運と御無事を、傭兵部隊一同は心よりお祈り申し上げております」


 信康は心にも無い言葉をツラツラと並べてから、フォルテスに向かって綺麗に一礼をして見せた。


 信康のあまりに洗練された綺麗な礼節を見て、ヘルムートとリカルドは呆然となる。フォルテスも信康の一礼を見て両眼をパチクリしながら面食らっていたが、我に返ると、機嫌良く高笑いを始めた。


「はっははははは! 泥臭い傭兵にしては、随分と礼節に精通しているではないかっ! 良いだろう、私は寛大だからな。貴様らの言葉、しっかりと受け取ってやるぞっ。我等栄えある第三騎士団の活躍と功績の為、精々露払いの役目を果たすが良いっ。はははははははっ!!!」


 フォルテスは信康の御世辞に聞いて終始御機嫌な様子で、高笑いを響かせながら北門を去って行った。


 そんなフォルテスの傲慢な態度が気に入らなかったリカルドだったが、それ以上に、信康の事が気になっていた。


 それは信康に出番を完全に奪われた、ヘルムートも同様である。


「ノブヤス・・・良くあんな心にも無い御世辞を、立て板に水を流すが如くつらつらと並べ立てられたね?」


「全くだ。何処であんな礼節を覚えて来たのやら・・・」


「其処は色々あった、とだけ言っておきます・・・それはそれとして、少なくともあの第三騎士団の末路は見えてしまいましたね」


「何っ?・・・ノブヤス、その理由は何だ?」


「あのフォルテスは表情どころか全身から、自慢の鎧に傷一つ付く事は無いと私は生き残るのだという根拠の無い意思を宿しています」


「うん? 鎧が傷一つ付けない事と、生き残りたいと思う事が関係しているのか? 少なくとも戦場に出て、生きたいと思うのは不思議では無いだろう?」


「俺の生まれ故郷である大和では、生きんとすれば必ず死に。死なんとすれば必ず生きる・・・という言葉が有ります」


「どうゆう意味だ。それは?」


「戦場に出て生きたいという気持ちが強ければ却って死を招き、逆に死んでも良いと覚悟を決めた方が死の方から遠ざかってくれて結果的に生き残れるという意味です」


「中々どうして、面白い言葉だ。生きんとすれば必ず死に。死なんとすれば必ず生きる・・・か。良し、覚えておこう」


「あのフォルテスの顔を良く見ていましたが、戦場に行くと言う自覚が無さそうでした。寧ろ遠出ピクニックにでも行くかの様なノリで・・・それと自分達が勝つ事は約束された未来だと、そう言わんばかりの顔付きをしています。敵を討ち取り勝利を齎すと思うのは一軍の将軍が持つべき当たり前の考えですが、それは出来得る最善の限りを尽くした事が大前提です。何もしていないあの男に、その資格はありません」


「ふむふむ・・・ノブヤス。お前が言っている事は、尤もだな。だとすると、第三騎士団(あいつら)は、この戦場で生き残れないと見ているのか?」


「悪運が強ければ、生き残れるじゃないですかね?・・・ただあの、のほほんとしたまま真紅騎士団(クリムゾン・ナイツ)が出て来る戦場に行ったら、生命が一ダースあっても足りないでしょうねぇ」


 信康の言葉を聞いて、ヘルムートとリカルドはお互いの顔を見た。


 特にリカルドは縁を切ったとは、言え身内が第三騎士団に所属しているからか、不安の色が宿っていた。


「どう、思いますか?・・・総隊長」


「まぁ、何だな。俺はやっぱりノブヤスの事を、若いからって過小評価していたのかもしれんな」


 話をしていたら第三騎士団は、もう遥か向こうに行っており、丁度第二陣の第二騎士団が出て来た。


 先頭を進んでいる大柄な騎士が、こちらに手を振って来た。


 信康はこのプヨ王国に来てから、まだ一月程度しかおらず知り合いは少ない、リカルドも騎士団に所属している知り合いは居ないと言っていた。


 そうなると、残っているヘルムートしかいない。


「お知合いですか? 総隊長」


「ああ。第二騎士団は、ついこの前まで、俺が所属していた騎士団だからな」


「総隊長は第二騎士団に入っていたのですか!?」


 ヘルムートの思わぬ過去を聞いて、この事実には信康もリカルドも驚いた。


「普通は驚くだろうな、騎士団に入っていた者が傭兵部隊を指揮すると聞けば・・・それと手を振っているのは第二騎士団団長のヴィルバルト・フォン・バウルフォン団長だ」


「あの方がそうですか・・・・・・何というか、その」


 リカルドは手を振っている人を見て、言葉を濁していた。


(あれは騎士というよりも、山賊という方がしっくりくるな)


 そうなのだ。第二騎士団団長であるヴィルバルトの特徴を一言で言えば、会った者全員が揃いも揃って、山賊と言うだろう。


 歳は四十代半ばで、傷を補修した鎧を着ているが小さい傷が所々あった。顔には十字傷があり、目付きが獲物を狙う獣の如き光を宿した目だ。


 これから戦争に行くからだと言われても、あんな目をする者はそうそう居ない。


「お前達の言いたい事は分かる。俺も初めてお目に掛かった時は、山賊だと思ったからな」


 ヘルムートは、うんうんと頷きながら思い返していた。


「だが見た目に反して、とても部下思いなお方でな。先陣を切って敵と戦うし良い采配もするから、皆から慕われているんだぞ」


「へぇ、そうなのですか」


 リカルドは驚いていた。


 そうこうしていたら、ヴィルバルトが列を離れてヘルムートに向かって駆けて来た。


「カルナップ・・・では無かったな。ヘルムートよ、傭兵部隊のお守は順調か? 何なら何時でも、原隊復帰してくれても構わんのだぞ」


「あははは、お気遣いありがたく・・・そちらの騎士団と違って、言う事を聞かない者は一人も居ないので、手間が掛からなくて拍子抜けしています。はっきり言わせて頂きますと、以前より大分楽をさせて貰っていますよ」


「抜かしおるわ! だがそんな面白みも無い奴等と戦場に出て、生き残れるか?」


「其処は訓練していますので、大丈夫でしょう。そう簡単に死ぬ程、柔に鍛えていません。ヴィルバルト団長仕込みの訓練を、みっちりとやり込んでますからね」


「がっはははは、それなら安心だ」


 ヴィルバルトは安心した様子で、第二騎士団の戦列に戻って行った。嘗ての部下と再会出来て、心底嬉しそうな様子であった。


 それは尊敬出来る上官と再会して言葉を交わせた、ヘルムートも同様である。


「さて、これで残るは鋼鉄槍兵団だけだな。ノブヤス、戻って皆に伝えろ。そろそろ出陣すると」


「了解しました。総隊長」


 信康はヘルムートに敬礼をして、傭兵部隊に命令を伝える為に来た道を戻って行った。


 傭兵部隊が布陣している所に信康が着くと全員、出陣準備を整えている最中だった。


「早いな、もう準備しているなんて」


「当たり前だ。俺達はこれで飯を食っているからな! お前も早いとこ準備しな」


 バーンが大きい声で 信康に準備しろと急かした。


「ああ、分かったよ。と言っても俺の準備はこれだけで良いがな」


 信康は篭手と胸当てをして、長年愛用している愛刀を腰に差した。


 ルノワも服の上に、純白の鎧を着用していた。


「これで良しっ!」


 準備が整い鋼鉄槍兵団の戦列の最後が見えてきた頃には、ヘルムートとリカルドも戻って来た。


「ではこれより我等、傭兵部隊も進軍する。先頭は歩兵隊っ! その後に弓兵隊と魔法兵隊が続けっ! 今度の戦で、傭兵部隊の力を見せ付けるぞっ!!」


 ヘルムートが剣を天にかざした。


『うおっおおおおおおおおおおおお~っ!!!』


 傭兵部隊の全隊員も手か利き手に持っている得物を、天高く翳しながら鬨の声をあげた。


 プヨ王国軍が情報を得たでは、カロキヤ公国は、即刻カロキヤ公国軍一個師団二万と真紅騎士団(クリムゾン・ナイツ)一個旅団一万、合計で一個軍団三万を城郭都市アグレブの南方にあるパリストーレ平原に展開した。


 カロキヤ公国軍はプヨ王国軍が来る前に、更に進軍しようと思えば出来た。

 

 しかし、これ以上は地理に疎く進軍は危険であり、カロキヤ公国軍も野戦を望んだので、プヨ王国軍が野外演習時の軍事地区に指定している大平原であるこのパリストーレ平原を決戦の地に選んだのだ。


 プヨ王国軍が王都アンシを出陣して十日後の十五日に、アグレブを奪還する為に出陣したプヨ王国軍は待ち構えていたカロキヤ公国軍と真紅騎士団(クリムゾン・ナイツ)の混成軍と対峙した。


 プヨ王国軍が王都アンシからパリストーレ平原まで、その距離は百キロ以上離れている。しかし、プヨ王国国内の道路が整理されており且つ、道中の都市及び街や村が、事前に補給に協力してくれたお陰でプヨ王国軍は行軍だけで疲弊していなかった。


 プヨ王国軍は左翼を第三騎士団一個旅団一万、中央を第二騎士団一個旅団一万、右翼を鋼鉄槍兵団一個旅団一万が展開する。後方に傭兵部隊二個中隊三百を、予備部隊の一つとして配置。カロキヤ公国軍の混成軍の動きを待った。


 対してカロキヤ公国軍の混成軍の配置は、右翼を真紅騎士団(クリムゾン・ナイツ)一個旅団一万。中央と左翼をカロキヤ公国軍一個旅団一万ずつを配置した。


 その日の夕方に、第二騎士団の布陣している中央で軍議が行われるので、傭兵部隊総隊長兼連絡将校のヘルムートは、副隊長のリカルドを共なって軍議に参加した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ